専門家インタビュー

■第10回

7〜9月はオフィスREITの反発に注目

今年4月2日にかけ、1,000ポイントを回復した東証REIT指数だが、ギリシャ問題の再燃にともない、再び下落傾向をたどっています。ただ、REITの価格下落は、配当利回りの上昇につながるため、配当利回り重視の投資家にとって、REITの投資妙味は高まってきているのも事実。SMBC日興証券株式調査部シニアアナリストの鳥井裕史氏に、今、REITに投資する好機が到来しているのかどうかを伺いました。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

欧州危機の再燃で、再びリスクオフの状況が強まってきました。
REITの動向にも影響を及ぼしていますが、
マーケットの現状はいかがでしょうか。

鳥井まずREITの価格が、何によって影響を受けるのかという点から、お話ししましょう。REITの価格変動要因は大きく4つあります。

第一が借入状況です。REITは物件を取得する際に、外部からの融資などによって資金調達を行います。その借入金利の動向が分配金に影響を及ぼすことにより投資口価格の変動要因の一つとなります。

第二は保有物件の賃料収入の増減です。

第三は新たな物件取得で収益の上積みが可能かどうか。

第四がクレジット市場の動向です。具体的に言うと、REITの配当利回りは、CDSスプレッドに連動する傾向が見られます。つまり、CDSスプレッドが上昇すると、REITの配当利回りが上昇し、一方で価格が下落する傾向があります。

REIT市場の現状を分析するに際しては、以上の4点に注意する必要があります。

では、具体的に今のREIT市場がどういう状況にあるのかというと、まず借入状況は非常に良い環境にあります。何しろ長期金利が1%を割り込んでいる水準にありますから、新規物件を取得するために外部から借入を行うに際して、非常に低い金利コストで借入が出来ます。そのため、多くのREITが物件取得に積極的な姿勢を見せており、ポートフォリオ全体の賃料収入は、それなりに堅調です。

ただ、オフィスの大量供給が続いている関係もあり、夏場にかけてはまだ空室率上昇のリスクが残ります。それでも、一口当たり分配金は目減りすることなく、現状を維持できていることから考えると、新規物件取得による収益の上積み可能性も十分に高いと考えられます。

そしてCDS市場の動向ですが、こちらは年初から3月にかけて、欧州問題が一時的に和らいだこともあり、スプレッドが低下傾向をたどりましたが、4月以降は再びスプレッドが上昇傾向をたどっています。そのため、REITの利回りが上昇し、その分、投資口価格が下落しています。

 

現状だと、CDS市場のスプレッド上昇が、
REITの価格下落に影響を及ぼしているということですか?

鳥井そうですね。CDSスプレッドというのは、基本的にクレジットリスクが高まると上昇します。クレジットリスクが高まれば、それだけマーケットではリスクオフの動きが強まりますから、REITのような価格変動商品は、売られやすくなります。

このように、REITに対する売り圧力が強まり、価格が下落すると、それだけREITの分配利回りも上昇します。結果、CDSスプレッドとREITの分配利回りは同じような動き方をするのですが、前述したように、今のREITを取り巻く環境は、決して悪いものではありません。長期金利の低下で安い資金調達コストが実現していますし、それによって新規の物件を組み入れ、利回りを向上させる余地も生まれています。ただ現状は、投資家のリスク回避姿勢から、REITの価格に下落圧力がかかっているのです。

■図表1
図表1

 

投資家の売買状況はどうですか?

鳥井投資家別に売買動向を見ていくと、個人投資家は売り越しが続いています。ここで言う個人投資家の売買というのは、直接、REITを売買している個人投資家という意味です。基本的に個人投資家の場合、新規上場や増資を引き受けて、それを流通市場で売却しているというイメージです。つまり、流通市場を通じて積極的に売買を行っているという感じはありません。

個人投資家で直接、REITを売買しているのは、やはり個別銘柄の違いなどが分かり、自分自身で投資判断を下すことが出来る人が大半です。そうでない方は、REITを組み入れて運用する投資信託を購入しているようです。

そのREIT型投資信託ですが、ピーク時に8,000億円前後あった純資産残高が、今年1月時点で5,500億円程度まで減少しました。欧州債務問題でマーケットが荒れたため、REIT型投資信託を購入していた投資家の間で、解約する動きが広まったためです。ただ、その純資産残高も、現状では7,000億円程度まで回復してきました。つまり、直接投資では売り越しが続いている個人投資家ですが、投資信託を通じて積極的に資金が流入していると思われます。

