専門家インタビュー

■第29回
大和証券株式会社 企業調査部アナリスト、大村恒平氏に聞く

新たなステージへ進むJ-REIT市場。
今後の銘柄選択ポイントを探る

J-REIT市場が新たなステージへと向かっている。2015年以降、銘柄間のパフォーマンスにはっきりとした差異が生まれているからだ。今後のJ-REIT投資には、個別銘柄を見極める確かな目が必要になってくる。J-REIT市場の現状と銘柄選択のポイントを大和証券企業調査部J-REIT担当アナリストの大村恒平氏に聞いた。
(聞き手は東京証券取引所上場推進部調査役・柴田崇史氏)

J-REIT各銘柄を評価する4つのポイント

大村恒平氏フォト

大和証券株式会社
企業調査部アナリスト
大村恒平氏

――2013年以降のアベノミクス効果によって、J-REIT市場は全体として非常に盛り上がってきました。金融緩和によって資金調達が容易になり環境としては改善してきています。不動産市況も改善が見られ、また景気回復期待などもあってJ-REITの投資口価格は順調に推移してきました。一方で2015年から2016年にかけては、やや伸び悩む状況になってきたと思います。大村さんはどのように見ていらっしゃいますか。

大村2015年1月19日に東証リート指数が2000ポイントを超えたことがありました。これはひとえに金利低下が最大の要因で、利回り商品としてJ-REITが高く意識された場面だと思います。その後はベース金利である長期金利のボラティリティが高くなって調整に入っていまいました。2000ポイントに到達したきっかけは、2014年10月末にあったQQE2(量的・質的金融緩和の拡大)が大きいでしょう。ただし、その後のパフォーマンスを見てみると、J-REITすべての銘柄が上昇していたわけではなく、銘柄間のパフォーマンス差異があることが確認できました。

――ご指摘いただいたように、2013年と14年はJ-REITすべての銘柄がトータルリターンではプラスのパフォーマンス。2015年は52銘柄中21銘柄がプラス、31銘柄がマイナスのリターンでした。投資家からみると、金融緩和が始まってからJ-REIT全体で相応のパフォーマンスが得られたのですが、2015年はそうではなくなってきた。今後は個々の銘柄を見ていくステージに入ったと思いますが、銘柄選択のポイントを教えていただけますか。

大村その前に現状把握をしてみましょう。現在はマイナス金利の導入をきっかけとして、J-REIT市場全体が上がっている状況だと思います。今後の動向を踏まえると、2015年頭のようにカタリスト(相場を動かす材料)が乏しくなると銘柄間の差異が生まれてくることが想定されます。

そのような状況下で今後、個別銘柄の選定がより重要なポイントになるわけです。J-REITを評価するポイントとして私は、大きく4つあると思っています。1つめが物件からの「収益力」。2つめが「成長性」。3つめが調達環境という意味での「資金調達力」。最後に、それを踏まえた「財務の健全性」です。

 

 

収益力は「NOI利回り」で比較してみる

――1つめの「収益力」について、株式投資の代表的な指標であるROE(株主資本利益率)はJ-REITの評価にも対応できるのでしょうか。

大村可能です。ROEは実際の投資からのリターンということになりますが、J-REITの場合は保有不動産で得られる収益力に変換できます。それに加えてJ-REITにはNOIという指標があります。Net Operation Incomeの略で、不動産の賃料収入から不動産の費用とそこにかかわる費用を差し引いた粗利のこと。いわゆる純営業収益になります。

NOIはそれ単独というよりも利回りという観点で比較対象になります。現在は各物件の情報開示がかなり進んでいるのでNOIは容易に算出できます。そのNOIを物件取得価格で除してやるとNOI利回りが出てきます。実際には、NOI利回りがどれくらいの水準なのかというところがポイントになります。例えば、あるオフィス物件の年間の賃貸事業収益が10億円だったとしましょう。その費用が4億円とすると正味6億円がNOIとなります。仮にこの物件を150億円で取得すると6÷150=NOI利回り4%という水準が出てきます。

実際に機関投資家もNOI利回りを重要視しています。価格だけではなく、得られる賃貸収益からどの程度の水準で買っているのかというのが最も重要になってくるので。つまりはポートフォリオの全体感ということです。開示資料などで個々の物件の取得価格を積算するとポートフォリオ全体のNOI利回りが出てきますよね。J-REITの個別銘柄を評価するうえでは、それぞれのJ-REIT全体のNOI利回りで比較することが重要です。個人投資家の皆さまも重視していただきたい指標だと思います。

