■第9回

国内REIT市場。これからの注目材料、不安要素とは

増資による資金調達や新規上場など、資金調達の場としても、ようやくマーケットが正常化に向けて動き出した感のある国内REIT市場。これからの注目材料、そして不安要素には何があるのでしょうか。みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏に伺いました。


みずほ証券チーフ不動産
アナリスト石澤卓志氏

国内株式市場は4月前半から調整色を強めていますが、
REIT市場の動向はいかがですか?

石澤国内REIT市場は、全体的に見て回復局面にあるのですが、足元で言えば、やはり株安の影響を受けています。日経平均株価は、3月27日に直近高値の10,255円を付けた後、4月11日には9,388円まで下押ししました。それにともない、東証REIT指数も、4月2日時点では1,004ポイントまで上昇しましたが、その後は960〜980ポイントの間で推移しています。

このように、株安の影響を受けてはいますが、REITのパフォーマンス自体はしっかりしています。配当利回りベースで見ても5%台を確保していますし、個人投資家の関心も高まってきています。実際、3月に開催された不動産証券化協会主催の「個人投資家のためのJリートフェア2012」では、4,000人もの集客がありました。配当利回りを考えると、価格が割安な現在は、投資しやすい環境にあると言えます。REITへの投資が積極化するのはこれからで、それにともなって東証REIT指数の上昇も期待できそうです。

■図表1:東証REIT 指数等の推移
図表1

 

やはり上位REITが物色の対象になりますか?

石澤REITには、(1)スポンサー企業が有力な不動産会社や、優良資産を保有している名門企業であり、信用力が高く、財務内容が安定した上位REIT、(2)スポンサー企業の知名度はやや落ちますが、良好な運用成績を維持している中堅REIT、そして、(3)上記以外のグループという分類ができますが、恐らく真っ先に動くのは上位REITでしょう。

新年度に入り、地方の金融機関などもREITへの投資に食指を動かしていますが、彼らが投資対象とするのは、やはり安定性が高い上位REITが中心になります。これから徐々に投資を始めていくので、まずは上位REITから動意づくと見ています。

ただ、上位REITの場合は、すでにある程度買われているので、配当利回りがやや低下しています。現状では、配当利回りが4%を下回るものも出ています。安定性という点では抜群ですが、個人が投資するのであれば、もう少し長期的な視点で、まだあまり買われていない中堅REITの中から、投資対象を探した方がメリットは大きいと思います。

なお上記以外のグループについては、今後、再編の動きも出てくる可能性もありますし、長期保有を前提にした場合は、十分な検討が必要です。

 

国内REITにとってのプラス要因、マイナス要因は、何が想定されますか?

石澤まずマイナス要因から考えてみましょう。懸念されるのは、やはり需給です。大型増資に加えて、新規上場銘柄も登場してきます。いずれも複数案件が予定されているので、これらのファイナンス案件を消化できないと、再びマーケットが低迷する恐れがあります。

ただ、正直なところ、この点についてはあまり懸念していません。昨年12月に施行された空売り規制によって、ファイナンスを行っても株価が大きく下げるということが、少なくなってきたからです。恐らく、これから続く大型ファイナンスについても、十分吸収できると見ています。

他のマイナス材料としては、欧米の経済情勢です。基本的に、国内REITの動向が、海外要因に左右される部分は少ないのですが、やはり市場のセンチメントという点を考えると、どうしても影響を受けざるを得ないのでしょう。したがって、欧米の株式市場などに混乱が生じた場合は、国内REITも下がる恐れがあります。

一方、国内要因としては、消費税の増税論議に加え、原発問題も株価の重石になっています。国内で稼働している原子力発電所が稼働停止に追い込まれたことによって、この夏の電力不足が懸念されます。昨年もそうでしたが、電力不足が景気の足を引っ張る恐れはあるでしょう。

これらの懸念材料はありますが、日本経済の実体そのものは、決して悪い状況ではありません。結局のところ、国内のマイナス要因については、政策面の先行き不透明感による部分が非常に大きいと思います。この点については、きちっとした議論が行われ、政策決定が行われれば、自然と解決していくはずです。また、海外要因については、前述したように、少なくとも国内REITの運用そのものに、何ら悪影響を及ぼすものではありません。

むしろ、単にマーケットのセンチメントに引きずられる形で、国内REITの価格が低下しているのだとしたら、そこは絶好の仕込み場だと考えます。配当利回りも高水準ですので中長期的に保有したいという投資ニーズをお持ちの方にとっては、有望な投資対象になるでしょう。

 

 

不動産市況自体はどうですか?

石澤このところ、不動産市況自体は一段落というところです。昨年秋口は、分譲マンションの売れ行きが堅調でしたが、それは震災によって一旦大きく落ち込んだ需要が、昨年秋口から出てくるようになったところに、物件が販売されたからです。

先送りされた需要が一気に表に出てきたわけで、その意味では特需のようなものでしたが、その動きが一巡した今、分譲マンションの販売動向は、やはり景気の動きに左右されることになります。今後、国内景気が回復へと向かうのであれば、自然とマンション需要も高まっていくでしょうが、このまま景気が縮小してしまったら、マンション需要が後退することも考えられます。

大都市の不動産市況ですが、大阪は今年秋口からオフィスビルの大量供給が始まり、2013年以降、梅田に「グランフロント大阪」をはじめとする大規模開発が相次いで完成する見込みです。これが市況の悪化につながります。また名古屋では、2013年夏頃から大規模再開発が多数、完成する見込みで、これがオフィスビル市況の回復を遅らせる恐れがあります。

ただ、一方で東京の不動産市況は、まさに今が過去最悪の状況にありますが、恐らく最悪の局面は乗り切ったと思われます。景気の先行き不透明感が不動産市況に悪影響を及ぼす恐れはありますが、秋口以降の需給動向は、決して悪くはありません。

ちなみに東京のオフィスビルは、東京駅前の再開発がどんどん進められていますが、なかには空室が目立つビルも出てきそうです。大規模再開発に伴うオフィスビルの大量供給で、恐らく9月までは厳しい状況が続くでしょう。とはいえ、10月以降は徐々に改善していくと思われます。大阪、名古屋の不動産市況が悪化したとしても、その頃には、東京の不動産市況が改善の兆しを見せているはずです。

 

大阪や名古屋の不動産市況悪化が、REITの運用成績に悪影響を及ぼす恐れはありますか?

石澤ざっくり言うと、今、国内REITに組み入れられている物件のうち4分の3は、東京圏の物件です。したがって、仮に今後、大阪や名古屋の不動産市況が悪化したとしても、その影響は軽微なもので済むでしょう。

基本的な認識として、ここから先、国内REITの市況がどんどん悪化していくという状況は、考えにくいと思います。景気の先行き不透明感という材料はありますが、過去、急激に価格が暴落した時のようなネガティブ要因が、近い時期に持ち上がってくるとも思えません。したがって、国内REITの価格がこれから先、大きく下落するようなことにはならないと思います。

 

 

掲載日:2012年5月10日

石澤卓志(いしざわ たかし)氏プロフィール
みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。
慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。
長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。

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