■第7回

賃貸市況の好転でREITに再投資する動きも

年末にかけて下落基調を続けてきた東証REIT指数ですが、1月に入り徐々に下落に歯止めがかかりつつあります。増資懸念、ユーロ債務危機問題など、Jリート投資のためには国内外にいくつかのネガティブ要因はありますが、今後の見通しについてみずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏に話を伺いました。


みずほ証券チーフ不動産
アナリスト石澤卓志氏

東証REIT指数の下落ペースに歯止めがかかってきたようですね。

石澤東証REIT指数の値動きを見ると、2012年の年明け当初は横ばいで推移していましたが、中旬にかけてはやや下押ししました。この動きは、2件の増資案件があったことが大きな要因です。ただ、1月下旬にかけては増資の募集期間が実質的に終わったこともあり、徐々に市場では落ち着きを取り戻してきました。結果、下旬にかけてはやや戻すという場面が見られたわけです。

これまでREITの増資が行われると、募集期間中に価格が大きく下落する傾向があったのですが、12月の初めから実施されたカラ売り規制の効果が大きかったようです。具体的には、公募増資銘柄についてはカラ売りを規制するというものですが、これによって今回のREITの増資に関しても、募集期間中に大きく価格が下落せずに済みました。

逆に言えば、これまで相当理不尽な理由で価格が下がってきたケースがあったということにもなるでしょう。もちろんカラ売り規制については出来高が減る、あるいは取引を阻害するといった意見もあるのですが、ことREITについて言えば、カラ売り規制が上手くワークして価格の安定化に寄与したといえるでしょう。

恐らく、これから先も増資銘柄が出てくると思いますが、規制強化によって増資に対する投資家の懸念は、相当程度まで軽減されたのではないでしょうか。

ファンドに組み入れられている物件などからも、REITの運用自体は安定していると見て良いと思います。そうであるにも関わらず、ここまでREITの価格が下落したというのは、明らかに合理的ではない要因が背景にあったと考えられます。それが、今回のカラ売り規制によって、かなり修正されたわけです。今後、REITの価格が想定外に下げるというような事態は、起こりにくいと考えられます。

■図表1:東証Jリート指数
図表1

 

不動産の市況自体は回復しているのでしょうか。

石澤足元で見ると、オフィスビルの空室率が上昇していますが、これは昨年11月に「住友不動産新宿グランドタワー」が7割稼働でオープンするなど、新築ビルの供給が増加したことが原因です。新築ビルのテナント募集は比較的好調ですが、全てのビルがオープン時から満室になるわけではありません。これについては、時間をかければ徐々に埋まっていくので、それほど問題にはならないと見ています。昨年、今年とオフィスビルの供給が多いので、多少空室率が上がるのは止むを得ないところでしょう。

ただ、オフィス供給に伴う需給バランスの悪化については、どうやら最悪期を脱したようだというのが市場関係者の共通認識です。加えて震災以降は、防災意識の高まりによって、グレードの高い物件にテナントが集中する傾向が見られますから、新築ビルについては比較的空室率が低く推移しています。ビル事業者の感覚から言うと、決して環境は悪くないという状況です。

また賃料に関しても、これまでは下がりっぱなしという状態が続いていたのですが、これもある程度、底を打ってきたようです。今年は丸の内・大手町エリアを中心に、多数の大規模開発が完成する年なのですが、こうした新築物件については比較的高い賃料で成約した例が見られます。一方で既存の物件には金融機関などのリストラによって空室が増加し、賃料を引き下げた例も見られます。結果的に平均賃料は低下しますが、賃料の上限は新築ビルを中心に上昇例が増えるため、そう大きく値崩れするようなことにはならないと思います。

渋谷では東急文化会館跡地に「渋谷ヒカリエ」が4月にオープンするのですが、こちらはすでに満室で、賃料(坪当たり)も4万円台とかなり高く決まっています。こうした動きが見られるようになったことからも、賃料はボトムを打ってきたと見て良さそうです。 あと、オフィスビルの大量供給についても、東京23区については今年前半でピークを打ち、来年再来年は半分以下に減少する見通しです。したがって、REITの運用についても安心感が出てくるでしょう。

■図表2:東京都心5区のオフィス空室率の推移
図表1

 

欧州問題などの外部環境は、REITの市場価格にマイナスの影響を及ぼしませんか?

