専門家インタビュー

■第6回

2012年J-REIT市場の見通し

年初、高値から始まり、年末にかけて年初来安値を更新した、2011年のJ-REIT市場。果たして2012年はどうなるのでしょうか。2011年にはさまざまな要因で売り圧力が強まりましたが、それらの要因は、果たして解消されていくのでしょうか。今後のJ-REIT市場の動向について、みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏に伺いました。


みずほ証券チーフ不動産
アナリスト石澤卓志氏

2012年のJ-REIT市場の動向は、
どのように見ていますか?

石澤東証REIT指数は、2011年12月時点でおおよそ840ポイントと低迷が続いています。今後、900ポイント台まで戻す局面はあると思いますが、2012年3月までは、上がったとしても950ポイントが限界でしょう。

地方銀行をはじめとする金融機関の投資意欲は徐々に戻ってきていますが、一方で2012年は増資も増えるでしょう。特に、2011年中は株価が低迷していたため、なかなか増資をしにくい環境でした。そのなかでディスカウント増資に踏み切るREITもいくつか見られましたが、市況の悪化によって、多くのREITが、増資を見送ったと見られます。

しかし、REITが成長していくためには、運用対象となる優良物件を組み入れていかなければなりません。

また、LTV(有利子負債比率)が50%を超えるなど、財務内容が悪化している例が多いため、増資によって自己資本を調達する必要があるのです。

こうした増資が、2012年4月にかけて増えてくると思います。特にマーケットの環境が少しでも改善の兆しを見せていれば、それまで増資をしたくてもせずに我慢してきた多くのREITが、一斉に増資に踏み切る可能性があります。

問題は、増資が相次いだ時、マーケットにどのような影響が及ぶのか、ということです。増資によって発行済み株式数が増えれば、マーケットの需給バランスは悪化します。もちろん、市況が堅調であれば、多少、増資案件が増えたとしても、マーケットは着実にそれを消化していきますが、昨今のように市況が悪い時に増資が相次げば、相場を崩す要因となる場合が多いのです。現在、400億円超の大型の増資を予告している銘柄もあります。

したがって、2011年中を通じて大きく下げた分の戻りはあると思いますが、そこから更に上値を追って、どんどん値上がりしていくような環境にはならないと見ています。2011年のように、マーケットが急落することはなく、落ち着きは取り戻していくかと思いますが、しばらくの間は大きく上昇することもないということです。

2011年のように、マーケットが急落することはなく、落ち着きは取り戻していくかと思いますが、しばらくの間は大きく上昇することもないということです。

 

そうなると、2012年もJ-REITにとっては厳しい1年になるということでしょうか。

石澤現物不動産の市況動向は、概ね底を打ったものの、まだしばらく厳しい状況が続くと見ています。やはり、ここまで実体経済が悪化すると、さまざまなところにマイナス要因が出てきてしまいます。

たとえば、2011年の春先に一段落したかに見えた大型テナントの移動ですが、同年秋口から再び活発になってきました。特に金融機関の業績低迷によって、リストラの方針を明確にするために移転するという動きが、一部で顕在化してきました。金融機関だけでなく、アパレルやエレクトロニクスなどの分野でも、経費リストラに絡んだオフィス移転が増えてきました。

2012年は東京駅周辺の丸の内・大手町地区などで再開発事業が相次いで完成し、大型オフィスビルの供給が増える見込みです。結果、オフィスビルの需給関係が崩れる恐れがあります。

このように、現物不動産のマーケットにも不安材料がたくさんあり、その意味では2012年の不動産市況は、相当に厳しいと見ることができるのですが、同時に期待すべき点もあります。

オフィスビル市場については、東日本大震災の影響でテナントの防災意識が高まり、安全性の高い新築ビルに需要が集中する傾向が強まっています。

古い建物は需要が減少する一方、新しい建物に対するニーズが高まり評価されるものとされないものの差が歴然と表れてくると予想されます。もちろん、古い建物だとしても、しっかりメンテナンスされている物件であれば、十分に高い評価を得られるようになるでしょう。このように、良い物件が正当な評価を受けられる環境になるはずです。

現物の不動産市況はまだまだ厳しい状況が続きそうですが、そのなかでも少しずつではありますが、将来に期待が持てる話も出てきています。

またREITそのものの評価軸が変わってくる可能性もあります。2011年は、ユーロの債務危機によって世界的に株価が混乱に陥り、結果的にJ-REITのマーケットも急落しましたが、今後は安定資産として、J-REITが見直される可能性があります。日本におけるREITの位置づけは、米国のように株式とみなされるのではなく、高利回りと安定配当が魅力の債券の一種としてみなされている側面が強いからです。

そして、もうひとつのポジティブな材料は、J-REITの資金調達がやりやすくなる環境が整っていくということです。

たとえば地方銀行のなかには、J-REITの株式(投資口)に投資するのではなく、レンダー(貸し手)としてJ-REITの運用に参加するところが増えてきています。つまり、有価証券を運用する一環ではなく、銀行の本来業務である融資の対象としてJ-REITに取り組む例が増えているのです。

J-REITのエクイティ投資には、株価が下落するリスクがつきまといますが、J-REITは優良な不動産を保有しているため、融資対象としての安全性は高いと見られています。リーマンショックの直後に経営破綻したJ-REITが1例だけありましたが、債務の弁済率は100%で、銀行に損害はほとんど生じませんでした。

 

どのようなREITが買われるのでしょうか。

石澤J-REITに対する評価は現状、3極化しています。上位REIT、中堅REIT、そして下位REITというのがそれです。

上位REITには、スポンサー企業が有力な不動産会社や優良資産を保有する名門企業であるなど信用度が高く、財務内容なども安定した銘柄が中心です。

中堅REITは、スポンサー企業の知名度がやや劣るものの、運用実績が非常に良いところです。ここは株価も割安水準に放置されているケースが多く、最も投資妙味が高いといっても良いでしょう。

そして下位REITですが、これはスポンサー企業の信用力に難点がある他、運用実績や財務内容に不安要因が多いものです。

基本的に中堅REIT以上であれば、資金繰りに窮するようなことにはならないでしょう。実際に投資する場合は、各J-REIT企業の財務情報をホームページで確認して、中堅REIT以上の中から投資することをお勧めします。

 

 

掲載日:2012年1月20日

石澤卓志(いしざわ たかし)氏プロフィール
みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。
慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。
長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。

 

 

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