 

外部成長と内部成長という2つの成長性

――2つめの「成長性」。J-REITの成長性には内部成長と外部成長という2つの側面があります。外部成長は新しい不動産を買うことによって収益性の改善を図ることですが、そのポテンシャル(潜在力)はどのように測ればいいのでしょうか。

大村外部成長は、新しく物件を買うことでトップラインである賃貸収益を上げて、一口あたりの分配金を向上させるのが最大の目的。最近は各J-REITの決算説明会資料で散見されますが、一義的にはパイプライン(物件取得への優先交渉権等)のことを指します。

たとえばJ-REITの運営会社がデベロッパーの場合、今後どの物件を取得・拠出するかわからない時点でも候補としていくつか挙げるケースがあります。その際に「優先交渉権が附されている物件にこういうものがあります」と。具体的に物件を列挙しなかったとしても、「パイプラインで200億円あります」という形で説明するJ-REITもあるので、これが外部成長のポテンシャルの一例といえるでしょう。

先ほどの話にあったように、ポートフォリオ全体のNOI利回りが意識されるなかで今後の外部成長を図る場合、新しい物件を買うことになります。その際にポートフォリオNOI利回りがハードルレートになり、その利回りの水準を崩さない形で取得することにつながると思います。

――一方の内部成長ですが、保有している不動産に対して手を施したり、契約条件を見直したりすることで収益性を高めることになります。外部成長に比べて見えにくいものかと思いますが、これはどのように確認できますか。

大村内部成長が見えにくいのは確かでしょう、仕組みとしては保有物件の付加価値を向上させて一口あたりの分配金を上昇させると、ひいてはそれが投資主価値の向上につながることになります。その主な手段はトップライン(賃貸事業収益)を上げることです。その場合、具体的には、稼働率を上げるか賃料単価を上げるかの2つです。

景気が回復するなかで稼働率がかなり高位に推移しており、今後は稼働率アップから賃料単価上昇への施策シフトがさらに進むでしょう。賃料単価を上げることができるかどうかがポイントになります。深い話になりますが、東京都心でも渋谷区などでは賃料単価の上昇に恩恵を受けているJ-REITも出てきており、ひとつの判断材料になっています。賃料単価は実際にはテナントとの契約上、開示資料で明確になっていないケースが多いですが、各J-REITは全体としてこれくらい単価が上がりました、という情報を資料に盛り込むようにもなってきています。

 

デット・ファイナンスではLTVが重要な指標に

柴田崇史氏フォト

東京証券取引所
上場推進部調査役
柴田崇史氏

――3つめの資金調達力はいかがでしょうか。一般にJ-REITは内部留保をもたない特性があるため、資金調達力は投資の際の大きなポイントになるかと思います。

大村J-REITが事業会社と異なる点としては良くも悪くも資金調達で、物件を買うときの調達手段が限られている点です。J-REITの資金調達手法はふたつで、エクイティ・ファイナンスとデット・ファイナンス。前者は事業会社もまったく同じで、新規で投資証券を発行して資金調達をすると。後者は基本的に銀行からの借り入れになります。

エクイティ・ファイナンスもだいぶ増えてきています。投資主から見ると、投資口数が増えて最も大事な一口当たり分配金が少なくなる可能性があります。エクイティ・ファイナンスをやる限りは、投資主から一口当たり分配金の向上は少なくとも要求されるとは思います。ポイントは、エクイティ・ファイナンスで調達した資金で何を買うのか。これが既存ポートフォリオ以上の利回り、もしくはそれを維持するための物件取得なのかどうか、ということです。

――J-REITがデット・ファイナンスをする場合、どんなところを見ればよいですか。

大村まずはLTVでしょう。これはLoan to Value、アセットに対する借入金の比率だと思っていいです。計算にはいろいろありますが、基本的にはLTVが高ければ借り入れ比率が高いということ。LTVは投資家としても重要ですが、融資する銀行から見ても重要な指標となっています。