石澤欧州問題によって、全般的に株価が不安定な状態になっていますし、国債についてもやはり不安定な動きになっていますから、現状ではなかなか安心して投資できる物件が少ない状況になっています。

これまではREITもリスク資産のひとつと見られていましたから、景気の先行き不安が高まっているなかではなかなか資金が流れ込んできにくい状態が続いていました。とはいえ、REITはもともと運用の中身はしっかりしたものが中心ですし、実際に運用成績も悪くありませんから、そこに注目する投資家も徐々に増えています。

なかでも地方銀行などの国内金融機関は、今年の4月以降、REITへの投資を本格的に検討する動きを見せています。1〜3月は、決算直前なので投資しにくい状況にありますが、4月になって新年度入りすれば、新しい投資計画を実施することになるため、REITへの投資も積極化する可能性があります。こうして金融機関によるREIT投資が本格的に再開されれば、REITの価格は上昇傾向をたどっていくでしょう。

もちろん、全く懸念材料がないわけではありません。

第一に景気動向。日本と欧州の経済的なつながりは、それほど強くはありません。したがって欧州問題が深刻化したとしても、日本経済に直接的な影響は小さいと考えています。

ただ、米国や中国の景気が減速するため間接的に日本経済への影響が懸念されますが、あくまでも間接的な影響ですから、影響を抑制する手立てはあるでしょう。政府見通しでは、2012年度は復興需要もあるので実質GDP成長率は2.2%と、比較的高い伸び率が見込まれています。政府見通しは、所得・雇用環境についてある程度の改善が前提条件となっているのに対し、実際の所得・雇用環境は回復が遅れているため、過度な期待はできませんが、2011年度に比べると、2012年度の日本経済は比較的、強い動きになるはずです。

 

国内REIT市場は底打ちから回復へと向かうのでしょうか。

石澤今年4月以降は徐々にREITの価格が上昇傾向をたどってくると見ています。現在、東証REIT指数は800ポイント前半の値動きですが、1月下旬から上昇傾向がはっきりしてきましたので、900ポイントの半ばくらいで3月を終わらせることができるのではないでしょうか。

4月以降は国内金融機関などの投資が本格化して、1,000ポイントを超える動きが期待できると見ています。もし、これからマーケットが堅調に推移すれば、今年はいくつかの新規上場にも期待できるでしょう。今、東急不動産が2本のREITについて上場準備を進めていますし、ケネディクスが住宅専門REITの上場を計画しています。さらに、海外系REITにも新規上場に向けた動きがあります。

それ以外にもいくつかのファンドがREITを新規上場させたいという意向を見せているようです。また、日本のデベロッパーにも、住宅関連のREITを新規に上場させたいという意向が見られます。さらに市況が回復すれば、他にも上場を目指そうと考える企業が出てくると予想されます。今年はREIT市場にとって前向きの話が増えていくと思われます。

投資家別にみると、今、欧州の債務問題で外資系金融機関が動きにくい状態にあります。またヘッジファンドもカラ売り規制で動きにくい。その一方で価格が安定してきますから、投資信託など中長期的に投資する投資家が、REITの投資を積極的に行ってくると見ています。

需給面で見ても、昨年、REITの価格を大きく下落させた金融機関のロスカットが峠を越え、投資信託の解約売りも一段落したようですので、この点もREITの価格上昇を下支えることになるでしょう。

 

 

掲載日:2012年3月30日

石澤卓志(いしざわ たかし)氏プロフィール
みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。
慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。
長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。

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