専門家インタビュー

■第11回

オフィス空室率改善と投信法改正が2大ポイント

6月4日に883ポイントまで下落した東証REIT指数ですが、7月前半にかけて回復。970ポイントに達しました。その後、若干の調整を経た後、再び上昇機運を強めています。当面、REITのマーケットは堅調に推移するのでしょうか。SMBC日興証券株式調査部シニアアナリストの鳥井裕史氏に話を伺いました。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

国内REIT市場の投資環境は、やや改善傾向というところでしょうか。

鳥井徐々に、国内REITにとっては、良い環境が揃ってきたと思います。特に、7〜9月は、2つの材料が国内REITの動向に大きな影響を及ぼすことになりそうです。

ひとつはオフィスの空室率が改善傾向を見せること。これによって、オフィス系REITにとっては追い風になります。

もうひとつは投資信託法が改正され、それが国内REITにとって、プラス要因になることです。

今回のREIT関連の投資信託法改正は、市場活性化のための規制緩和と、投資家保護を図るための規制強化という2つの側面から行われます。まず規制緩和では、ライツ・オファリングと自己投資口取得、さらに海外投資の実質解禁というのが3本柱になると考えられます。ライツ・オファリングというのは、発行体の資金調達手段を多様化させるためのもので、投資主全員に新株予約権を無償で割り当て、その予約権を行使した投資家から、資金を調達するという手法です。

一方、規制強化については、インサイダー取引規制を導入すると共に、既存投資主に不利なファイナンスを回避させるためのルール作りが行われると思われます。規制強化といっても、投資家にとってはプラスの効果につながるものと考えています。

 

オフィスの空室率が改善しているとのことですが、
その理由はなんでしょうか?

鳥井東京を中心に、新規のオフィス供給が増えたことにより需給バランスが悪化しましたが、これからしばらく大型の供給が減少します。加えて需要サイドですが、賃貸オフィス需要は2011年あたりから徐々に改善の兆しを見せるようになり、前年同月比の伸び率で見ても、2011年以降はプラスに転じてきました。このように、大型の供給が減る一方、需要が徐々に改善傾向を見せていることから、オフィスの空室率が低下傾向をたどるようになると予想します。

また、J-REITに組み入れられているオフィス物件の稼働率も、2011年以降は改善傾向が見られます。リーマンショックによって大規模なリストラが行われ、オフィススペースを減らしたことから空室率が上昇し稼働率は低下しましたが、それもようやく通常ペースに戻ってきました。今後供給が絞られれば、オフィス需要は改善へと向かい、それがオフィス系REITの運用環境改善へとつながっていくはずです。

■図表1:J-REIT保有物件の稼働率
図表1

 

海外物件の取得解禁は、
J-REITの運用成績にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

鳥井7月9日に開かれた成長ファイナンス推進会議のとりまとめを読むと、国内REITに関連して、いくつかの項目が明記されています。

2005年から2007年にかけて、REITの物件取得は1兆円を超えており、国内不動産売買市場における買い手としてのREITの割合がほぼ半分を占めていました。REITが積極的に物件を購入すれば、不動産価格が上昇して、デフレから脱却できる可能性が高まります。ちなみに、2012年は6月末時点で、今年のREITによる物件取得は4,985億円ですから、年末までに1兆円に達する可能性があります。REITのマーケットは、極めて順調です。

政府も、こうしたREITが実体経済に及ぼすプラスの効果、重要性を認識したため、資金調達手段の多様化も含め規制緩和に乗り出しました。

また、海外物件の取得解禁ですが、これにはアジアで展開している国内企業の事業展開を支援することに加え、アジアの成長を取りこむという狙いがあります。シンガポールなど、REITのマーケットが発展しているアジア各国にも投資できるようにすれば、今後、アジアが経済発展を遂げていくなかで、REITのパフォーマンス向上も期待できます。いわば成長期待のポートフォリオを構築するうえで、海外物件とりわけアジアの不動産市場に投資する意味があると考えられます。

 

銀行をはじめとして、
REITへの投資を行っている投資家の動向はどうですか?

