■第19回

自社株買いと市況改善でさらなる指数上昇を目指す展開か

年末にかけ、1,500ポイントに乗せた東証REIT指数は、やや一服。1,450ポイントを挟んだ展開が続いています。オフィスビルの空室率改善など不動産市況は好転しつつあるなか、今後のJ-REIT市場はどうなるのでしょうか。SMBC日興証券シニアアナリストの鳥井裕史氏に話を伺いました。

新年度入りしました。まず、J-REIT市場の現状から伺いたいと思います。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

鳥井昨年度末にかけて、東証REIT指数は1,450ポイントを挟む展開が続きました。正直なところ、好調というにはほど遠い値動きだったと思います。ただ、J-REITを取り巻く環境は好転しています。

まず、空室率が着実に改善傾向にあること。たとえば東京都心5区のオフィス空室率は、一時9%を超えていたのが、現在は7%まで低下してきており、このまま行けば6%程度までの低下が見込まれています。

次に、昨年のJ-REIT市場は積極的に増資が行われ、その資金で物件取得が活発に行われました。結果、配当利回りに寄与する高収益物件がJ-REITに組み込まれており、ファンドの収益性そのものが向上しています。また、長期金利も0.6%台で安定して推移しており、J-REITの分配利回りとの格差は3%程度を維持しています。

これらの点からもJ-REIT市場の環境は良く、東証REIT指数は今後、1,800ポイントを目指す展開になるでしょう。

 

とはいえ、現状では1,450ポイントを挟んで、一進一退の展開が続いています。
それが1,800ポイントに向けて上昇に転じるとしたら、何がきっかけになるのでしょうか。

鳥井まず需給面。エクイティファイナンスの実績を見ると、2013年は過去最高の1兆1,079億円でした。ということは、昨年は過去最高の供給が行われたということです。当然、J-REITの価格にとっては、上値を抑えることになります。

では、2014年はどうでしょう。3月末時点におけるエクイティファイナンスの額は2,000億円弱です。基本的にJ-REITのエクイティファイナンスは1〜3月期に集中するため、恐らく2014年中を通じて、2013年並みの1兆円超えまで額が膨らむことにはならないと見ています。つまり、供給が抑えられるということです。これはポジティブ材料とみて良いでしょう。

次に需要面ですが、こちらも相変わらず堅調です。何よりも、J-REIT特化型ファンドへの資金流入が続いており、それがJ-REIT市場への継続的な資金流入につながっています。J-REIT特化型ファンドの資金流出入額を見ると、昨年9月が過去最高の資金純流入になり、そこからは純流入額が減少傾向を辿っていますが、それでも現状、月額600億円程度の資金純流入を維持しています。また日本銀行も、J-REITの価格が下落すると、すかさず買いを入れてくるので、それがマーケット全体を底堅いものにしています。

このように需給面は堅調ですが、東証REIT指数が1,800ポイントに乗せるためには、もうひとつ大切な要因があります。それは、賃料引上げが実現できるかどうかという点です。賃料が引き上げられれば、オフィスビルを組み入れているJ-REITの収益性が向上し、それが東証REIT指数を1,800ポイントに乗せる起爆剤になります。

現状、賃料の動向を見ると、底打ちから上昇に転じて行く傾向が見られます。したがって、2014年末に向けて、東証REIT指数が1,800ポイントまで上昇する環境は、徐々に整いつつあると見て良いでしょう。

■図表:東証REIT指数
図表1

 

消費税率の引き上げは、不動産市場にどのような影響を与えますか。

鳥井確かに分譲マンションの動向を見ると、消費税率が引き上げられる前に物件を取得しようという駆け込み需要は、確実にあったと見ています。

そうなると、消費税率引き上げ後は、逆にマンション需要が後退するため、価格下落要因になると考えられますが、J-REITへの影響は軽微でしょう。というのも、消費税率引き上げの影響を受けるのは、あくまでも分譲マンションであって、賃貸マンションには関係ないからです。賃貸マンションの場合、もともと賃貸料に消費税は加味されていませんから、消費税率が5%から8%に引き上げられたとしても、ほとんど影響はありません。

むしろ、賃貸マンション市場にとっては今後、ポジティブな材料が期待されます。それは、東京圏への人口流入が継続していることです。反面、賃貸マンションの供給は低水準なので、需給面では堅調に推移しそうです。

 

株価が乱高下しています。
株価の値動きがJ-REITの価格に及ぼす影響はどうでしょうか。

鳥井J-REITの価格に影響を及ぼす要因は、大きく2つあります。ひとつは長期金利の上昇、もうひとつはクレジット市場の悪化です。

現状、クレジット市場が大きく崩れるという状況ではありません。また長期金利についても、今のところは0.6%という低水準にあり、J-REITの分配利回りと3%のスプレッドが開いています。

