専門家インタビュー

■第2回

震災後もオフィスビル、レジデンス系は安定

東証REIT指数は、5月上旬にほぼ1,090ポイントを回復。震災前の水準を取り戻しましたが、5月中旬以降はやや低下傾向をたどっています。今後のJ-REIT市場はどうなるでしょうか。みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏に話を伺いました。

震災から3カ月。REIT市場の動向はいかがですか?


みずほ証券チーフ不動産
アナリスト石澤卓志氏

石澤5月上旬に東証REIT指数はほぼ1,090ポイントを回復しました。これで震災前の水準を取り戻したわけですが、市場環境の好転によって、公募増資が2件行われました。具体的には、「オリックス不動産投資法人」と「ユナイテッドアーバン投資法人」です。 公募増資が行われれば、J-REIT市場の需給バランスが崩れますから、投資家にとっては投資リスクを高めることにもつながります。特にユナイテッドアーバン投資法人の公募増資は、金額的にも600億円近くに上り、リーマンショック後では最大級の公募増資になりました。

これだけ巨額の公募増資になると、やはりマーケット価格に大きな影響を及ぼすことになります。結果、一時は1,090ポイント近くまで上昇した東証REIT指数でしたが、5月中旬以降は1,070ポイントから1,020ポイント程度で一進一退を繰り返しています。公募増資を行うということは、市場の需給バランスから考えれば供給増になりますから、どうしても価格には下落圧力がかかります。

■図表1:東証RIET指数
図表1

 

REITの公募増資は今後も増える傾向にあるのでしょうか。

石澤ここしばらくは公募増資を行うREITが増えそうです。5月に公募増資を行ったオリックス不動産投資法人とユナイテッドアーバン投資法人については、3月に公募増資を実施すべく準備を行っていましたが、3月11日に起こった東日本大震災でREITの株価が急落したことから、公募増資を延期していました。それが、4月以降、徐々に市場が回復してきたため、5月に入って公募増資に踏み切ったというわけです。恐らく7月以降は、1カ月につき数銘柄の公募増資が行われると予想されます。

何しろ、2007年6月に米国のサブプライム問題などの影響で国内REIT市場が崩れてから、増資が困難な状況が続いてきました。ちなみに、国内REITの多くは借入比率を40〜50%に抑える方針なのですが、昨今は50%を超えているREITが、上場しているREITの半分近くを占めるようになりました。このようなREITは、財務体質を改善させる目的で、公募増資に踏み切ってくる可能性があります。前述したように、1カ月に数銘柄程度が公募増資を行うという前提で考えても、当面は続くと考えられます。公募増資によって集める資金の額にもよりますが、こうした公募増資の積極化は、株価の下落につながる恐れがあります。

もっとも、マーケットの需給バランスという点からすると、あまり歓迎できない公募増資ではありますが、投資家の反応は悪くありません。いや、むしろ投資家はREITの公募増資を歓迎しています。たとえば5月に公募増資を行ったオリックス不動産投資法人は機関投資家の募集倍率が20倍にもなったようです。それだけ、大勢の投資家の関心を集めていたのです。

前述したように、今後も公募増資が増えるということはREIT市場にとって、原則としてはプラス材料ではありません。ただ、このように高い人気を持つということから考えると、一時的にマーケット環境が悪化したとしても、長い目で見れば成長要因になる可能性が高いともいえるでしょう。

■図表2:J-REIT の資金調達
図表1

 

公募増資による資金調達が活発化している理由は?

石澤公募増資の目的は、前述したように、財務体質の改善にあります。借入比率が50%を超えるREITは、金利負担も重くなりますから、それを改善させるためにも、やはり自己資本の増強が必要になります。

ただ、財務体質の改善のみに目的を絞った公募増資は、昨今の投資環境下においては、あまり評価されません。大事なことは、いかにして成長ストーリーを描けるかということです。つまり、公募増資によって調達した資金を、次の成長プロセスにつなげる絵をしっかり描けるかどうか、これをエクイティストーリーと呼んでいますが、その内容によって、公募増資が成功するかどうか決まってきます。

ここ数年間で、国内の不動産価格は低下していますから、それだけ物件の投資利回りは上昇しています。まさに今は、不動産投資のチャンスともいえるのですが、残念ながら投資できる物件が不足しているという問題があります。これがREITの成長ストーリーを描きにくくしている要因でもあるのですが、一部のREITは、スポンサー企業から物件を優先的に取得し、それをファンドに組み入れることによって、成長ストーリーが描ける状態を維持しています。その意味では、REITの成長ストーリーを担保するうえで十分な優良物件を多数保有している、しっかりしたスポンサー企業が付いているREITは、投資対象として望ましいということになります。

 

震災から3カ月が経過しましたが、REITへの影響はほとんどなかったと考えても良いのですか?

