第1回

日本政策投資銀行アセットファイナンス部に聞く
J-REITの取得進むDBJグリーンビルディング認証。独自基準で環境不動産の浸透・拡大に期待

J-REITによる「DBJグリーンビルディング認証」取得が増えている。同認証は日本政策投資銀行(DBJ)が主導し、日本不動産研究所が認証業務を行う環境不動産の総合的な認証制度だ。同認証の概要や意義、J-REITで取得が進んだ背景などを、日本政策投資銀行アセットファイナンス部の福井幸輝氏に聞いた。

――2011年にスタートしたDBJグリーンビルディング認証制度ですが、まずはその概要を教えてください

鳥井裕史氏フォト

日本政策投資銀行アセット
ファイナンス部

調査役 福井 幸輝

福井氏「DBJグリーンビルディング認証」は、省エネなどの環境対策、テナントや利用者にとっての安全性や利便性、地域とのかかわりなどを総合評価する日本政策投資銀行(DBJ)独自の不動産評価認証制度です。環境や社会への配慮を併せもつ不動産の評価を通じて、事業者と金融機関・投資家の“架け橋”となることに目的に創設されました。

国土交通省が主導する「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)や米国が中心の「LEED」(Leadership in Energy and Environmental Design)などと比較されることが多いのですが、その位置づけや目指す世界が少し違います。当認証は、いわゆる環境不動産を「低炭素社会をはじめとする持続可能な社会実現のためのよりよい循環に貢献する不動産」ととらえています。

環境性能や省エネなどは環境不動産の側面のひとつですが、持続可能性という観点ではそれだけではありません。環境はもちろん、ステークホルダーとの関係性やビル運営上の各種取り組み方針などを含めて、総合的に高く評価される不動産が世代継承されていくべきと考えます。ここに、本当の意味での環境不動産の在り様があるはずです。

――持続可能な不動産として評価する環境を含めた総合的な指標ということですね。なぜ、政策金融機関として投融資を行うDBJが不動産評価・認証を手掛けているのでしょうか

福井氏DBJグリーンビルディング認証は当初、当行のお客さま向けにESGや環境不動産に対する取り組みの「見える化」を促進するサポートとしてスタートしました。その後、当行は、2014年に、不動産会社・運用機関のサステナビリティ配慮を測る世界的なベンチマーク「GRESB」(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)に投資家メンバーとして参画、2016年にはアドバイザリーボードのメンバーになりました。

現在、GRESBは欧州等の機関投資家が投資先を選定する際に活用されており、J-REITにおいてはそうした機関投資家から投資を受けるためにGRESB評価を受けることが重要になっています。当行がGRESBにより深く関わっていくなかで、当認証の取得がGRESBの評価ポイントのひとつに含まれました。こうした経緯で、J-REITを中心に取得が広がったということができます。いわば、当行の顧客サービスのひとつだった当認証が、GRESBとの関わりが深まるにつれて、より一般向けの環境不動産認証制度へとそのステージが変わってきたわけです。

CASBEEやLEEDの評価は、データや環境性能をより重視したものになっています。それに対して当認証は、前述のように「環境・社会への配慮」を前面に出しています。これが大きな特徴のひとつですし、差別化ポイントになります。金融機関であるDBJがGRESBのアドバイザリーボードに入ったことやPRI(責任投資原則)に署名したことで、よりハイレベルなESGやPRIの取り組みに触れる機会が増えました。当行はそこで得た経験やノウハウを環境不動産のアセットレベルへ上手につなげる役目を果たすということです。また、当行は企業の防災対策や環境配慮を評価する独自の制度を運営しており、こうした活動を通じて得た知見を環境不動産の分野に還元することも役割と認識しています。

したがって制度の特徴としては、必ずしも不動産の環境性能や定量的な項目だけに着目することなく、長期的な視点に立った事業者の取り組みや社会的意義も重視した評価になります。また、“懸け橋”として不動産を取り巻く関係者間の対話や協調が行いやすいように極力シンプルな制度にもなっています。

――DBJグリーンビルディング認証の具体的な評価プロセスを教えてください

福井氏「エコロジー」「アメニティ」「コミュニティ/ダイバーシティ」「リスクマネジメント」「パートナーシップ」の5つの視点で総合評価します(図参照)。図の左側に行くほど定量的視点で、右側に行くほど関係性や対話などを重視する定性的な視点ということができます。スコアリングモデルとしては、上記5つの視点でそれぞれ「優れた取り組み」を加点していきます(300点満点)。評価項目は対話性を重視して簡明なものになっています。なお、現在認証の対象としている物件は「オフィス」「物流」「商業」「レジデンシャル」の4種類です。

●DBJグリーンビルディング認証

図:DBJグリーンビルディング認証

出所: 日本政策投資銀行

評価プロセスとして特徴的なのは「イノベーション」です。環境技術などの最先端の取り組みに関して、当認証を取得しようとする申請者自身がその革新性や先進性などを説明することでポイントを加算する仕組みです。これによって、そのノウハウなどを少しでもDBJグリーンビルディング認証に取り込むことができ、当行が投資家や金融機関などにフィードバックすることができます。結果として社会への還元や環境配慮がより進むことになります。当認証がコミュニケーションツールであることの一例ということができるでしょう。

認証(プライズ)は環境・社会への配慮が“十分以上”なされた不動産のみに、1つから5つまでの星として付与されます。つまり、十分になされていないと付与されません。1つ星が低評価ということではなく、逆に環境不動産として一定以上の基準を満たしていることを表しています。また不動産の長期利用を促進する観点から、物件改修やオペレーション評価など、規模や築年数にこだわらない項目も「優れた取り組み」として評価項目に相当程度含まれています。

