専門家インタビュー

■第28回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く

2016年のJ-REIT市場を展望。
オフィス賃料上昇の顕在化で、4月以降のパフォーマンス回復に期待。

2014年、15年と物件取得が旺盛だったJ-REIT。市場動向や分配金を含めたパフォーマンスは今年どうなるのか。注目セクター・銘柄やその選択ポイントを含めて、SMBC日興証券の鳥井裕史氏に2016年の展望を聞いた。

2016年のJ-REIT市場をどう見ていますか。

鳥井裕史氏フォト

SMBC日興証券株式会社
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏

鳥井最大の注目ポイントは、オフィス賃料の上昇でしょう。2015年前半までは物件取得がREITの増配エンジンになっていました。しかし現在は、不動産価格が上昇して物件取得の競争も激しく、取得によって分配金を上げられるような状況ではありません。あくまでも賃料上昇で増配をねらう流れになっています。

J-REITの配当利回りは足元で3.5%強で長期金利が0.3%。その差(スプレッド)が3%を超えた現状のなかでJ-REITの利回り魅力は健在です。それに加えて、賃料上昇期待を織り込む形になります。結論としては、オフィス賃料の上昇率が10%を見込むような展開になれば、1700ポイント台前半から半ばで推移している東証リート指数も2000ポイントが見えてきます。

一方の需給面。毎年のことですが、J-REITの物件取得時期は1-3月に偏る傾向があります。この期間のJ-REIT市場に関して、私は強い見方をもっていません。物件取得によって増資して分配金が上がればいいですが、増配しなければ需給の悪化を招くだけ。インプライド・キャップレート(投資家の期待利回り)より高いキャップレートで物件を買っていれば分配金は上がりますが、2015年以降は取得キャップレートとほぼ同じ価格で買っているようなので分配金はそう増えないでしょう。

今年は過去2年間に比べてれば物件取得数は減り、結果として増資も少なくなると見ています。4月以降になれば需給が改善して、J-REITはオフィス賃料の上昇を見に行くことになるでしょう。

 

 

オフィス賃料はどの程度、上昇傾向にあるのでしょうか。

鳥井2014年1月辺りから上がり始めて、現在までに8-9%上がってきた状況です。これはあくまで相場の賃料。J-REITが保有している物件は2-3年契約がほとんどなので、たとえば2013年末あたりの実際賃料は相場よりも5%くらい高止まりしていました。当時は相場より高い賃料だったので、賃料改定のときに相場に合わせて下げざるを得なかったわけです。

現在は実際の賃料より相場の方が高い状況なので、改定時に賃料が上がる。その転換点だった2015年前半から、J-REITが保有するオフィス物件の賃料が上がり始めています。実際に2015年後半に決算を迎えたJ-REITでは、賃料上昇がプラスに寄与して分配金が上昇傾向になり、その傾向は2016年上半期からより顕著に見えてくるでしょう。

 

賃料上昇の成果はこれから期待できるということですね。

鳥井そうです。分配金利回りと長期金利のスプレッドを見ると、2013年後半から現在までは3%前後で推移しています。市場が賃料上昇期待を先取りしていれば、J-REIT株価が上がって利回りは下がり、スプレッドの縮小傾向がもっと明確になっているはず。足元としては、これから賃料上昇を織り込む素地はできていると考えています。

今後の賃料は2014年1月と比べて10%くらい上がっても不思議ではないでしょう。現状は2004年あたりのボトムラインと同程度。2017年ごろまではオフィス供給が絞られた状況が続くので、空室率は現状の4.5%から4%くらいまで下がっていくことが予想されます。一方で2018-19年になると供給が増えてきます。そのときに景気が悪ければ市況は厳しくなりますが、17年までの向こう2年間は需給に問題はないと思われます。

■東京都心5区のオフィス空室率と賃料単価の推移
東京都心5区のオフィス空室率と賃料単価の推移グラフ

■オフィス供給量と空室率の推移
オフィス供給量と空室率の推移グラフ

 