石澤そうですね。確かに一部のREITは、震災によって組入物件に被害が生じたということもありましたが、運用に影響をおよぼすほどのものではありませんでした。また、REIT全体からすれば、東北地方に所有する物件が少なかったこともあってマーケット全体にマイナスの影響が及ぶということまでには至りませんでした。建物被害が少なかったことについては色々な見方がありますが日本の建物の耐震構造が優秀であることが、今回の一件では立証されたと思います。したがって、運用そのものに大きな問題が生じるということは、恐らくないでしょう。

ただ、ひとことで「REIT」といっても、どのような不動産物件を組み入れているのかによって、市場での評価は大きく変わってきます。

たとえば、オフィスビル系やレジデンス系のREITは、建物被害が少なかった上に、相変わらず物件に対するニーズは旺盛なので、市場での評価も堅調に推移しているのですが、ホテル系や商業施設系になると、消費・宴会・旅行の自粛などが、組入物件の稼働率や賃貸収入の動向に影響を及ぼしています。

 

REITに組み入れられている物件の種類によって、状況が大きく変わるということですか。

石澤その通りです。たとえばホテルを組み入れたREITなどは、まさにその典型例のひとつといえるでしょう。震災の影響は直接的に受けなかったものの、福島第一原発の事故という大きな問題が発生したため、海外からの観光客が大幅に減少しました。

その結果、先の見通しが全く立たない状況に追い込まれているREITもあります。リゾート系ホテルの場合は、外国人観光客の減少が今後もファンドの収益に大きな影響を及ぼしてくるでしょうし、ビジネスホテルを中心に組み入れているREITでも、日本国内の景気が低迷してビジネス需要が減少すれば、どうしても稼働率は低下せざるをえません。したがって、ホテル系のREITは、当面、厳しい状況が続きそうです。

商業施設も苦しい状況下にあります。特にGMS(大規模小売店)や百貨店を組み入れているREITは、テナントから家賃の引き下げ要請を受けているところもあります。家賃の引き下げ要請を受け入れれば、配当利回りの低下につながる恐れがありますから、やはり厳しい環境下にあるといえるでしょう。ただ、商業施設を組み入れているREITでも、苦しいのはGMSや百貨店を組み入れているREITの話であって、食品・スーパーなど地域密着型の店舗を組み入れているREITは、比較的安定した経営を維持しています。同じ商業施設を組み入れたREITでも、投資対象物件の違いによって、収益に格差が生じてきています。

あるいは、倉庫を組み入れたREITについては、今後のエネルギー市場の動向次第で収益環境が変わる可能性があります。エネルギー環境が変わってトラック業者などの燃料コストが上がれば撤退するトラック業者も出てくるでしょう。トラック業者の淘汰が進み、倉庫の需給バランスが崩れて、倉庫の賃料が値下がりするような状況になったら、その影響は倉庫を組み入れているREITの配当利回りなどにも、マイナスの影響を及ぼしてくる恐れがあります。

 

今後のREIT市場の動向をどう見ますか?

石澤これまでお話したことを整理すると、公募増資がこれからも続くというのは、市場の需給バランスから考えるとマイナス要因ではありますが、中期的にはプラスへと転じていく可能性があると見ています。実際、投資家の関心も高く、5月下旬あたりから、徐々に地方の金融機関などでも、REITへの投資を検討する動きが出てきました。さらに言えば、REITを組み入れて運用するファンド・オブ・ファンズも人気を集めているので、そこを通じてREIT市場に資金が流入しやすくなっています。

恐らく、大規模余震や原発事故の深刻化などのネガティブな材料が出なければ、8月中に東証REIT指数は1,200ポイント前後まで上昇すると見ています。ただし、そこからさらに上がるかどうかについては、やや疑問です。というのも、REITの株価が上昇すれば、それだけ配当利回りが低下してしまうからです。

全体的に見ていると、配当利回りが4%を割り込むと、割高感が生じてくるようです。ちなみに現状だと、配当利回りの平均が4.9%くらい。そして東証REIT指数が1,200ポイントになると、配当利回りが4%を割り込んできますから、今後の相場見通しを言えば、恐らく東証REIT指数で1,200ポイントを超えていくには、かなり上値が重いと考えています。

■図表3:J-REIT の平均配当利回り等の推移(時価総額加重平均)
図表1

 

 

掲載日:2011年7月11日

石澤卓志(いしざわ たかし)氏プロフィール
みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。
慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。
長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。

 

 

TOP