第3回

日本不動産研究所 古山氏が語る
グリーンビルディングの経済性と鑑定評価の現状

前回の特集記事では、現在J-REITが保有不動産に関する環境性能評価の取得を進めていることを紹介した。環境性能評価の取得のためには相応の投資が必要となるが、果たしてそれに見合うリターンは得られるのだろうか。環境性能評価を取得している不動産に関する不動産鑑定評価上の取扱いも含めて、日本不動産研究所 古山氏にご解説いただいた。

1.グリーンビルディングが必要とされる背景

鳥井裕史氏フォト

日本不動産研究所 業務部参事
古山英治

2015年に制定されたパリ協定により、産業革命前からの気温上昇を2℃以内に収めることが各国の目標として認識された。様々な産業がこの課題に取り組む中、「不動産」がこの目標に貢献できることは少なくない。不動産所有者やディベロッパーは地球温暖化に悪影響をもたらす二酸化炭素の排出をおさえ、建物の省エネ化を進めることが急務となっている。

不動産投資の世界においてもESG投資がメインストリームになりつつある。ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスに配慮して投資を行うことであり、短期的な利益ではなく長期的な利益を志向する考え方である。2008年に起きたリーマンショックの反省もこの考え方を後押しした。また、ESG投資は2015年に制定された「持続可能な開発目標(SDGs)」を投資という手段で実践する考え方としても捉えられるようになっている。

日本では2015年に世界最大の投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「責任投資原則(PRI)」に署名した。これによって日本でもESG投資の機運はかつてないほど高まっており、各社が肩を並べてESG投資の研究や実践を進めているところである。

このような背景から環境や社会に配慮した「グリーンビルディング」の必要性はますます高まっている。

2.グリーンビルディングを「見える化」する環境性能評価

さて、そもそもグリーンビルディングとは何か。「環境にやさしいビル」、「持続可能なビル」など、様々な概念があるが、ここでは第三者による環境性能評価を取得したビルと定義したい。一般的にもグリーンビルディングと呼ぶときは同様の意味で捉えられることが多いからである。

この環境性能評価制度は各国に存在しており、諸外国の制度も含めて代表的なものは下表のとおりである。制度の目的や対象等、評価項目の内容による分類を試みた。このうち我が国では、総合的な環境性能等を評価するCASBEEやDBJ Green Building認証、省エネルギー性能を評価するBELSなどが特に普及している。海外の環境性能評価では米国発のLEEDが日本においても著名であり認証実績も積み上がっている。また、企業やポートフォリオ単位で評価するグローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク(GRESB)に参加する企業も近年のESG投資の高まりを受け増加傾向だ。

このような環境性能評価を取得することによってグリーンビルディングを「見える化」することが可能であり、環境性能評価の取得者は、不動産の売買、賃貸、投融資のそれぞれのマーケットに対して、その取り組みをアピールすることができるのである。

●環境性能評価一覧表

目 的 不動産・企業の価値を高めるため
(ブランディング・差別化)
設計や行政の支援
(普及・底上げ)
対象等 優れた建築物への自主的な取組み 一定規模以上の
建築物への義務づけ
方 法 第三者による認証 自己評価
単 位 ポート
フォリオ
個別物件 個別物件
内容 総合的な
環境性能等
GRESB CASBEE建築認証
CASBEE不動産認証
DBJ Green Building認証
LEED
BREAM
NABERS  
など
CASBEE-建築
自治体版CASBEE
 CASBEE横浜
 CASBEE川崎
 CASBEEかながわ 
など
省エネルギー性能 BELS
ENERGY STAR
 
省エネルギー基準
建築物環境計画書
など

図表:一般財団法人日本不動産研究所作成

 

3.環境性能評価と経済性

環境性能評価を取得するためには、当然ながら建物に対して相応の投資が必要であり、それはしばしばコストとして認識される。代表的な投資はLED照明や高効率の空調設備、BEMS(ビルエネルギー管理システム)の導入などである。あるいは災害の多い日本においては、BCP対応を進めることもビルの持続可能性の観点から重要である。このように建物に対して一定のコストをかけた結果、環境性能評価が取得可能となる。では、環境性能評価を取得したビル、つまりグリーンビルディングは経済性も伴っているのであろうか。グリーンビルディングは他のビルに比べて価値が高いといえるのだろうか。海外では様々な研究が既に行われているが、我が国においても、徐々にこのような研究が増えつつある。経済性には様々な視点があるが、一般的にはテナントからの評価、つまり賃料の高さという形で現れることが多く、賃料が他の物件に比べて高いのか否かに焦点を当てた研究が多い。ここでは我が国の研究結果をいくつか紹介したい。(分析プロセスなどは省略した)

