専門家インタビュー

■第31回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く

2018年のJ-REIT市場展望

2017年のJ-REIT市場は毎月分配型投信からの資金流出に大きく影響された1年だった。果たして2018年はどうなのか。SMBC日興証券の鳥井裕史氏は、投資家から「インカムゲイン商品」として再度注目されて、「分配金成長期待」が織り込まれれば東証REIT指数2,000ポイント達成も十分期待できると説明する。2018年の展望を含めて、投資にあたっての注目ポイントを同氏に聞いた。

2018年初は東証REIT指数が急激に回復しましたが、どういった要因によるものでしょうか

鳥井裕史氏フォト

SMBC日興証券株式会社
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏

鳥井まず、2017年12月末時点の東証REIT指数は1,662.92ポイントで2016年12月末時点に対して10.4%下落した水準にあった。2017年12月末時点のJ-REIT市場全体の分配金利回りは4.2%であり、長期金利に対する分配金利回りスプレッドは4.2%、鑑定評価額を基準にしたNAV倍率は1.04倍であった。分配金利回りスプレッドが4%超、NAV倍率が1.1倍を下回るという水準は2012年12月以来の割安水準にあった。

2012年はオフィス賃料が下落局面にあった一方、足元では好調な企業業績等を反映してオフィス市況は堅調である。そのような状況下で割安感が高まっていたことが2018年1月の反発につながったと考える。特に同月のJ-REITを対象にしたETF(REIT-ETF)への資金流入超過額が470億円超に達したことを踏まえると、地方銀行等の国内金融機関からの旺盛な需要があったと言える。また、1月の外国人のJ-REITの買い越し額は約400億円に上った。国内外機関投資家がJ-REITに注目していた証であると考える。

ただし、2月に入ると世界的な株安の影響がJ-REIT市場にとっても無関係ではなかった。グローバル市場の値動きについては引き続き注視する必要があろう。

■J-REIT市場全体の分配金利回りスプレッドとNAV倍率
J-REIT市場全体の分配金利回りスプレッドとNAV倍率グラフ

 

 

昨年は毎月分配型投信からの資金流出によりJ-REIT市況は低迷しましたが、足元の状況をどう見ていますか。

鳥井REIT-ETFを除いたJ-REIT特化型投信の純資金流入額は2017年3月までは堅調に推移していた。しかしながら、2017年4月に金融庁より「積立NISAにおいて毎月分配型投信では投資の複利効果を十分に得ることは難しく、長期での資産形成をするには適さない」という主旨のコメントが発信されて以降、毎月分配型投信の販売が抑制されたことに伴い、同月よりJ-REIT特化型投信からの資金流出超過額は増加した。2017年11月以降はその動きが若干落ち着いてきたと考えられるものの、まだ流出超過傾向が止まったとは言いづらい。一方、先述したとおり地域金融機関からのREIT-ETFへの旺盛な需要や海外投資家からの買い越し基調により、J-REIT市場を取り巻く需給環境は改善傾向にある。

J-REITという金融商品は比較的安定した分配金が得られるインカム商品であると考える。J-REITを原資産として組成されるJ-REIT特化型投信は「分配型」として有効な商品であると言える。「複利効果が得られない」からその商品を否定することは良くない。それぞれの商品特性と顧客属性を照らし合わせながら、このような商品がしっかりと個人投資家に浸透することを望む。ただし、本来得られるであろうインカムゲイン水準を大幅に上回る利回りを確保するため、元本部分を大きく切り崩す商品は投資家に誤解を招くおそれがあることに加え、長期的に運用するための障害になる。実力に見合った商品設計が必要であろう。

■J-REIT特化型投信の資金流出入額(単位:億円)
J-REIT特化型投信の資金流出入額グラフ

 

最近では、合併や自己投資口取得といったアクションも散見されますが、どのように評価されていますか。

鳥井東証REIT指数が1,700ポイントを下回る水準ではJ-REITの過半の銘柄のNAV倍率が1倍を下回る状況になると思われる。一方、物件売買市場を見ると低金利環境の継続等により旺盛な買い需要があり、物件価格は上昇傾向にある。そのような状況下、各J-REITのNAV倍率が1倍を下回る状況、つまり買収・解散価値を下回る水準であれば、このようなREITは買収対象として魅力的に映る。世界のREIT市場ではM&Aが活発に実施されており、今後日本のREIT市場でもそのような事例が出てくることは何ら不思議ではない。また、マーケットの新陳代謝を促すためにもM&Aは必要不可欠であると言える。

一方、各J-REITが「買収されたくない」、「今後も自らが成長するために運営を続けていきたい」と考えるのであれば自己投資口取得は有効な資本政策と言える。自己投資口取得はREIT自らが「投資口価格には割安感がある」というメッセージを発信するアナウンスメント効果にもなる。また、NAV倍率が1倍を下回っている状況であれば現物不動産を取得するよりも割安に物件を取得する効果にもつながり一口当たり収益性を高めることができる。結果として投資口価格が上昇すれば買収防衛策にもなろう。

