専門家インタビュー

■第14回

2012年度のREIT市場は堅調に幕を閉じる

3月15日、東証REIT指数は1542ポイントまで上昇しました。同指数が1500ポイントに乗せたのは、2008年6月以来のこと。実に4年9カ月ぶりです。SMBC日興証券のシニアアナリスト鳥井裕史氏に、2012年度の国内REIT市場を振り返ってもらいました。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

2012年度は東証REIT指数も順調に上昇し、
非常に良い状態で終れそうです。
今の国内REIT市場の環境はどうですか?

鳥井東証REIT指数は、2012年4月2日の終値が1004.16ポイントでした。これが、2013年3月15日時点で1542.52ポイントまで上昇しました。率にして53.61%のプラスです。わずか1年間でここまで上昇したのですから、さすがに割安感は無くなってきました。分配金利回りベースで見ても、4%を下回る銘柄が増えています。NAV倍率も約1.5倍まで上昇してきていますから、割安感の修正はほぼ一段落したと考えて良いでしょう。

今の国内REITの投資環境を見ると、実は2004年後半から2006年前半にかけての状況と似ています。

当時の分配金利回りは4%を維持しており、今とほぼ同じ水準でした。オフィスの空室率も改善傾向にあり、経済環境も堅調でした。何しろ、戦後最長の景気拡大局面の最中ですから。ただ、オフィスの賃料上昇期待はまだあまりありませんでした。

では、現在はどうかというと、前述したように分配金利回りは同水準の4%を堅持しています。外部環境も徐々に好転してきました。ただ、REITが保有する物件の賃料そのものは、まだ上昇する段階ではありません。

 

NAV倍率が1.5倍ということですが、
現状、国内REITは割高に買われていることになるのでしょうか。

鳥井NAV倍率というのは、REITの純資産価値に対して、投資口価格が何倍まで買われているのかを示すものです。つまり、これが1倍であれば、純資産価値に対して投資口価格は割高でも、割安でもないということになるのですが、これが1倍を超えてくると、徐々に割高感が浮上してきます。

現在のところNAV倍率は1.5倍ですから、REITの純資産価値に対して、投資口価格は1.5倍まで買われていることになります。つまり、50%のプレミアムが乗っているわけです。したがって、このプレミアム分を説明できるかどうかというのが、ポイントになります。説明できれば割高ではないという解釈も成り立ちますが、説明できなければ割高ということで、投資口価格が下落することになります。

まず、REITが実際に買っている東京23区の賃貸住宅のキャップレートを見ると、2010年から2011年にかけては6%以上でしたが、最近は5~5.5%で買っているのが多くなっています。

一方でキャッシュフローはあまり変わっていません。キャップレートが6%から5%に低下すれば、不動産価格は20%くらい上昇しているのだろうと考えることができます。
次に東京23区のオフィスビルのキャップレートを見ると、2010年から2011年にかけては5~6%で購入している物件が多かったのですが、最近の事例でいうと4~5%の物件が増えています。

つまりオフィスにしても住宅にしても、不動産価格としては20%程度の上昇が見込まれています。

これに対して、REITのバランス構造からするとLTVがおよそ50%ですから、レバレッジが半分かかっています。LTVとは「ローン・トゥ・バリュー」つまり借入比率のことです。この数値が50%というのは、ファンドの資産価値に対する借入比率が50%という意味で、要するに50億円の自己資金に50億円の借入金を加えた100億円で、不動産に投資していることになります。

ということは、資産価値が1動くとNAVは2動くようなバランスシート構造になっていますから、資産価値が20%上昇しているのであれば、NAVは40%上昇します。つまり、足元の不動産価格が20%上昇しているなかで、NAVが1.5倍ですから、十分に50%程度のプレミアムは説明できます。

 

ただ、割安感は無くなっている?

鳥井そうですね。今の投資口価格は十分に説明が付くものですから、割高な水準というわけではないのですが、一方で割安感もほぼ無くなったといっても良いでしょう。何しろ年初からかなりのハイペースで投資口価格が上昇しましたから、割安感が無くなるのも無理はありません。

需給バランスからみても、売り手がほとんどいないという状況になっています。

たとえば、複数のJ-REITを組み入れて運用する「J-REIT特化型ファンド」の純資産残高を見ると、2月末で1兆3,000億円程度になりました。2011年末が5,500億円程度だったことから考えると、この1年間で2倍以上に伸びたことになります。その資金が国内REIT市場に入ってくるのですから、需給バランスがタイトになるのは仕方がありません。

