専門家インタビュー

■第32回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く

2018年のJ-REIT市場と2019年の展望

「2018年のJ-REIT市場概要」

鳥井裕史氏フォト

SMBC日興証券株式会社
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏

2018年12月末の東証REIT指数は1,774.06ポイントとなり、2017年12月末(1,662.92)との比較で6.7%上昇、配当込みのトータルリターンでは11.1%上昇した。2018年12月末時点のJ-REIT市場全体の時価総額は12兆9703億円となり、2017年12月末時点の11兆4751億円の比較で13%増加した。

同期間のTOPIXは17.8%下落、配当込みのトータルリターンで16.0%下落となり、東証REIT指数はTOPIXをそれぞれ24.5ppt、27.1pptアウトパフォームした。2018年は国内株式市場が軟調な動きとなった中、J-REITのパフォーマンスは堅調であった。また、東証REIT指数は同期間のFTSE EPRA/NAREIT Global Real Estate Index(円ベース)の-11.5%に対して18.2pptアウトパフォームし、グローバルのREIT市場の中でも堅調なパフォーマンスを確保した。

2018年の東証REIT指数は4月以降堅調な推移となった。オフィス賃料の上昇等堅調なファンダメンタルズと低位にとどまった長期金利環境に加え、インカムゲイン獲得ニーズを背景としたJ-REITに対する旺盛な需要等が好パフォーマンス要因として挙げられよう。

以下では2018年におけるJ-REIT市場を取り巻く需給環境、物件売買動向等について振り返るとともに、2019年の展望について記述したい。

■(図1)2018年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2017年12月末=100)
(図1)2018年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2017年12月末=100)

■(図2)J-REIT市場全体の時価総額推移
(図2)J-REIT市場全体の時価総額推移

 

 

「2018年のJ-REIT市場における需給動向」

2018年のJ-REIT市場を取り巻く需給構造を見ると、以下の点が特徴として挙げられる。需給環境は2018年9月頃までは概ね均衡状態、10月以降は良化したと言えよう。

  1. 地域金融機関は国内長期金利が0%前後の低水準で推移する環境下でJ-REITのインカムゲインに着目し、需要が旺盛であった。特に、REIT-ETF経由での買い需要が旺盛であった。ただし、東証REIT指数が1,800ポイント前後の水準にまで上昇した局面では利益確定売りや様子見姿勢となった。
  2. 海外投資家は日本の金利上昇リスクが他国に比較すると小さい点と2017年のJ-REIT市場のパフォーマンスが他国のREIT指数に比べて低く、結果として割安感があったこと、ファンダメンタルズ面で安心感のあるJ-REITに対して買い越し姿勢であった。2018年前半はそのような点を背景にグローバルリアルエステイトファンドが買い主体であったと考えられる。また、2018年後半に関しては海外年金等のジェネラリストも低金利環境下で相対的に高いインカムゲインが期待できるJ-REITに資金を振り向けたものと考えられる。
  3. 個人投資家によるJ-REIT特化型投信からの資金流出超過額は継続したものの、2017年4~12月に比較すると低水準にとどまり、売り圧力としては低減した。特に2018年8月以降の流出超過額は少額であり、2018年12月には資金流入超過に転じた。
  4. 2018年9月頃まではJ-REITによるエクイティファイナンスが高水準にあり、これらを配分された個人投資家の売り越し額が高水準であった。

今後については、長期金利が低位で安定推移し、J-REITの投資口価格も安定的に推移すれば、国内金融機関からのインカムゲインニーズは引き続き期待でき、相場の下支え要因となろう。一方、同金融機関は価格上昇期待を狙う主体ではないとも考えられ、同主体が継続的な買い越し主体となるためにはJ-REITの分配金自体が底上げされることが必要と言えよう。超低金利環境の継続により同主体の買い目線が切り上がってくるかについても今後の注目点と言える。また、海外投資家の買い意欲が一層高まるためには賃料上昇等による増配の継続や金利上昇リスクの低減が挙げられよう。逆に、高値での物件取得を伴うエクイティファイナンスが乱発してしまうと投資家のマインド低下と需給悪化のリスクがある。この点については引き続き注視したい。