保有物件の賃料上昇に注力するJ-REITの判別方法は。

鳥井上場時期(スポンサー変更による事実上の新規上場を含む)は、銘柄選択の着目点になり得ます。2015年におけるJ-REITの物件取得は旺盛でしたが、そのうち2005年までに上場したいわゆる古参REITは20%ほど。物件取得を進めたJ-REITの約7割は2009年以降(=リーマン・ショック以降)に上場した銘柄です。

■上場時期およびスポンサー変更時期別の
2015年における物件取得実績
上場時期およびスポンサー変更時期別の2015年における物件取得実績円グラフ

古参REITは過去の痛い目にあった経験をもっています。若いJ-REITはその事実をもちろん知っていますが、資産規模を拡大しないと運営が成り立たない事情もある。不動産市場はしばらく良好の見通しですから大丈夫でしょう。しかし、日銀が金融引き締めに入って金利上昇、ローンの調達環境が悪化、リーマン・ショックなどのように市場がクラッシュなど、何かが起きたときに痛手を被る可能性は高くなります。

J-REIT市場の価格決定要素は5つあります。期待成長率に寄与する要素を「物件取得力」と「オフィス等の不動産市況」(=賃料動向など)に分けてみると、現状は不動産価格が上昇しており、物件取得力による寄与は難しい。一方でローンの調達状況は悪くないので、需給以外では長期金利(Rf)の動きとオフィスの賃料動向の2つが注目ポイントになっています。

■J-REIT価格の価格決定要素
J-REIT価格の価格決定要素グラフ

 

米国の利上げや日銀のJ-REIT買い入れ枠拡大などの影響は。

鳥井米国の利上げはJ-REIT市場に大きな影響は及ぼさないでしょう。日米欧が足並み揃えての利上げなら別ですが現状では米国だけ。REIT市場との連動性が高いのは自国の長期金利です。ドルペッグ制の香港や通貨バスケット制を採用しているシンガポールなどは日本と違い、米国に追従して金利や為替も動くので米国の利上げがそのままREIT価格の下落要因になります。アジアREIT市場のなかでとらえると、J-REITは相対的な投資妙味が増していると考えることができます。

日銀は2015年12月に、J-REITの各銘柄の買い入れ限度額を5%から10%に拡大しました。J-REITの市場規模は約10兆円。そのうち買い入れ対象であるAA格以上は約8兆円を占めています。つまり、5%のままでは買入金額を増やそうとしても現実的には難しかったわけです。

銘柄毎の買入限度額を2倍である10%にしたこととで、現状の年間900億円のペースでJ-REITを買い続けてもあと4-5年は可能になる計算です。その意味で今回の限度枠拡大は、現状の施策を継続可能にすることで追加緩和の余地をつくったということができるでしょう。

 

2016年のJ-REIT市場に期待することと銘柄選択のポイントを教えてください。

鳥井期待できるJ-REITはオフィスとホテルです。市場を取り巻く環境としては、オフィス賃料が合理的な理由で予想通りに上がること。ホテルREITであれば、インバウンド(訪日外国人旅行)の旺盛さです。

オフィスREITなら賃料上昇に特化した運営で実際に価格が上がっている銘柄に注目すべきでしょう。ケネディクス・オフィス(8972)や日本プライムリアルティ(8955)、ジャパンリアルエステイト(8952)などが代表的。ホテルREITでは、ビジネスホテル(宿泊特化型)でインバウンド獲得を進めているインヴィンシブル(8963)など。

他のセクターでは、2015年上場という新しい銘柄ですが商業のケネディクス商業リート(3453)に注目です。普段使いのスーパーなど生活密着型のJ-REITで業態は安定していますし、地味な業態なので物件取得の価格競争にさらされていません。

 

掲載日:2016年1月20日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
大和総研および大和証券SMBC(現・大和証券)において年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。InstitutionalInvestor誌の「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012~2015年に1位を獲得。(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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