(1)ザイマックス不動産総合研究所による研究

ザイマックス不動産総合研究所の研究によれば、「規模、新しさ、立地、成約時期、他の性能・設備などの影響を考慮した上でも、環境認証*を持っていることは、新規成約賃料に対して約4.4%プラスの影響を与える」ことがわかった。

*環境認証はCASBEE(77棟)、CASBEE不動産(36棟)、DBJ Green building認証(90棟)、SMBCサステイナブルビルディング評価(8棟)が対象

(2)一般財団法人日本不動産研究所による研究

一般財団法人日本不動産研究所の研究によれば、DBJ Green building認証とオフィス賃料には正の相関関係あることがわかった。空間自己相関を考慮した空間エラーモデルによる分析を行った結果、賃貸可能面積7,500㎡以下のグループについて、DBJ Green building認証がある物件は無い物件に比べて賃料が11.9%高いという推定結果が得られた。

(3)スマートウェルネスオフィス研究委員会による研究

一般財団法人日本サステナブル建築協会の「スマートウェルネスオフィス研究委員会経済調査ワーキンググループ(主査:伊藤雅人)」は2014年度にCASBEEを用いた経済効果調査を実施し、CASBEEの認証や評価を受けているビル(以下「CASBEE」ビル)約200棟と、これを受けていないビルを対象に分析を行った。オフィス賃料に影響を及ぼす様々な要因の中で、CASBEEのスコア等がどの程度の影響を与えているかに関する重回帰分析において、「CASBEEビルは非CASBEEビルに比べて賃料が坪当たり約564円(サンプルの平均賃料比約3.64%)高い」ことが判明した。

以上のとおり、環境性能評価と賃料には正の相関があり、環境認証を取得しているビルは賃料が高いということが判明している。したがって、グリーンビルディングの経済性は既に明らかになっているのである。ただし、ここで注意したいのは、環境認証を取得したから賃料が上昇したという因果関係までは分析できていないことである。因果関係の分析は今後の研究に委ねたい。また、これらの分析はある一時点における相関関係を分析したものであり、たとえば、ある一定期間におけるグリーンビルディングの賃料や入居率の安定性などが証明できれば、グリーンビルディングの経済的な優位性を補強することができるだろう。

 

4.グリーンビルディングに対する不動産投資家の認識

このような分析結果が出ているものの、実は不動産市場関係者(アセットマネジャー、ディベロッパー、銀行、生命保険会社、年金基金など、ここでは「不動産投資家」という)にはまだ浸透していないといわざるを得ない。筆者が所属する一般財団法人日本不動産研究所が行ったESG不動産の経済性(賃料や期待利回り)に関するアンケート結果を紹介したい(図表)。なお、ここでいうESG不動産はグリーンビルディングと同義と捉えて差し支えない。

賃料も期待利回りも大部分の不動産投資家は現在では優位性を感じていないようだ。しかし逆に10年後は大部分が不動産価値は上昇する方向で回答している。既に賃料の優位性に関する研究結果は発表されているものの、まだ不動産投資家が実感できるほどではないのかもしれない。あるいはこのような研究結果の存在はあまり認知されていないのかもしれない。しかし、不動産投資家は時流を捉えているのか、将来の不動産価値については、大部分が上昇すると予測していることは興味深い。

●ESG不動産とそうでない不動産との賃料比較(現在)

図:ESG不動産とそうでない不動産との賃料比較(現在)

●ESG不動産とそうでない不動産との賃料比較(10年後)

図:ESG不動産とそうでない不動産との賃料比較(10年後)

出典:一般財団法人日本不動産研究所による「不動産投資家調査」

●ESG不動産とそうでない不動産との期待利回り比較(現在)

図:ESG不動産とそうでない不動産との期待利回り比較(現在)

●ESG不動産とそうでない不動産との期待利回り比較(10年後))

図:ESG不動産とそうでない不動産との期待利回り比較(10年後)

出典:一般財団法人日本不動産研究所による「不動産投資家調査」

 

5.グリーンビルディングの鑑定評価の現状

グリーンビルディングに関する鑑定評価の方法論は確立されたものはなく、現在急ピッチで検討が進められているところである。現在の不動産鑑定評価基準では、不動産鑑定評価基準運用上の留意事項において、建物の価格形成要因に「省エネルギーの対策の状況」が記載されているのみであり、評価手法等に関する具体的な記述はない。したがって、ここでは筆者の見解を述べることにしたい。

グリーンビルディングは前述したように相応の投資が必要となり、通常よりは建築コストがかかるといえる。また、グリーンビルディングであることで、経年による減価の程度は緩くなることも考えられる。あるいは、グリーンビルディングがテナントに評価され賃料を高く収受できる場合もあれば、投資利回りを低く設定することで、売却価格が上昇する可能性もある。前者は、原価法による積算価格を求める過程において、後者は収益還元法による収益価格を求める過程において考慮されるべきものである。より詳しくみていこう。

