■第30回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く

2017年もオフィス銘柄中心で動くJ-REIT。
“新陳代謝”が進んで新たな時代の幕開けも

2016年のJ-REIT市場は長期金利の動向に大きく左右された1年だった。果たして2017年はどうなのか。SMBC日興証券の鳥井裕史氏は「銘柄間格差がさらに拡大し、J-REITの実力が問われる1年になる」と予想する。2017年の展望を含めて、投資にあたっての注目ポイントを同氏に聞いた。

J-REIT市場の2016年と、足元の状況をどう見ていますか。

鳥井裕史氏フォト

SMBC日興証券株式会社
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏

鳥井2016年をひとことで言えば、長期金利に大きく振り回された年でした。2月にマイナス金利が導入され、東証REIT指数は2,000ポイント近くまで上がりました。後半とくに米国大統領選挙前後からは長期金利がプラス圏に上昇、指数は再度下がりました。その一方で、日銀は長期金利をゼロ程度にコントロールしています。今後は長期金利以外の要因が大きく影響を及ぼしそうです。「賃料がしっかり上がるのか」「物件取得で収益を上げることができるのか」「低金利でデットコスト(支払い利息)の減少は続いているのか」というような、いわばJ-REITの実力でいかに増配できるか。2017年はそれが試される年になるでしょう。

足元の長期金利はゼロですから分配金利回り=スプレッドで3.6%という状況です。13年後半から15年前半までの分配金利回りは3%強で安定して推移していました。現在の3.6%というスプレッドは純粋に割安といえます。東京都心5区のオフィス賃料は上がり続けています。本来であれば、賃料上昇を期待して利回りスプレッドが下がり株価は上がる――となってもいいのに、期待利回りは拡大しています。つまり、J-REITの現在の投資口価格はオフィス賃料の下落を織り込んだ状況といえます。

■2013年後半からのJ-REITの分配金スプレッドと都心5区募集賃料
2013年後半からのJ-REITの分配金スプレッドと都心5区募集賃料グラフ

 

 

オフィス賃料は下がらないとわかるだけでも東証REIT指数は戻ると。

鳥井そうです、まずは足元のオフィス賃料下落懸念を払拭することが、株価上昇のきっかけになります。そもそも、なぜ賃料下落が懸念されているかというと、2018年から都心部でオフィスの大量供給があるからです。しかし、それに関しては私自身、さほどネガティブには見ていません。

確かに18年は16年や17年に比べて供給量は多くなるでしょう。しかし、03年や07年、12年などの過去の大量供給時に比べると、驚くほど増えるわけではないのです。それがまず1点。過去20年間の年間平均供給量を見ると、それがトータルストックに占める割合は約1.5%。2018年は2%弱になりそうです。一方、現在のオフィス空室率は約4%で、仮に18年までオフィス需要がまったく伸びなかったとしても空室率は6%弱になるくらいで、これも突出して上がるわけではありません。これが2点めの理由です。オフィス需要は13年から足元まで年間2%くらい伸びており、仮に18年までそれ続いたとしても空室率は差し引きゼロになります。

就業者1人あたりの専有面積が変わらないとすれば、就業者数が増えればオフィス需要は増えることになります。総務省のデータをもとに算出してみると、東京都の就業者数はずっと増え続けています。これは、東京一極集中という動きもあるし、女性就業者が増えていることも理由に挙げられます。いずれも社会構造的な理由なので、リーマン・ショック後のように景気が非常に悪くならない限り、この傾向は続くだろうと思われます。これらを勘案すると、オフィスマーケットが悪くなることはそうないでしょう。賃料下落懸念さえ払拭できれば分配金利回りスプレッドは3%くらいまで縮小し、東証REIT指数で2,000ポイントまで見に行ってもおかしくはありません。

■東京都心のオフィス需要(賃貸面積)と東京都の就業者数
東京都心のオフィス需要(賃貸面積)と東京都の就業者数グラフ

 

今年、J-REITに投資するにあたって注意すべきポイントはありますか。

鳥井これまで以上に銘柄間格差が広がっていることです。各REITの分配金利回りと時価総額を見ると、J-REIT市場平均でいえば分配金利回りは3.6%ですが、銘柄間格差がかなりあります。時価総額が1,500億円以上ある銘柄はおおよそAA格以上の格付けをもっており、日銀の投資対象銘柄にもなっています。そのような銘柄の利回りは3%半ば。一方で、最近上場したような1,000億円に満たない小さなREITは同6%〜8%で放置されている格好です。