このような環境ですから、株価が下げたとしても、それが直接、J-REITの価格下落につながることはありません。もちろん今後、さらに株価が大きく下落して、日本のクレジットリスクに影響を及ぼす、あるいは米国や欧州で債務危機への懸念が強まるという事態になれば、J-REITの価格にもネガティブな影響を及ぼすと思いますが、少なくとも現状を見る限りにおいては、株価の下落がJ-REITの価格下落につながる可能性は低いと見て良いでしょう。

 

J-REIT特化型ファンドに資金が流入しているのは分かりますが、
それ以外の市場参加者の動向はいかがですか。

鳥井前述したように、長期金利が0.6%ですから、スプレッドの高さへの魅力から、地方銀行などは、相変わらずJ-REITへの投資を行っています。新年度入りして、4月はやや売り越し基調が続いていますが、これは保有しているJ-REITの益出しです。ここで利益を実現させておけば、残りの11カ月間は楽に運用ができるので、値上がり益がある今のうちに、保有しているJ-REITを一旦売却したのです。しかも、地銀はキャピタルゲインではなくインカムゲイン狙いでJ-REITに投資していますから、一旦売却したとしても、再び買い戻してきます。

一方、外国人投資家は売り越しです。なぜなら、昨年を通じてJ-REITが大きく値上がりしたため、米国やオーストラリアなど海外のREIT市場に比べて、相対的に割高感が浮上してきたからです。もし、ここから先、外国人投資家がJ-REIT市場に積極的に参入してくるとしたら、別の材料が必要になるでしょう。それは、先にも説明しましたが、オフィスビルなどの賃料が明らかに上昇してきた場合です。

 

個人投資家の売り越し傾向は今後も続くのでしょうか。

鳥井個人投資家の場合、エクイティファイナンスによる割り当て分を売却して値上がり益を得ているのですが、この場合、統計上は売りしかカウントされませんから、どうしても売り越し基調になるのは仕方のないところです。ただ、昨年に比べて2014年度はエクイティファイナンスの額が少なくなりそうですから、恐らく個人投資家の売りは徐々に減っていくでしょう。

 

J-REITの新規上場銘柄に投資すると、
上場時に利益が出しやすいということですか。

鳥井たとえばJ-REITが新規上場や増資を行う場合、発行額の7割程度を個人投資家に割り当てる傾向があります。昨年1兆1,000億円のエクイティファイナンスが行われたということは、このうち7,700億円は個人投資家に割り当てられました。そして、2013年中の個人投資家の売りは5,000億円なので、かなりの部分は新規上場と共に売却されたと考えて良いでしょう。

J-REITの新規上場銘柄は今、値上がりしやすいタイミングにあります。J-REITは新規上場で資金調達を行い、それで物件を取得しますから、新規上場時のNAV倍率は1倍です。これに対して現在、J-REIT市場全体のNAV倍率は約1.3倍ですから、そこまでREITは買われると判断できます。つまり、新規上場銘柄は投資口価格が上昇しやすい環境にあり、それが個人投資家の売りにつながると考えられます。

なので、基本的な認識としては、J-REITの新規上場銘柄に投資する人は短期指向であり、長期保有を前提に投資する人は、J-REIT特化型ファンドを用いるというイメージですね。

 

今年度、注目される材料は何ですか。

鳥井一番注目されるのはJ-REITの自己投資口買いです。2014年12月までに施行される予定です。もっとも、現在はNAV倍率が1.3倍だから特に必要はありませんが、1倍を下回ってきた場合には、これが効力を発揮します。

NAV倍率の1倍割れは、保有している資産に比べて投資口価格が割安であることを意味します。つまり、新規に物件を取得するよりも、自己投資口を購入した方がREITにとって有利、ということです。そのため、投資口価格が下がったとしても、下値のメドが見えやすくなります。

また、新たな投資対象としてはヘルスケア特化型REITが登場します。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などを組み入れて運用するもので、今年の秋口から上場するREITが出てくる可能性があります。

 

用途別に見た場合、これから注目されそうなファンドは何ですか。

鳥井1月から3月にかけては中堅オフィス型REITと物流施設型REITに注目していましたが、いずれも株価が上昇しました。なので、これからは各用途別のなかでも出遅れ気味の割安なREITをピックアップしていくという戦略を考えています。

 

参考コンテンツ

Fanet MoneyLife Jリート http://money.fanet.biz/reit/index.html

 

掲載日:2014年1月14日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012年、
2013年ともに1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

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