 

■(図3)投資部門別売買動向(単位:億円)
(図3)投資部門別売買動向(単位:億円)

■(図4)J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)
(図4)J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)

 

「2018年のJ-REITにおける物件売買動向」

2018年のJ-REITによる物件取得実績は386物件で1兆7397億円(優先出資証券等は除く、追加取得は含む。新規上場銘柄の上場前取得分は上場日に取得したものとして計算)。2017年の1兆3187億円を32%上回り、2016年に迫る高水準の実績であった。一方、物件取得競争が激しい状況に変わりはなく、優良物件を適正価格で取得することは難易度が高い。実際、2018年のJ-REITによる物件取得事例の大半はスポンサーからの取得であり、第三者からの取得事例はかなり少なかったと言えよう。

今後も低金利環境の継続により低い資本コストや期待リターンを背景に様々な主体の買いニーズは強いことに加え、物件の売りニーズは限定的であることが想定される。J-REITに対しては一口当たり収益性を高める外部成長には期待したいものの、高値での物件取得という深追いはすべきでないと考える。

また、2018年のJ-REITによる物件譲渡総額は3,543億円に達し、これまでの過去最高額であった2017年の2,866億円を24%上回った。これら物件売却はポートフォリオの質向上を目的とした物件入替や不動産売買市場が活況であることを生かした売却益の計上が物件売却理由として挙げられる。また、一部では買収リスクを意識し、物件売却を実行して自らの純資産価値を表面化させることにより投資口価格の向上を目指す動きもあっただろう。今後についてもこのような流れは続くことが十分に考えられよう。ポートフォリオの質向上や売却益の計上(含み益の顕在化)を目的とした物件売却は肯定的に捉えたい。

2018年の東京23区及び首都圏における平均取得キャップレート(鑑定評価上のNCF/取得価格、取得価格加重平均)はオフィスが4.1%、住宅が4.5%、商業施設が4.2%、物流施設が4.6%、ホテルが4.3%であった。2017年の同地域における平均取得キャップレートはオフィスが4.0%、住宅が4.6%、商業施設が4.7%、物流施設が4.6%、ホテルが4.5%であった。これらは実際の取得事例であるため、取得キャップレートにはばらつきはあること、質の違い等がある点は留意すべきであるが、2018年の取得キャップレートは2017年平均との比較ではオフィス、住宅、物流施設はほぼ横ばい、商業施設及びホテルが低下した。

また、同期間の全地域における平均取得キャップレート(取得価格加重平均)はオフィスが4.2%、住宅が4.7%、商業施設が4.6%、物流施設が4.8%、ホテルが4.7%。同5用途の全地域における平均取得キャップレートは4.5%であり、2017年平均である4.7%から20bps低下、2016年平均に比較して30bps低下している。直近決算期ベースのJ-REIT市場全体のNOI利回りは5.4%であり、最近の取得事例は既存ポートフォリオを下回る水準での取得である。キャップレートの低下は首都圏以外でも継続しており、不動産価格は引き続き上昇傾向が続いている。取得環境は厳しい一方、J-REITが保有する不動産価値やNAVの改善につながっているものと言えよう。

一方、2017年以降はインプライド・キャップレートを下回る水準での取得事例が増加している。インプライド・キャップレートはその時々の投資口価格から逆算されるハードルレート(資本コスト)と捉えることができる。取得物件の質や立地が既存ポートフォリオよりも良好であるならばインプライド・キャップレートを下回る水準での取得が許容される場合もある。しかし、質や立地が優れていないにも関わらず物件取得により資産規模を拡大していくことは投資主価値を毀損することになる。各REITに対してはその点を認識して物件取得をすることを望みたい。それができないのであれば自己投資口取得が実質的に有効な投資手段であると言えよう。また、収益性の低い物件を売却し、同売却物件よりも収益性の高い物件を取得すれば、インプライド・キャップレートとは関係なく一口当たり収益性の改善につながる。売却価格には留意する必要があるものの、このような環境では物件入替も有効な手段であると考える。