J-REIT市場においてM&Aや自己投資口取得が活発化すれば同市場の活性化にもつながるし、投資口価格のダウンサイドリスクの低減にもつながるだろう。

 

不動産売買マーケットでは物件価格が上昇傾向にあり、J-REITが新たな物件の取得に苦労しているようにも見えます。

鳥井先述したとおり、物件売買市場は活況を呈しており、キャップレートは低下傾向を続けており、物件価格は上昇傾向にある。過熱感が生じていると言える。一方、国内外の半公的資金(年金等)からの資金流入が続いていることから当面はこの状況が続くと考えられる。不動産価格の上昇はJ-REITが既に保有している資産の価値向上につながり、ポジティブな一面もある。各J-REITが決算期末毎に公表している鑑定評価額を基準にした場合のNAV倍率1倍ラインは東証REIT指数に換算すると、2012年12月末時点で1,040ポイントであったが、2017年12月末時点では1,600ポイントにまで上昇している。

一方、新たに物件取得をしようとするREITにとっては低いキャップレート、つまり高値での物件取得につながり、ポートフォリオの収益性低下にもつながりかねない。そのため、物件の高値掴みのリスクとして注意する必要があろう。

■東証REIT指数と鑑定NAV倍率1倍ラインの推移
東証REIT指数と鑑定NAV倍率1倍ラインの推移グラフ

 

一方、不動産賃貸マーケットにおいては今後オフィスビルの大量供給が続くようですが、どのように見ていますか。

鳥井過度な懸念はしていない。確かに2018年~2020年は過去10~20年に比べると供給水準は高い。一方、2018年~2020年における新規供給量は建て替え等による滅失分を差し引くと東京23区のオフィストータルストックに対して年間1.6~1.7%増加する程度である。足元では好調な企業業績等を背景にオフィスの拡張ニーズは高く、東京都心部での新規需要は年間1.5%程度ずつ伸びている。新規需要により新規供給は吸収できる水準であることから空室率が大きく上昇することはないと考える。供給面よりも需要面の動向、すなわち景況感や企業業績がより重要と考える。

 

金融緩和政策の一環として日本銀行がJ-REITの買入を行っていますが、日銀の政策動向に関して今後留意しておくべきポイントを教えてください。

日本銀行による金融緩和政策の見直し(緩和の縮小)が実施された場合、J-REIT市場には2つの点で留意点が必要である。まず、現在の金融政策では日銀はJ-REITを年間900億円買入れている。この買入れ額が減額される場合はJ-REITの買い手としての存在感が低下するため、投資口価格のダウンサイドリスクが増加する可能性がある。ただし、景況感が良く、物価上昇基調で投資口価格も堅調に推移する状況下で同買入れ額を減額させていく場合はさほど問題にはならないだろう。

もう一点として、長期金利の上昇リスクが挙げられるだろう。J-REITの分配金利回りは長期金利に連動する傾向がある。仮に金融緩和政策が縮小されていく場合、長期金利の上昇リスクを意識する必要があろう。長期金利が上昇すれば分配金利回りも上昇し、結果として投資口価格は下落する。一方、物価上昇基調でオフィス等の賃料も上昇することによりJ-REITの分配金が増加基調を続ける状況であれば、長期金利上昇によるネガティブ要因と分配金増加というポジティブ要因が相殺されることにより、投資口価格の下落にはつながらない。長期金利の動きと分配金の増減動向の両方をバランスよく注視する必要があろう。

 

アセットタイプ毎の見通しはいかがでしょうか。

先述したとおり、オフィス市況に対しては心配していない。特に中規模オフィスは供給が非常に少ないことから同タイプのオフィスは賃料上昇が継続すると考える。大都市部では宿泊特化型ホテルの開発が活発であり、本来であれば中規模オフィスを開発する土地にホテルの供給が続いている。そのため、中規模オフィスに対する需給はひっ迫した状況が続くだろう。

都心部での賃貸マンション市場は安定的な状況が続くだろう。最近では企業の人材確保のために賃金が増加することや家賃補助の充実等の動きも出ていることから、入居者の賃料負担力が高まることにより、徐々に賃料も上昇すると期待する。

商業施設も安定的な賃料収入が期待される。Eコマース市場の拡大が既存の商業施設の閉店や賃料下落リスクにつながるという懸念がある点は理解する。ただし、小売業全体に占めるEコマースの割合は未だ小さいことに加え、各商業施設型REITは都市型店舗やEコマースにさらされない生活密着型施設(食品スーパー等)にポートフォリオをシフトしている。また、大半の商業施設は長期固定賃料契約であることから、実際には賃料下落リスクは小さいと言える。

物流施設についても安定的な賃料収入が期待できる。足元ではEコマース市場の拡大を取り込むために物流施設の開発が活発に行われており、供給過多リスクが散見される。このような背景から大幅な賃料上昇期待は持ちづらい一方、一般的には5年超の長期契約が大半であることから賃料収入は安定的に推移するだろう。

