■第12回

REIT指数は堅調に推移。ただ目先は一服の可能性も

一時は800ポイントまで低下した東証REIT指数が、1,000ポイントを回復してきました。日銀によるJ-REIT買い入れ、自己投資口取得の解禁期待、オフィスビルの空室率改善などが、株価の支援材料になりました。これから先の動きはどうなるのか。SMBC日興証券株式調査部シニアアナリストの鳥井裕史さんに聞きました。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

9月以降も東証REIT指数は堅調に推移していますが、
その要因から分析していただけますか?

鳥井9月末の東証REIT指数は1,021ポイントで、2011年7月以来の高値を付けてきました。

背景はいろいろありますが、何よりも政策面での後押しが大きかったと思います。自己投資口取得やライツ・オファリングなど、資金調達手段の多様化をはじめとする財務基盤の安定性向上に寄与する政策が、より具体化してきたこと。加えて、オフィスビルの空室率が改善してきたことなどが、東証REIT指数を押し上げました。

ちなみに自己投資口取得というのは、事業法人の株式における自社株買いと同じです。REIT市場に流通している自社の投資口を買い入れ償却することで、投資口1口あたりの価値を高めること、現状の投資口価格が資産価値等の観点から割安感があるというアナウンスメント効果、投資口価格が上昇すれば円滑な増資と物件取得が可能になること、等の期待ができます。

またライツ・オファリングというのは、既存の投資主に対して、新しく発行される投資口を取得する権利を付与する資金調達手段です。通常、一口当たり純資産を下回る水準で公募増資や第三者割当増資を行うと、投資口価値は希薄化されますが、ライツ・オファリングは、増資による資金調達を行っても、既存投資主持分の希薄化を回避できるため、新しい資金調達手段として注目を集めています。

 

J-REIT市場に参加している投資家の動向はどうですか?

鳥井投資部門別の売買動向を見ると、投資信託と銀行からの資金流入が旺盛であるのが分かります。日本国内で販売されているJ-REIT投信、これは複数のJ-REITを組み入れて運用している投資信託のことですが、この純資産残高を見ると、8月が7,200億円で、9月は7,700億円まで増加しました。

また銀行は、特に地方銀行が積極的にJ-REITへの投資を行っています。物色の対象は、配当利回りで5%程度の銘柄です。もちろん、なかにはもっと配当利回りの高い銘柄もあるのですが、配当利回りが高ければ、投資リスクもそれに応じたものになります。5%程度の配当利回りであれば、それほど高いリスクではないという認識なのでしょう。

一方、個人投資家は大きく売り越していますが、これは公募増資に際してのカウントの方法で、どうしても売り越しが多く出てしまうということだと思います。要は、J-REITが公募増資を行う場合は、7割程度を個人投資家に配分する傾向があります。公募増資によって取得した投資口は、発行体から直接取得する形になるため、証券市場を通さずに取得されます。他方、取得した投資口を売却する際には、証券市場を通じて行われます。つまり、投資部門別売買動向の統計を取る際には、売りの額だけがカウントされてしまうため、売り越しの額が大きくなってしまうのです。

ただ、そうはいってもこれだけ個人の売り越し額が大きいということは、公募増資に応じても、長く持たず、すぐに売却する傾向が強いことを意味しています。J-REITのように、高い配当収入が得られる投資対象は、長期で保有するメリットもあるということを、もっと理解していただければと思います。

■図表1:J-REIT投資部門別売買状況
図表1

 

日本銀行の買い入れ動向はどうですか?

鳥井日銀が行っているJ-REITの買い入れは、現在、1,200億円を限度額としており、10月5日時点の買い入れ合計額は1,043億円です。

日銀の動きで注目されるのは、10月に入ってから買い入れのペースが上がってきていることです。

直近の動向を見ると、6月に行われた買い入れは6月4日のみで13億円。7月は7月24日のみで16億円。8月はゼロ。9月は9月20日のみで38億円、というように推移してきましたが、10月は1日に38億円、3日に17億円、5日に17億円で、合計72億円にも上っています。

なぜ、このように買い入れのペースが上がったのかということですが、この背景にあるのが買い入れ限度額の増額と言われています。これまでも、買い入れ限度額は500億円、1,000億円、1,100億円、1,200億円というように増額されてきました。そのため、ここで再び増額が行われるのではないかという期待を、市場参加者も持っています。日銀によるJ-REIT買い入れは直接、市場の需給バランスに影響を及ぼすので、買い入れ限度額の増額はプラスの材料として注目したいところです。

■図表2:日銀J-RIET買入れ推移
図表2

 

J-REITにもさまざまなタイプがあります。
オフィスビルに投資するものが中心ですが、それ以外にも商業施設、ホテル、住宅など、
物件の種類によって、タイプが分かれますが、物色動向に何か変化はありますか?

