専門家インタビュー

■第5回

2011年の国内REIT市場総括

国内では景気低迷とデフレが長引き、株価は低迷を続ける一方、海外ではユーロ加盟国の債務危機がクローズアップされ、2011年の国内外マーケットは波乱含みの展開が続きました。こうしたなか、J−REIT市場は創設から10年という節目を迎えました。J−REITにとって、2011年はどういう年だったのでしょうか。みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏に、話を伺いました。


みずほ証券チーフ不動産
アナリスト石澤卓志氏

まず、この1年間のマーケット動向から伺いたいと思います。

石澤2011年は、東証にREIT市場が創設されて10年目という節目の年でした。とはいえ外部環境の厳しさに翻弄される形で、東証REIT指数は年末にかけて下落が続きました。

2011年の年明け、東証REIT指数は1,100ポイントを超えた水準でスタートしました。サブプライムショック後、REITへの投資を控えていた地方金融機関の間でも、少しずつではありますが、運用先として再びREITに投資しようという動きが出始めた矢先、東日本大震災が起こりました。これによって東証REIT指数は1,000ポイントを大きく割り込み、最も安いところで838ポイントまで下落しました。

もっとも、東日本大震災では、津波による被害は甚大だったものの、地震の「揺れ」によって倒壊した建物はほとんどありませんでした。特にREITに組み入れられている物件は、被害が軽微だったこともあり、REITに対する信頼感が徐々に戻っていきました。これが5月初旬にかけての流れです。

この時点で、東証REIT指数は1,300ポイントを目指す動きになるのではと見ていたのですが、そこから先は失速状態に陥り、2011年10月21日以降は数度に渡って年初来最安値を更新し、11月28日の終値は805ポイントと、およそ2年8カ月振りの安値を記録しました。この推移を見る限り、2011年の国内REIT市場を取り巻く環境は、非常に厳しかったと言えるでしょう。

 

年末にかけて東証REIT指数が失速状態に陥った理由は何だったのでしょうか。

石澤第一は、やはり株式市場全体の低迷でしょう。ユーロ加盟国の一部に債務問題が浮上した結果、秋口にかけて株価が大きく下落しました。2011年は、リスク・オン、リスク・オフという言葉をよく耳にしましたが、ユーロ債務問題が浮上すると、マーケットではリスク・オフの動きが広まり、株式などのリスク資産が売られやすくなります。結果、J−REITも不動産株の一つと見られて、売り圧力が強まりました。実際、10月後半には商いそのものが非常に薄くなり、1日あたりの取引高も月末を除いて40〜50億円程度しかありませんでした。それだけ、投資家のJ−REIT市場に対する関心が薄くなったということです。

第二に、J−REIT市場に参加している投資家層の薄さが挙げられます。J−REITの投資家別保有比率を見ると、金融機関が全体の46.4%を占めているのですが、このうち地方銀行と投資信託がかなりの部分を保有しています。この両者の投資行動が、J−REITの価格下落圧力を一段と強めました。というのも、両者ともに、価格下落局面で売りの主体になってくるからです。

第三は、J−REITが行った増資です。2007年のサブプライムショック以降、J−REITは価格が急落したことによって、増資が難しい状況に陥りました。結果、新しい物件を組み入れるのに必要な資金を、金融機関からの借り入れで賄っていたのですが、借入比率が上昇し財務内容が悪化しました。その一方で、不動産価格の低下によって、不動産購入に有利な環境となったため、大幅なディスカウントでも増資を強行する形になり、それがマーケットの需給バランスを崩してしまいました。

これら3つの要因が絡み合って、2011年の後半にかけて東証REIT指数は、下げ足を速める結果になったのです。

 

地方銀行と投資信託が売りに回ったのはなぜですか?

石澤たとえば地方銀行の場合、REITをはじめとする保有資産については、あらかじめロスカット・ルールが決められています。具体的には、購入した価格から2〜3割下げたところで強制的に売却し、損失を確定させなければならないというものです。このロスカット・ルールが存在しているため、地方銀行による売りが売りを呼ぶという結果になり、東証REIT指数は、ズルズルと下げていきました。

また投資信託についてですが、2011年の前半は、グローバルリート(海外のリート)に投資するタイプの投資信託が人気を集めました。なかには分配金利回りが20%を超えるという触れ込みのファンドもありましたが、なかには、非常に無理な建てつけのファンドも少なくありませんでした。

特に通貨選択型ファンドのなかには、ファンドに組み入れられているREITの配当利回りが5%、海外通貨の利回りを上乗せして15%以上の分配金利回りを標榜するものもありましたが、8月以降、ユーロ債務危機に引きずられるように、ブラジルレアルなどの高金利通貨が下落に転じたことから、通貨選択型ファンドの運用成績が急落しました。運用に不安を感じた投資家の解約が増加し、解約に対応するためにREITを売却するファンドが増加しました。

結果、J-REITの投資家の約半数を占める金融機関のなかでも、更に中心的な存在である地方銀行と投資信託が売りに回ったのですから、J-REIT市場の売り圧力が強まり、東証REIT指数が下落に転じるのも当然といえるでしょう。また、ユーロ債務問題の影響によって、ヘッジファンドなどのリスクマネーが安値を拾う動きが弱まっていたことも、下落に拍車をかけたと思われます。

 

2011年にかけてマーケットを押し下げた売り圧力は、
今後、徐々に弱まっていくのでしょうか。

石澤まず、ネガティブな材料から見ていくと、ユーロ債務危機に絡んだ株式の売り圧力は当面、解決方法が見当たらないので、しばらく尾を引くことになるでしょう。これに加えて、投資信託の解約対応のための換金売りもしばらく続きそうです。これが目下、J−REITの売り要因になってきます。

これに対して、ポジティブな材料は何かというと、市場価格自体は株価の下げに引きずられて、年初来安値を何度も更新しましたが実は運用の中身自体は決して悪くないという点に、注目していただきたいと思います。分配金が安定しているにもかかわらず株価が低下したため、現在、J-REITの平均配当利回りは6%を超え、魅力的な金融商品になっています。

賃貸市場は堅調ですし、何よりも東日本大震災後、テナントの防災意識が高まったため、入居しているビルのグレードに対する関心が、非常に高まってきています。大震災以前は、賃貸料が少しでも安いところに移転するという、リストラ絡みの移転が中心でしたが、大震災以降は、防災意識の高まりから、グレードの高いところに移転するという傾向が強まってきています。J-REITが保有する不動産は総じてグレードが高いので、この動きはプラス要因になります。

ユーロ債務危機にともなう株式市場の下げにともなう売り、投資信託の解約に起因する売り圧力は当面、続くかも知れませんが、一方で、グレードの高い物件を中心にしたテナント需要の高まりや、配当利回りの上昇、さらには地方銀行が少しずつ買い意欲を高めてきているという点は、ポジティブに受け止めることが出来ます。

したがって、2012年のJ−REITマーケットは、徐々に落ち着きを取り戻す展開になると見ています。

 

 

掲載日:2012年1月20日

石澤卓志(いしざわ たかし)氏プロフィール
みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。
慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。
長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。

 

 

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