それと、国内REITを保有している最大セクターである銀行は、4月以降、明らかに買い越しへと転じてきました。新年度がスタートして、ポートフォリオにREITを組み入れる動きが強まったためです。日銀によるREITの買い上げも、買い安心感を支えました。いずれにしても、投資信託と銀行による買い姿勢が鮮明になってきています。

 

個人が直接、REITに投資する場合、
どういう点に注意して銘柄を選べば良いのでしょうか。

鳥井やはり分配金利回りと、有利子負債比率との水準比較です。現在、国内REITの平均的な分配金利回りは5.7%ですが、もちろん、それよりも高い分配金利回りのREITは存在します。個人投資家で、分配金に注目している方は、少しでも高い分配金利回りのREITを選ぼうとしますが、一方で有利子負債比率が高いと、財務リスクが高いということになります。

有利子負債比率というのは、REITの財務リスクを判断するための指標になるものです。REITは、投資資金を債券発行や、銀行からの借り入れによって賄っています。したがって、無借金で運営するよりも、借入などを行った方が、レバレッジ効果が高まり、分配金利回りも向上します。

ただし、借入が多くなればなるほど、財務リスクが高まるともいえるでしょう。つまり、分配金利回りが高くても、有利子負債比率が高いREITの場合は、財務リスクが高く、安心して投資できるかどうかという点で疑問が生じてきます。

有利子負債比率については、各REITの財務戦略によっても異なってくるため、何パーセントが理想という基準はありません。

 

現在REITは投資対象として魅力的でしょうか。

鳥井前述したように、REITの分配金利回りは平均で5.7%もあります。現状、これだけの高い利回りで運用できる金融商品は、他に見当たりません。実際、REITの投資パフォーマンスは、国内株式市場のそれに比べて、はるかに有利な水準にあります。国内株式についてはTOPIXをベンチマークとして比較すると、2001年から2012年にかけてのREITのパフォーマンスは、配当なしの場合でマイナスですが、TOPIXに比べるとはるかにマイナス幅は小さく抑えられています。また、配当込みのリターンで比較すると、TOPIXがマイナス10%程度であるのに対し、REITの場合は60%程度のプラスになります。

それだけ配当利回りが高いということですが、このように高い配当利回りを継続的に受け取り続ければ、価格変動リスクも最小限に抑えられます。こうした点からも、REITは投資対象として魅力的であると考えることができます。REITのインカム積み上げ効果には、もっと注目しても良いのではないでしょうか。

■図表2
図表2

 

今後のREIT市場の見通しについて教えてください

鳥井ファンダメンタルズ面では、オフィスの空室率が改善されるかどうか、あるいは欧州問題が解決に向かうかどうかが注目ポイントになります。特に欧州問題については、足元で考えればREIT市場に直接的な影響を及ぼすものではないのですが、どうしても価格動向がクレジット市場の影響を受けやすいので、この先、さらに欧州債務問題が深刻化するようだと、REITの価格がもう一段下げる恐れが強まってきます。

ただ、2009年にREITへの資金繰りについて「不動産市場安定化ファンド」というセーフティネットが設けられたことから、銀行もREITへの融資には安心感を持っています。そのため、当面は資金繰りの面で窮地に立たされるようなことはないでしょう。リーマンショックの直後のように、資金繰り問題でREITが破綻するようなことにはならないと考えます。

また、オフィス需給については、今は空室率が高いという問題点がありますが、これも今年の夏場にかけて一段落するでしょう。恐らくは、回復傾向に向かうのではないでしょうか。その意味では、7〜9月期にかけて、オフィス型のREITが注目されると考えています。

政策面では、1,200億円という上限があるとはいえ、日銀によるREIT買い入れが実施されていますので、これが価格の下支え効果を生むでしょうし、「自己投資口取得の解禁」という、いわば自社株買いに近い制度なども検討されています。こうした材料を背景にして、REIT市場は徐々に堅調さを取り戻していくと思われます。

 

 

掲載日:2012年6月20日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券CM)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。InstitutionalInvestor誌「2012All-JapanResearchTeam」REIT部門で1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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