専門家インタビュー

■第15回

2013年度のリート市場動向を展望する

順調に上昇トレンドが続く東証REIT指数。マーケットに過熱感はないのでしょうか。新年度に入り、マーケット参加者の動きに何か変化は現れてくるのでしょうか。SMBC日興証券シニアアナリストの鳥井裕史氏に、2013年度のマーケット動向を展望してもらいました。

相変わらず上昇トレンドが続く国内REIT市場ですが、
この勢いは新年度以降も続くのでしょうか。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

鳥井4月になると、金融機関が利益確保のために、利益が乗っているREITを売却してくる可能性があります。昨年4月2日時点の東証REIT指数は、終値で1004.16ポイントでしたが、2013年3月25日時点の終値は1637.47ポイントでした。つまり2012年度中の値上がり率は63%にも達しています。

2012年度中に多くの金融機関、特に地方銀行が積極的にREITへの投資を行いましたから、現在保有しているREITにはかなりの利益が乗っていると考えられます。したがって、利益を確保させるために売却する動きが出てくると思われます。

ただ、同じくマーケットにとっては供給要因になる新規公開や公募増資については、今年の1〜3月までにかなり消化されています。もちろん、4月以降もある程度、公募増資は行われるでしょうが、少なくとも1〜3月のような増資ラッシュにはならないでしょう。したがって4月以降、マーケットの需給関係を見るうえで注目されるのは、やはり地方銀行を中心とした金融機関が、どれだけ決算対策で保有REITを売却してくるかという点だと思います。

 

2013年度の新規上場はどの程度でしょうか。
また、地方銀行の売りによって、マーケットが大きく下げるようなことにはなりませんか?

鳥井まず新規上場についてですが、2013年度もいくつか予定されていますが、それによってマーケットが供給過多になることはないでしょう。

また、需給面でもうひとつ注目したいのが、投資信託の動きです。国内で設定・運用されている投資信託の中には、複数のJ-REITを組み入れて運用する「J-REIT特化型ファンド」があります。2013年2月時点の残高は約1兆4,000億円程度。昨年末にはまだ1兆円にも届いていない水準でしたから、この2ヶ月間で4,000億円近く残高が増えたことになります。投資信託の場合、銀行などと違って、決算対策で売らなければならないということもありませんから、このままのペースで残高が増えれば、ある程度、銀行が保有しているREITの決算対策売りを吸収できると思います。

したがって4月以降も、国内REIT市場の需給バランスは、比較的良好だと考えていますが、ひとつだけ課題があります。

それは、国内REITの保有者に偏りが見られることです。具体的に言うと、保有者が地方銀行と投資信託に偏り過ぎている感があるのです。保有者に偏りがあると、投資行動のパターンが同じ方向に行きがちになります。たとえば、4月になると決算対策の売りがかさむというのは、その典型例でしょう。

またJ-REIT特化型ファンドの過去の残高を見ると、2011年5月から12月にかけて、大きく減少していることが分かります。これは投資信託の約款上、多くのファンドが設定額の上限に達したため、一時的に販売が停止されたのです。結果、資金流入よりも資金流出が多くなり、マーケットの下落要因にまでなりました。この間、東証REIT指数は、実に1000ポイント台から800台ポイントまで下落しています。もちろん、この下げは投資信託の一時的な販売停止のみによるものではありませんが、東証REIT指数の下落要因のひとつになったのは事実です。

これらの事例からも分かるように、特定の投資家にばかり国内REITの保有者が偏るのは、あまり歓迎できる話ではありません。したがって、J-REIT特化型ファンドを通じてではなく、直接、REITを購入する個人投資家をどれだけ増やせるかというのが、国内REITの今後の課題になるでしょう。

■図表:東証REIT指数
図表1

 

2013年度のマーケットは、さらに上昇が期待できるでしょうか。

鳥井需給バランスからすれば、それほど大きく供給過多になることはないでしょうから、大きく値崩れする恐れはないと思います。ただ、4月は地方銀行を中心にして決算対策売りが進みますから、多少の下押しは想定されるでしょう。