各J-REITのLTVは40%前後(アセットタイプごとに異なります)が多いですが、ヒストリカルに見ると比較的低位にはなってきています。リーマン・ショックからアベノミクスまでは総じて高かった。そこでは潰れないとわれていたJ-REITも破綻する銘柄が出ました。財務コントロールが意識できなかったからです。このような経験則を踏まえると、いくら現在がマイナス金利で借り入れの調達環境が良いといっても過度にLTVを上げるのは考えにくいでしょう。

 

プロでも最重視するマネジメントの方向性

――なるほど、デット・ファイナンスにおける財務コントロールやエクイティ・ファイナンスの物件取得など、現在の環境を正確にとらえて次にどう動くかというJ-REITそのもののマネジメント能力も判断基準になり得るわけですね。

大村まさにその通りで、かなり定性的な部分が多いですが、我々セルサイド・アナリストが機関投資家向け説明会で最も聞きたいポイントがマネジメントの方向性なのです。J-REITのマネジメントがこの不動産市況をどうとらえているか、そのなかでどのような物件を取っていくのか、その物件を取得する資金調達はエクイティ・ファイナンスなのかデット・ファイナンスなのか――。もちろん公表は決定した後なのでそこではわかりませんが、考え方としてはそういうことです。個人投資家の皆さまでも、各J-REITによっては説明会の動画をホームページで閲覧できるようにしているところもあるので確認できます。

その意味では、継続的なモニタリングが必要ということができます。投資主からすると当然のことながら投資口価格は気になるところで、現在は投資口価格のボラティリティが高くなっています。なぜこの銘柄を買っているのかというところが重要になると。そのなかで、J-REITのマネジメント、運用会社の社長を含めて彼らのスタンスが一貫しているかが重要です。

マイナス金利開始などの大きなイベントが起これば、外部環境も変わるので戦略も変わるでしょう。しかし、基本的には投資主から預かったお金を受託者責任で運用しているわけで、個人投資家の皆さまでも保有銘柄については継続的にマネジメントの話を聞き、わかりうる範囲のなかでそれが一貫しているかどうかの確認が必要です。ウェブ上に公表されている説明会の内容や東証の個人向けセミナーなどで生の声を聞いてフォローすることが今後はより重要になります。

 

物件取得に関しては投資家が監視を

――定量的な指標から定性的なポイントまで、さまざまな見方を教えていただきました。これまで挙げていただいたポイントのなかで欠かせないものは何でしょう。

大村物件取得に関わるところだと思います。マネジメント(戦略)の一貫性もありましたが、マイナス金利は戦略が変わりうるポイント。一貫性も重要ですが、運用会社の社長はファンドマネジャーでもあります。ファンドマネジャーは一貫していなくてはいけませんが、その時々の相場によって戦略を変えることも必要なのです。

マイナス金利は調達環境が良くなるので、NOI利回りが低い物件を買ったとしても正当化される場面もあり得ます。外部成長しやすい反面、投資家としてある程度の監視体制をもって、行き過ぎた物件取得を注視していく必要があります。

低いNOI利回りで買った物件があったとすれば、買ったときのマネジメントがなぜその水準で買ったかを説明する責任があります。低い利回りということは、それだけの値段で買ってそこから生まれるキャッシュフローの安定性をどう見ているのか。そこに入るテナントの賃料上昇をどれくらい期待できるか。その説明責任は重要になります。

――今回は大きな方針として、いくつかのポイントに分けて整理していただけました。これらの目線をもって投資判断をしていただくことが重要ですね。現在のマイナス金利がいつまで継続するのか、2020年の東京オリンピック後に不動産市況がどうなるか等、投資に不確実は付き物であり、上手に付き合っていく必要があります。成長性や資金調達力というポイントからは、引き続き長い目線で持ってJ-REITの実力を見ていく必要もあるということかと思います。投資家の皆さまにおかれましては、ご自身の重視されるポイントをもって、ぜひとも中長期的にお付き合いできるJ-REITを選別していただければと思います。本日はありがとうございました。

 

掲載日:2016年3月28日

大村恒平(おおむら・こうへい)氏プロフィール
大和証券株式会社 企業調査部アナリスト J-REIT担当
大和証券SMBC(現・大和証券)において機関投資家営業等に従事した後、2013年からは投資銀行部門にてREITの引受業務に従事。2015年7月より現職。
不動産証券化協会認定マスター

 

 

TOP