■各REITの分配金利回りと時価総額比較
東京都心のオフィス需要(賃貸面積)と東京都の就業者数グラフ

投資口価格の割安度の指標になるNAV倍率では、利回り6〜8%の銘柄はのきなみ1倍を割っています。1倍割れでの増資は現実的にできないので資産規模の拡大は難しく、M&A(合併・吸収)の対象になる可能性が高くなってしまいます。資産規模の大きなREITにしてみれば、現状の物件価格は高いので現物の不動産マーケットでは買いづらいですが、NAV1倍以下でREITを買収できれば低コストで物件を買うことと同じ意味になります。その結果、J-REITのM&Aなどは今後増えていくことが考えられます。一般論として、配当利回り6%以上でNAV倍率が0.9倍以下ならM&Aの対象となり得ます。

 

REITの破綻やM&Aはこれまでもあったと思いますが。

鳥井はい。しかし15-16年のM&Aはすべてスポンサーの都合によるもので、この場合とは意味が違います。これからは安値放置で運営できなくなった銘柄が吸収される状況になるということです。

配当利回り6%くらいの銘柄の資産規模は500〜600億円。REITの運用会社に支払われる運用報酬はその30〜40ベーシスポイント程度なので、年間2〜3億円の収入にしかなりません。これでは運用会社の人件費は賄えないしREIT運営費用もままなりません。スポンサーも弱いところが多いので、その赤字を補填してくれるケースは少ないでしょう。実は09〜11年もM&Aが盛んでしたが、当時は買われる銘柄のデットが詰まって(=資金借り換えができなくて)運営できなくなった。現在はご存知のようにデットが詰まっている状況ではありません。

06〜07年のJ-REIT活況期にさえ、弱い銘柄だけでなく市場全体がデットに詰まったと投資家に判断されて、最大手でも7〜8%の利回りがあったほど。現在は金融緩和状態でREITの財務状況が総じてよくなっています。弱いREITは、よい状況のうちに退場した方がJ-REIT市場にとってはいい。後に市況が悪くなったとしても、全体に飛び火する可能性が低くなるからです。投資家には、平均利回り3.6%という数字に惑われることなく各銘柄をきちんと見る目がさらに強く求められることになります。

 

今後期待したいセクターや銘柄を教えてください。

鳥井J-REITには銘柄が増えてきましたが、全体の半分はオフィスREIT。当然のことながら注目すべきです。ホテルは変動賃料=ハイリスク。足元は厳しいと見ています。

ホテルREITでは、確かにインバウンドは増えていますが、そこばかり見て痛い目にあったのが16年ということができます。ホテルはここ2〜3年で都心と大阪中心にトータルストックが25%も増える予定です。インバウンド数は20年には4,000万人/年に。実は、この時点で需給がちょうどぴったりになる計算なのです。建物はそれに先行して17〜18年に供給されるので、足元の需給が悪くなるのはある意味当然の結果といえます。ホテルREITのなかでは、大量供給の影響を受けないポートフォリオで運営している星野リゾート・リート(3287)なら期待できるかもしれません。

オフィスREITは全体感としては悪くありません。ホテル集中投資の影響で中規模オフィスの供給が絞られているので、相対的に中規模オフィスに特化したREITが期待できるでしょう。なかでも、ケネディクス・オフィス(8972)に注目しています。現在の格付けはA+ポジティブ。AAに上がるも近いといわれています。そうなると日銀の投資対象にもなります。ケネディクス・グループは金融危機をまたいで唯一生き残った国内のプライベートファンド。そのREITがAAを取るのはすごいこと。着実なREIT運営と安定したトラックレコードの積み上げによる格付け向上なので大きな意味があると思います。都心の中規模特化型としてはヒューリックリート(3295)も挙げられます。

セクターとしては商業にも注目したいですね。物件用途別の配当利回りを見ると、他用途に比べるとかなり高くなっています。イトーヨーカドーや地方郊外型商業施設のテナント閉店などによる大幅賃料下落が懸念されているようです。しかし、商業施設に特化したREITは問題なさそうです。むしろ総合型REITで商業施設を含んでいる銘柄が難しい。商業REITの株価はこれらの影響で全体に低迷していますが、イオンリート(3292)やケネディクス商業リート(3453)で高い利回りを取りにいく考えはあるでしょう。

J-REITに銘柄が増えるのはよいことですが、一方で退場すべき銘柄はきちんと退場した方が市場全体の成長・進化に役立ちます。16年は7銘柄上場しましたが、そのうち5銘柄が初値公募割れ。現在は新規上場銘柄=期待薄なREITというレッテルが貼られている状況です。2017年はM&Aなどによる“新陳代謝”機能に期待したいですね。

 

 

掲載日:2017年1月17日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
大和総研および大和証券SMBC(現・大和証券)において年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。2010年10月より現職。InstitutionalInvestor誌の「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012〜2016年に1位を獲得。日経ヴェリタス誌「アナリストランキング」REIT部門で2016年1位を獲得。(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

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