――これまでの認証取得物件数やその特徴は

福井氏2018年3月末現在で、DBJグリーンビルディング認証の申込件数は1000件近くあって、そのうち認証を付与された物件が539件でした。残りの約400件は1つ星に満たない物件と途中で辞退した物件です。特徴的なのは付与された物件の平均築年数が11.2年であることです。CASBEEやLEEDは新築と既存物件で違うスコアリングモデルで評価しています。当認証は新築・既存問わず同じ目線で評価しており、この点は大きな特徴のひとつといえるでしょう。

平均築年数が11.2年ということは、いま現在使われている物件を評価していることになります。たとえば、認証を付与された物件のなかで最も古い物件の築年数は90年ですが、4つ星を取得しています。戦前に建築された建物でありながらも、省エネ性能や耐震性能を高めるリノベーションや大規模修繕を実施することで現代のオフィスビルとして十分な機能を保持しつつ、歴史的建造物として地域に愛される取り組みなどを評価させていただいた結果です。

昨今の不動産価格の上昇により、J-REITは物件の新築購入が難しい環境です。保有する物件の平均築年数が10年を超えるようなJ-REITも多く、保有物件をどれだけグリーン化するか、ESGの観点を持ち込むかが問われています。当認証はその指標としてJ-REITをサポートすることもできるでしょう。

――実際のところ環境不動産はどの程度経済性に優れているのでしょうか

福井氏環境不動産と経済性の相関は、日本だけでなく世界的にも注目されているトピックです。国連では、将来の訴訟リスクや従業員の健康リスクなどに数字を当てはめることができれば、環境不動産がその対応コストを低減させることも経済合理性のひとつだと指摘しています。また、環境不動産以外への投資が世の中から排除されていくリスクも経済的に議論されるかもしれません。その通りだと思う一方で、しかし市場はもう少し直接的な理由を求めています。当行も日本不動産研究所の協力で検証を進めていますが、なぜ環境不動産に投資するのかという問題意識に対する明確な答えは、依然としてないのが現状です。

オフィス賃料を切り口に調査してみましたが(*)、2015年時点では、サンプル数が少なかったため当認証と市場との相関関係は見られませんでした。2016年においては、十分なサンプル数が蓄積され、認証物件は認証を受けていない物件に比べて賃料が11.4%高かったという結果が出ています(賃貸可能面積7,500m2以下、有意水準10%)。2017年は同じく11.9%高い結果でした。有意水準は5%だったので、統計的な確からしさは上がっています。

この結果は結論ではなく、問題提起のひとつだと認識しています。こうした市場とのディスカッションを続けて、5年後10年後20年後に市場が形成されていくのでしょう。現在も金融機関などがさまざまな実証分析を行っており、将来どこかで実を結ぶことを期待しながら検証を続けていく予定です。

――J-REITにおけるDBJグリーンビルディング認証の活用状況は

福井氏冒頭で述べたように、GRESBへの参加を目的としてJ-REITでの活用が増えてきました。2018年3月末時点の認証数559件のうち、J-REITは326件で過半数を占めています。326銘柄のうち、3つ星が約250銘柄、5つ星が約40銘柄ありました。認証を受けた法人は全59投資法人中43法人でした。保有資産の全延べ床面積の50%超について、当認証を取った法人もあります。

J-REITからは「使いやすい」という評価をいただく一方で、「当認証の対象となるアセットクラスを増やしてほしい」という声も寄せられています。当認証の4分類の他に、たとえばホテルや公共施設、シニアハウジングなどです。この点は関係者と協議しながら順次検討していきたいと考えています。また、古い建物の維持・運営にESGアクティビティを付加することを目的に、大規模修繕の際に当認証を活用したいという声もあります。たとえば「現在は3つ星だが大規模修繕して5つ星にしたい」などです。この点も前向きにとらえており、そのためにビルオーナーや設計事務所との対話機会も少しずつ進めています。

――最後に今後の展望を教えてください

福井氏今後はJ-REITだけでなく、事業会社にもDBJグリーンビルディング認証の活用を広めていきたいと考えています。たとえば、ノンコアで不動産事業を行っている地方の事業会社など専門ではないが不動産ビジネスが必要な会社です。保有物件にESGの観点を取り入れるために、当認証を取得する目的で相談したいというニーズが生まれています。開発段階のみならず運用段階でも改善に繋げることが十分に可能で、当行もディスカッションしながら対応している状況です。

また、認証制度の更なる情報開示が期待されていると考えています。スコアリングモデルは毎年アップデートしていますが、今後はスコアリングの考え方や設問項目をオープンにしていく予定です。2018年内には来年度(2019年度)モデルとして公開できるよう進めているところです。

当行の目的は、当認証を付与することでも、認証取得件数を増やすこともでもありません。社会全体の環境不動産というムーブメントを盛り上げることが目的です。GRESB等と触れ合うことで得た最先端の知見はもちろん、当行自身の不動産投資経験を、環境不動産を切り口に機関投資家や年金基金などに還元する役目もあります。スコアリングモデルの公開等を通じ、さまざまな関係者と活発なコミュニケーションを取りながら日本における環境不動産のムーブメントを育てていきたいと考えています。

(*)出所:一般財団法人日本不動産研究所。データ時点:2017年6月時点で入手可能なJ-REIT直近決算期/データ入手方法:東急不動産J-REITシステム(TOREIT)により取得/対象エリア:東京・神奈川・千葉・埼玉/サンプル数:612/分析手法:空間ラグ&エラーモデル/被説明変数:賃料単価(賃貸可能面積あたり)→全体の75%が含まれる賃貸可能面積7,500m2を境に2つに区分

 

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