鳥井マーケットの需給バランスは大分落ち着いてきました。たとえば地方銀行などは、今年4月から買い越し基調を続けています。長期金利の大幅低下によって、地方銀行などは運用難に陥っているため、高いインカム利回りが期待できるREITは魅力的に見えるのだと思います。

あるいは国内REITを組み入れて運用する「J-REIT特化型投資信託」の残高も、4月、5月は減少傾向をたどっており、資金流出に苦しんでいましたが、6月は増加に転じ、資金流出に歯止めがかかりつつあります。

あとは外国人投資家の動向ですが、4月、5月は大幅な売り越しだったのが、6月は徐々に回復してきました。4月、5月については、やはり欧州債務問題の影響が大きかったようです。クレジットリスクが高まり、リスク回避行動からREITも売られたわけですが、6月に入ってからは海外のREIT市場も堅調に推移しており、それに伴って日本のREITにも資金が入ってきました。

また、これは投資家の動向とは関係ありませんが、需給動向という点で見ると、4-6月は2件、新規上場があったため、一時的に需給バランスが崩れたことも、マーケットのかく乱要因になったようです。ただ、それも6月以降は徐々に落ち着いてきましたから、値動きの安定感も、高まってくるでしょう。

■図表2:東京都心5区のオフィス需要
図表2

 

欧州債務問題は今後も懸念材料になりますか?

鳥井J-REITにとっては、欧州債務問題が唯一の懸念材料といっても良いでしょう。信用リスクの度合いを図るCDSスプレッドの動きと、J-REITのパフォーマンスは逆相関関係にあります。つまり、CDSスプレッドが上昇するとREIT指数は下落する関係があり、リスクプレミアムの上昇はREITの価格動向を見るうえでは無視できないほど影響が大きなものになります。

したがって、欧州債務問題が何かのきっかけで再燃すれば、CDSスプレッドが上昇しREITの価格は下落します。

リーマンショックの時、よく言われたのが「あくまでも米国の出来事であって、日本のREIT市場に大きな影響は及ぼさない」ということでしたが、現実には大きな影響を受けました。言うまでもなく、CDSスプレッドが急上昇したからです。その背景にあるのは、前述したようにリスク回避行動によるものであり、価格変動リスクのあるREITが嫌気されて売られたからです。

 

日本だけでなく、米国をはじめとして世界各国にはREIT市場がありますが、
各国比較において日本のREIT市場のパフォーマンスは良い方なのですか?
それとも悪い方なのですか?

鳥井日本の株式市場のパフォーマンスは、世界的に見ると非常に低い方ですが、REITの場合、米ドルベースで見るとかなり高い部類に含まれており、米国REIT、香港REITに次ぐパフォーマンスを誇っています。ちなみに、ここで言うパフォーマンスはトータルリターンですから、REITの値上がり益と配当金を合わせたものという意味です。

またこれが重要な点ですが、日本のREIT市場は、他の国のREIT市場とは異なり、制度面の整備が満足に行われていません。だからこそ今、さまざまな部分で制度の見直しを行っているわけですが、それが実施され他国のREIT市場と同じ土俵に上がることが出来れば、日本のREIT市場のパフォーマンスは、今以上に向上する可能性があります。その点には期待したいと思います。

もうひとつ、日本のREITのパフォーマンスについて、その特徴を言うと、今は日本銀行による買い入れがありますから、それも価格的には安定要因です。日銀によるREITの買入限度額は、総額で1,200億円。これに対して買入実績額は917億円ですから、上限までまだ余裕があります。このように、日銀のサポートによってダウンサイドリスクが低いことも、日本のREITに投資する際のメリットと考えられます。

 

国内REITの銘柄数は、7月時点で35銘柄ですが、
実際に個人投資家が購入する場合は、それら全ての銘柄に分散投資するわけにはいきません。
具体的に、個別銘柄を選ぶ際の基準はどう考えれば良いでしょうか。

鳥井個人投資家の場合、直接、個別銘柄に投資するケースは非常に少なく、やはりJ-REIT特化型投資信託を購入することで、間接的に投資しているケースが一般的です。J-REIT特化型投資信託の場合、そもそも複数銘柄に分散投資されているので、銘柄選別を考える必要はありません。

ただ、個別銘柄でREITに投資しようという場合は、やはりポートフォリオの大きなものに投資した方が良いでしょう。特に組入物件数が多いものがお勧めです。

今後、オフィス需要が改善すると共に、特にオフィス系REITのパフォーマンス向上が期待できますが、やはりある程度組入物件数が多くないと、大型のテナントが出ていってしまった時に、パフォーマンスが急落してしまうリスクがあります。

分散投資が重要なのは、REITも同じです。

 

 

 

掲載日:2012年8月6日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券CM)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「2012All-JapanResearchTeam」REIT部門で1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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