ホテルについては注意が必要である。インバウンドの増加によりホテル需要の高まりを期待する点はその通りだろう。しかし、先述したとおり大都市部では宿泊特化型ホテルを中心に大量供給が続いている。これによりホテルの宿泊単価の下落リスクには注意したい。ホテル型REITは保有するホテルの売上や利益と賃料を連動させる契約形態が大半なため、賃料変動リスクが他のタイプのREITに比べて高い点には留意したい。

 

その他、今後J-REITへの投資に当たって留意しておくべきポイントはありますか。

先述のとおり、長期金利の動向と増配基調の強さのどちらが勝るかが注目点と言える。賃料下落局面での長期金利上昇というのはJ-REITにとって最も厳しい状況となるため、そのような局面がきた場合には注意が必要だ。

 

最後に2018年のJ-REIT市況の見通しを教えてください。

弊社ではターゲット東証REIT指数を公表しており、2016年初より同ターゲットを2,000ポイントとしている。2017年の東証REIT指数はJ-REIT特化型投信からの資金流出超過のあおりを受けて同指数は大きく下落した。ただし、堅調なオフィス賃貸市況や低金利環境の継続によりJ-REIT市場を取り巻くファンダメンタルズ環境は良好である点に変わりはないことから、同ターゲットを変更する必要性はないと考えている。また、同指数が2,000ポイントに到達した場合のJ-REIT市場全体での平均分配金利回りは3.5%程度であり、2013年~2015年前半までの分配金利回りスプレッドが3%前後で推移していたことを勘案すると違和感のない数値であると考える。

一方、ターゲット東証REIT指数2,000ポイントを達成するまでには主に3つの局面をこなしていく必要があると考える。

まず、同指数が1,600ポイント台から1,700ポイント台半ばへと脱する局面ではJ-REIT特化型投信からの資金流出超過が収まること、自己投資口取得やM&A実現が主な材料として挙げられるだろう。2017年のJ-REIT市場の主な低迷要因はJ-REIT特化型投信からの資金流出超過という需給環境がもたらしたと言える。J-REIT市場を取り巻くファンダメンタルズやバリュエーション(投資指標)に着目されるためにはまずは需給環境の改善が重要である。

また、2017年12月末時点ではJ-REIT全59銘柄中32銘柄のNAV倍率(鑑定評価額ベース)が1倍を下回る状況にあった。増資と物件取得による分配金成長は難易度が高い一方、資産価値面から割安感がある状況である。このような状況下では自己投資口取得やM&Aが活発化することにより資産価値面に着目した動きが相場を押し上げるということに期待したい。同指数がこのレンジで推移する局面では、割安感に注目するようないわゆるバリュー型タイプの外国人投資家がJ-REITに注目し、中小型で低NAV倍率の銘柄が選好されるだろう。

次に、1,700ポイント半ばから1,800ポイント台半ばとなればNAV倍率はJ-REIT市場平均で1.1倍を超過し、同1倍割れ銘柄が大幅に減少するだろう。資産価値面から見た過度な割安感が薄れることにより買収期待は持ちづらくなる。一方、同水準ではJ-REIT市場全体の分配金利回りは4.1~3.8%となる。過去の分配金利回りスプレッドとの比較において長期金利が0%前後で低位安定している状況下であれば十分に魅力的なインカムゲインの確保が期待できると言えよう。同レンジ内においては「低金利下での魅力的なインカムゲイン商品」としての特性が重視される。過度な割安感も割高感もなく、心地の良い水準と言えよう。同指数がこのレンジで推移する局面ではインカムゲイン獲得を目的とした国内金融機関が主な買い手として期待され、時価総額が中位もしくは中上位の銘柄で相対的に高い分配金が期待できる銘柄が選好されるだろう。

そして、1,800ポイントから2,000ポイントを目指すためには分配金成長期待を織り込む必要があると考える。ただし、実際のJ-REIT市場全体の一口当たり分配金は2011年下期~17年下期の6年間で+21%(年率+3.5%)の増配を達成していること、足元のファンダメンタルズ環境を勘案すると増配期待を織り込むことは十分に期待できる。2018年以降の東京都心を中心としたオフィスの大量供給を需要増加で補うことや長期金利の過度な上昇懸念が払しょくされるというマインドがマーケットに浸透すれば十分に目指せる水準と考える。同指数がこのレンジで推移する局面ではいわゆるグロース型の投資家が主な買い手として期待され、大型オフィス型REITが選好されると考える。

 

 

掲載日:2018年4月3日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
大和総研および大和証券SMBC(現・大和証券)において年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。2010年10月より現職。InstitutionalInvestor誌の「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012〜2017年に1位を獲得。日経ヴェリタス誌「アナリストランキング」REIT部門で2016年~2017年に1位を獲得。(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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