鳥井そうですね。7月までは住宅や商業施設を組み入れて運用するタイプが物色されていましたが、8月以降、現在に至るところまでは、やはりオフィスビルに投資するタイプが物色の中心になっています。先ほども申し上げましたが、オフィスビルの空室率が改善されているのが、その理由です。

それと、ディープ・ディスカウント銘柄も物色される傾向が続いています。ディープ・ディスカウント銘柄というのは、市場での取引価格が1口あたり純資産額を大きく割り込んでいる銘柄です。スポンサー企業の力が弱いと見られているJ-REITなどによく見られるのですが、やはり割安感が強いという妙味があるので、多少の投資リスクは伴うもののマーケットでは根強い人気を維持しています。

投資家別にみると、個人投資家はJ-REIT市場から直接個別銘柄を物色するという傾向は少なく、やはりJ-REITを組み入れた投資信託を通じて、J-REITに投資する傾向が強く見られますが、ディープ・ディスカウント銘柄は、投資信託による買いが目立っています。先ほど申し上げた自己投資口取得に対する期待があるからです。

また投資信託の場合は、複数のJ-REITに分散投資するため、特定のJ-REITが持っている投資リスクを軽減させることができます。だからこそ、ディープ・ディスカウント銘柄に積極的に投資できるのです。

一方、投資信託と共に、J-REITへの積極投資を行っている銀行ですが、こちらはやはり銘柄選びも慎重でスポンサーの財務基盤がしっかりしているところを中心に投資しています。

 

堅調に推移しているJ-REIT市場ですが、懸念材料は?

鳥井このように市場環境が良くなってくると、やはり公募増資をはじめとして、資金調達する動きが広まります。

J-REITは、新規資金を調達して新しい物件を組み入れることにより高い配当利回りを実現させていくことを通じて、投資対象としての魅力を高めるわけですが、多くのJ-REITが一斉に資金調達に走ると、マーケットの需給バランスが一時的に崩れてしまいます。8月の終わりから9月にかけて、3件の公募増資が行われましたが、東証REIT指数は大きく落ち込むこともなく、もう一段の上値を狙ってきました。

つまり、公募増資による供給増を無事にこなしたことになります。

ただ、ここから更に公募増資などがどんどん行われるようになると、需給バランスは崩れ、マーケット全体が下落に転じることも考えられます。それだけに、公募増資も含めて、J-REITのファイナンス動向からは、しばらく目が離せません。

 

安値から見れば、東証REIT指数はある程度値上がりしており、
ここから買えるかどうか判断に迷うところです。
今の投資環境をどう見れば良いでしょうか。

鳥井今後のマーケットを見るうえで注目したいのがNAV倍率です。これは、J-REITに投資するうえでは重要な指標のひとつで、投資口価格を1口あたりNAVで割って求められます。

J-REITは、新規上場時の公募価格が、1口あたりNAVになります。つまり、公募価格で資金を調達し、調達した資金で物件を組み入れる。これがREITの資産になりますから、公募価格が1口あたりNAVとイコールになるのです。

ということは、市場全体のNAV倍率が1倍を超えている時、新規上場すれば初値が公募価格を上回ることになるので、新規上場意欲が高まります。ここ数年、J-REITの新規上場がほとんど行われなかったのは、NAV倍率が1倍を割り込んでいたからです。

現在の東証REIT指数の水準で言うと、1,030ポイントに達したところで、NAV倍率が1倍になります。このまま指数が上昇すれば、恐らく公募増資だけでなく、新規上場に踏み切るところも出てくるでしょう。

したがって、マーケットは目先一服と見ています。これからファイナンスが増えてくるのに伴って、マーケットの需給バランスは緩んでくるでしょうから、株価的には若干の調整が入るでしょう。J-REITへの長期投資をするならば、その押し目は仕込み場になると考えます。

 

 

 

掲載日:2012年10月24日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券CM)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「2012All-JapanResearchTeam」REIT部門で1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

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