その後のマーケット動向は、賃料の値動きと長期金利の動向が、大きなポイントになると思います。

何しろ、東証REIT指数が1600ポイント台に乗せるところまで上昇し、NAV倍率も1倍を大きく超えていますから、その点では決して割安感で買える投資対象ではありません。ここから先、さらに買い進んでいくためには、買い進んでいけるだけの根拠が必要になります。その根拠のひとつが、賃料の値上げがどこまで期待できるのか、ということでしょう。賃料が上がっていけば、配当原資が増えますから、さらに上値を追って買うことができます。

ただ、投資物件の賃料が今後、順調に値上がりする環境にあるかといえば、決してそのようなことはありません。新しく建てられたオフィスビルなどがテナントを募集するにあたり、従来に比べてテナント料を高めに設定することは出来ますが、すでにREITに組み入れられている物件については、なかなか賃料を引き上げるのが難しい環境にあります。
恐らく、今年度を通じて賃料の上昇は期待できない環境にありますから、賃料上昇を織り込んでREITの投資口価格が上昇する余地は、あまりないと考えられます。賃料が本格的に上昇するとしたら、来年以降の話でしょう。ただし、それまでに景気がある程度、しっかり回復局面にあることが、条件になります。

もうひとつは長期金利の動きです。現在、国内REITの配当利回りは、最も低いもので2.2%台前後。高いもので4.7%前後です。これに対して、長期金利の指標となる10年物国債の利回りが、3月時点で0.5%台にまで下がってきています。これだけの利回り格差があるので、当面、問題はないと思いますが、将来、景気回復やインフレを反映して長期金利が上昇した時、国内REITにとってはいくつかのネガティブ要因が浮上してきます。

第一に、国内REITの資金調達コストが上昇すること。国内REITが物件を取得するに際しては、すべてを自己資金で賄うわけではなく、外部から調達した資金も充てています。長期金利の上昇は、こうした資金の調達コストを引き上げ、ファンドの収益力を低下させる方向に働きます。

第二に、配当利回りとの優劣の問題です。もし、長期金利が大きく上昇し、国内REITの配当利回りと大差が無くなったら、相対的にリスクの高いREITが売られ、国債が買われるでしょう。

こうした2つの側面で、長期金利が上昇すると、国内REITの投資口価格が下がるリスクが高まってくるのです。

ただ、オフィスビルに関して言えば、以前のような供給過剰に対する懸念は、ほぼないと見て良いと思います。2012年に竣工したオフィスの大半は2006〜2007年に開発が計画された物件ですが、その後はサブプライムショックやリーマンショックの影響で景気がスローダウンしたため、新規物件はあまり建設されていません。なので、オフィスビルの需給そのものは、タイトな状況が続きます。つまり今年度は、オフィスビルの過剰供給をネガティブ材料として織り込む必要はないでしょう。

2013年度の国内REIT市場の価格動向を見るにあたっては、賃料と長期金利の動向をウォッチするようにして下さい。

 

個別銘柄を選ぶポイントは?

鳥井ここまで東証REIT指数が上昇してきているということは、個別銘柄の投資口価格も、かなり高水準になっています。

前述したように、2013年度はあまり賃料の上昇には期待できませんから、それを織り込む形で投資口価格が上昇していく可能性は低いでしょう。なので、まずはきちっと配当を出すことのできる銘柄を選ぶことが肝心です。

配当をきちっと出せるというのは、それだけ安定した賃料収入が得られる物件を組み入れているかどうかにかかってきます。あるいは少しでも配当金を引き上げられるように、新しい物件を買う力も問われるでしょう。

それは、別の言い方をすると資金調達能力があるかどうかということです。公募増資によってきちっと資金調達ができ、その結果、より多くの賃料収入が得られる物件をポートフォリオに組み入れられるという点が、国内REITに投資するうえでの重要な選択基準になります。

 

掲載日:2013年4月24日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券CM)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「2012All-JapanResearchTeam」REIT部門で1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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