■(図5)J-REITによる物件取得実績(暦年ベース、2018年12月末発表分まで)
(図5)J-REITによる物件取得実績(暦年ベース、2018年12月末発表分まで)

■(図6)J-REITによる物件譲渡実績(譲渡額ベース)(暦年ベース)
(図6)J-REITによる物件譲渡実績(譲渡額ベース)(暦年ベース)

■(図7)J-REITの平均取得キャップレート(全用途平均)(暦年ベース)
(図7)J-REITの平均取得キャップレート(全用途平均)(暦年ベース)

 

「2019年のJ-REIT市場展望」
賃料増額と物件入替による収益性向上を期待

筆者はJ-REIT市場に対して強気の見方を持っており、東証REIT指数は2,000ポイントを目指す展開を想定する。前述の通り、2018年の同指数は低金利環境下で4%超の分配金利回りが得られるというインカムゲインニーズを背景に安定的かつ堅調に推移したと考える。2019年は同インカムゲインニーズに加え、増配が続くJ-REITへの「分配金成長」に着目したい。

J-REIT市場全体の一口当たり分配金は2011年下期~2018年下期の過去7年間で28%増加、年率換算で4%増加した。直近1年間では2018年上期が前年同期比+5.5%、2018年下期が同+5.7%となり、堅調に増配を継続している。2018年における増配の主な要因は、オフィスのみならず住宅や都市型商業施設、物流施設でも賃料増額が実現できたこと、積極的な物件入替によるポートフォリオ収益性の向上、デットコストの減少継続が挙げられる。2019年についてもその傾向は継続すると期待する。

■(図8)J-REIT市場全体の一口当たり分配金指数の推移(2002年下期=100)
(図8)J-REIT市場全体の一口当たり分配金指数の推移(2002年下期=100)

■(図9)東証REIT指数2,000ポイントに向けての道すじ
(図9)東証REIT指数2,000ポイントに向けての道すじ

 

分配金利回りスプレッドは縮小へ

J-REIT市場全体の分配金利回りスプレッド(分配金利回り-長期金利)の推移を見ると、2013~15年は3%前後で安定的に推移し、同期間の平均同スプレッドは3.1%、2015年12月末時点で3.3%であった。同期間での東京都心部におけるオフィス空室率は低下し、市況賃料は反転。J-REITが保有するオフィスの賃料ギャップ(既存賃料>市況賃料)は縮小して賃料減額リスクは低下した。その結果、安定した分配金の確保が期待できる状態となり、かつ先行きへの懸念も解消した。つまり、同期間のJ-REIT市場は過度な不安も期待も少ない安定期であったと考える。

一方、2016年から2017年にかけてはオフィス賃料が上昇を続けて各J-REITの賃料増額事例も増加し、内部成長が増配をけん引するようになった。また、日銀による金融緩和により長期金利は0%前後で低位安定。これらを背景にすると本来であればJ-REITの分配金に対する期待成長率の高まりにより分配金利回りスプレッドは縮小傾向となるはずであるが、実際にはむしろ上昇し、2017年11月には同スプレッドは4.4%にまで拡大した。2018年は投資口価格が堅調に推移したことにより同スプレッドは縮小傾向となったものの、2018年12月末時点で4.2%と高水準にとどまっている。

現状の分配金利回りスプレッドが2013~15年に比較して高水準にとどまっている主な要因について、筆者は将来の長期金利上昇や賃料下落等による分配金下落リスク、グローバルでのクレジット市場悪化をマーケットは懸念しているためと考える。長期金利については多少上昇することは想定するものの、0.5%を超過して1%にまで上昇することは目先想定しない。また、足元の堅調なオフィス需要を勘案すると、オフィス賃料が下落することは想定していない。クレジット市場動向には注視しながらも、長期金利を0.5%と想定した場合での分配金利回りスプレッドは2013年~2015年の平均値である3%台前半にまで縮小する余地は十分にあると考える。筆者はその場合の分配金利回りは3.7%(0.5%+3.2%)に低下することを想定、これを東証REIT指数に換算すると2,000ポイントとなる。