 

国内REITが昨年以降、にわかに注目を集めた背景には何があるのでしょうか。

鳥井まずインフレ期待が高まったこと。言うまでもなく、アベノミクスの影響ですね。今後、消費者物価指数2%を視野に入れて量的金融緩和政策を行うこと、消費税率の引き上げが視野に入っていることなどを考えると、いよいよ日本はデフレから脱して、インフレへと向かう可能性が浮上してきました。

当然、インフレが進んでいる時は、不動産がインフレヘッジに有効とされますから、J-REITに対する関心が高まった面はあると思います。

それと共に、日銀による買い入れが行われていることも、安心感につながっています。何しろ、国内REIT市場が値下がりする場面では、日銀が買い入れてくれるのですから、これに勝る安心材料はありません。日銀によるREITの買い入れは、今年に入って3回、合計で53億円程度ですが、今のところマーケットが堅調に推移しているので、日銀が積極的に買い入れる必要はないというところだと思います。

ただ、これから先、マーケットに何かしらの混乱が生じた時には、日銀がAA格以上のものに限定はされていますが、再び買い入れに動くでしょう。

一方、供給サイドを見ると、投資口価格が上昇し、NAV倍率も1倍を大きく超えてきたことによって、IPOやPOを通じた資金調達が活発に行われています。REITは、こうした資金調達を通じて、少しでも高い賃料収入が得られる物件をファンドに組み入れ、分配金利回りを向上させようとしています。

もちろん、IPOやPOを行えば、需給バランスの観点から見ると供給が増えることになりますから、投資口価格には下落圧力がかかります。

ところが今は、前述したように投資信託を通じての買い、地方銀行を中心にした余資運用資金を通じての買いが非常に増えているため、国内REIT市場には順調に資金が流入しています。結果、IPOやPOによる供給が行われても、それを十分に吸収できるだけの資金流入があるということで、J-REITの投資口価格は全体的に見ても大きく崩れずに済んでいるのです。

■図表:東証REIT指数
図表1

 

個人投資家のJ-REITに対する関心度合いは?

鳥井正直、個人投資家の場合、J-REITを市場で直接購入するという動きはあまり見られません。どちらかといえば、新規上場や増資によって新株が発行された時、それを引き受けるというケースが大半です。投資部門別売買動向を見ると、特にマーケットが好調に推移している2013年1月に、大幅売り越しになったことからも、それが分かります。

個人投資家が新規上場や増資引き受けを行う場合というのは、証券会社を通じて市場から買うのではなく、新投資口を発行したものを取引所を通さずに取得するため、投資部門別売買動向の「買い」にはカウントされないのですが、一方、引き受けた投資証券を市場で売却する際には、投資部門別売買動向の「売り」にカウントされるため、新規上場や増資が行われると、大幅売り越しになる傾向が見られます。昨年12月あたりから個人投資家の売り越しが増えているのは、それだけ新規上場や増資という形で、投資法人が資金調達を積極的に行っているからだと考えられます。

ただ、新規上場や増資を引き受ける個人投資家というのは、比較的短期間のうちに利益を確定させる傾向があります。たとえば2月に新規上場された日本プロロジスリート投資法人は、公募価格55万円に対して初日の株価が70万円。3月19日には一時、92万4,000円まで上昇しました。短期間のうちにこれだけの値上がり益が生じたら、一旦、利益を確定させる動きが出るのも分かるのですが、それだけJ-REITを長期で保有するメリットが、まだ十分に浸透していないことの表れとも受け止められます。

確かに、J-REITの投資口価格がここまで上昇してくると、小口での投資が困難になるのも事実です。昨今では、1口あたりの投資口価格が100万円を超えている銘柄が増えてきました。もっと個人投資家の関心を高めるためには、投資口分割などを行って、金額的に買い易くする工夫が必要でしょう。現状、個人投資家がJ-REITに投資する手段としては、J-REIT特化型ファンドというファンド・オブ・ファンズを通じて購入するという方法が主流です。

前述したように、現在、J-REITの投資主体の中心は、投資信託と金融機関です。あまり特定の投資家にばかり投資主体が偏ると、いずれも同じ投資行動をとりがちなので、マーケットが一方向に大きくブレてしまう恐れがあります。今後の大きなテーマとしては、いかにしてより多くの投資主体に参加してもらうかということでしょう。その意味で、個人投資家の直接投資を増やすことが、重要になってきます。

 

 

掲載日:2013年4月10日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券CM)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「2012All-JapanResearchTeam」REIT部門で1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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