また、東証REIT指数が2,000ポイントとなった場合、直近の鑑定評価額をベースとしたJ-REIT市場全体のNAV倍率は1.20倍となる。同NAV倍率は2014~18年での過去5年間での平均値(1.21倍)とほぼ同水準であり、到達可能な水準であると考える。

■(図10)J-REITの分配金利回りスプレッドと都心5区募集賃料
(図10)J-REITの分配金利回りスプレッドと都心5区募集賃料

■(図11)J-REIT市場全体のNAV倍率の推移(鑑定評価額ベース)
(図11)J-REIT市場全体のNAV倍率の推移(鑑定評価額ベース)

筆者が2019年に注目しているサブセクターは「中堅・中上位オフィス型」に加え、「物流施設型」と「ホテル型」である。「中堅・中上位オフィス型」に関しては、好調なオフィス市況を背景に内部成長(賃料増額)と物件入替による継続的な増配が期待できる。また、現状での分配金利回り格差や過去の平均水準から判断すると、「中堅・中上位オフィス」は「大型オフィス」に比較して割安感がある。「大型オフィス」のファンダメンタルズは好調であることから同サブセクターの対東証REIT指数での大幅なアンダーパフォームは想定しないものの、「中規模オフィス」の方がより魅力的であると考える。2018年以降の東京オフィス市場では大型ビルの供給が継続している一方、中規模ビルの供給は限定的である。堅調なオフィス需要や大型ビルと中規模ビルの賃料水準の格差を勘案すると中規模ビルの需給は引き締まった状況が続くと考える。

2018年初以降の「物流施設型」のパフォーマンスは他のタイプに比較して劣後したことから同サブセクターの割安感が大きくなっている。2018年12月末時点での「物流施設型」の分配金利回りは相対的に高水準にある。同用途の賃貸借契約は一般的に長期固定賃料契約が多いことやEコマース市場の拡大等によりテナント需要が旺盛であること等から同REITの賃料収入は安定的もしくは緩やかな増加基調となり、ファンダメンタルズは堅調であると考える。

他方、各物流施設型REITのスポンサーがオフバランス戦略を基本としながら積極的な開発を継続している点が物流施設型REITのパフォーマンスの重しになったことが挙げられる。各スポンサーは同施設の開発・リーシングが完了後、速やかにREITに売却し、将来の開発資金を確保するという戦略をとっている。これにより、各物流施設型REITは継続的な資金調達が必要となる。良好な条件により物件取得を実施し一口当たり収益性の向上が期待できれば好感できるものの、キャップレートの低下から一般的には外部成長を見込むことは難しく、投資口需給の観点で重しになる可能性があると言えよう。このような点により2018年の物流施設型REITが東証REIT指数比で大きくアンダーパフォームした要因であったと考えられる。

ただし、このような点を背景としたとしても一部銘柄を除き一口当たり収益性が低下するケースは少なく、現状の物流施設型REITには割安感が大きいと考える。ポートフォリオの質が高く賃料収入の安定性が期待できる銘柄や外部成長(物件取得による一口当たり収益性の向上)に高い期待が持てる銘柄に関しては投資タイミングとして好機と捉えたい。

「ホテル型」の分配金利回りは2017年1月以降高止まりを続けている。現状は、将来の賃料下落等の懸念を織り込んだ状況、もしくは同賃料のボラティリティの高さを背景としたリスクプレミアムが上乗せされた状況にあると考える。2019年に関しては引き続き高水準な供給が継続する一方、2020年以降は供給減少が予想される。他方、インバウンド需要増加継続や2020年の東京オリンピック等需要面での増加が継続することが想定される。現在は投資タイミングの好機と考える。

 

 

掲載日:2019年3月4日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
大和総研および大和証券SMBC(現・大和証券)において年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。2010年10月より現職。InstitutionalInvestor誌の「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012〜2018年に1位を獲得。日経ヴェリタス誌「アナリストランキング」REIT部門で2016年〜2018年に1位を獲得。(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

 

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