原価法は、コストアプローチともいわれ、建物にかけたコストの観点からアプローチする手法である。グリーンビルディングは一般的にはコストがかかることから、再調達原価が通常より高くなる場合があり、これを適切に反映すべきである。「CASBEEのB+からSに上げるのに10%程度コストアップする」との調査結果もあり、ひとつの参考になりそうだ。

減価修正の際は、減価要因(物理的減価、機能的減価、経済的減価)のうち、特に機能的減価、経済的減価は通常のビルよりも減価の程度が少なくなることが考えられる。

そして特に注目すべき手法は収益還元法である。いうまでもなく、投資対象となる不動産の収益性に着目した手法であり、不動産から得られる純収益を還元利回りで除すことで価格を求めることができる(直接還元法の場合)。グリーンビルディングは不動産投資の対象となることが多く、その場合、市場参加者は収益性に着目するため、収益還元法が特に重視されるのである。

●直接還元法のイメージ図

図:直接還元法のイメージ図

図表は筆者作成

直接還元法は非常に単純な計算式であり、純収益、還元利回りへの影響を考えればよい。純収益の増加及び還元利回りの低下は価格の上昇を意味する。

純収益が増加する場合は二通りあり、ひとつはグリーンビルディングであるために賃料が高く収受できた場合、もうひとつは、例えばLED照明の導入でコスト削減が実現し、費用が減少した場合である。これらはいずれも純収益の増加に繋がる。通常、異常値でない場合、実績としての純収益はそのまま鑑定評価において採用することが多い。前述したように既にグリーンビルディングは賃料が高いという研究は多数出されており、鑑定評価では純収益の査定の中でそのプレミアムを反映しているといえるだろう。

一方で還元利回りではどうであろうか。グリーンビルディングであるがゆえに、還元利回りを低く設定することがあるのだろうか。還元利回りはリスクフリーレートに不動産の種々のリスクプレミアムを上乗せしたものである。この不動産のリスクには、たとえば、将来の環境関連規制の厳格化リスクも含まれていると言える。たとえば、英国やオーストラリアは一定の環境性能を有していないビルを賃貸すると違法であるように、日本も将来、法制度が進む可能性もある。その際に、現時点のグリーンビルディングはその規制強化リスクが低いといえるため、理論的には還元利回りを低く設定することも考えられる。しかしながら、鑑定評価の立場は、あくまで市場の実態を反映することであり、理論や期待値が先行してはならない。前述した不動産投資家の期待利回りに関するアンケートでは現時点での優位性をみているとは言いがたく、鑑定評価において還元利回りを低く設定するのは時期尚早といえるだろう。ちなみに海外の鑑定評価機関を通じて米国、中国、香港、韓国、台湾、マレーシア等の状況をヒアリングしてみたが、いずれも鑑定評価において還元利回りを低く設定する例は確認できなかった。

ではこの還元利回りに関して鑑定評価機関ができることは何だろうか。当然ながら、グリーンビルディングの市場実態について注意深く観察していく必要がある。筆者はそのほかにも出来ることがあると考えている。それは、前述したようなグリーンビルディングの経済性に関する分析を継続して実施して市場に伝え続けていくことである。グリーンビルディングの優位性が分析結果で明らかになりつつも、あまり認知されていない現状を少しでも進展させることができるかもしれない。このような活動を経て、市場の実態が変化すれば、そのときに鑑定評価でも反映していけばよいのである。

●純収益が増加する場合①(高い賃料を収受できた場合)

図:純収益が増加する場合①(高い賃料を収受できた場合)

●純収益が増加する場合②(費用を削減できた場合)

図:純収益が増加する場合②(費用を削減できた場合)

図表は筆者作成

 

6.おわりに

建物への投資(たとえば省エネ改修など)は、不動産価値が上がるなどのわかりやすいメリットがほしいという声をよく聞く。前述したように不動産価値には既に反映されているといえるのだが、このことはまだ市場参加者にはあまり知られていない。したがって、様々な研究結果が浸透していくのを待ちたいが、一方で「グリーンビルディングのプレミアムが広く知られる時期は果たして到来するのか」という疑問が涌いてくる。グリーンビルディングはパリ協定の実現のため、あるいはESG投資の受け皿として、今後ますます増えていくことになるだろう。ある時期にはグリーンビルディングであることが当たり前になっているかもしれない。そうなると逆にグリーンビルディングでないビルは、市場から選別されなくなる、あるいは価値が低く見られるという事象が起きるかもしれない。たとえば「耐震性」「アスベスト」「土壌汚染」などの要因はそれがクリアされていることが当然であり、クリアされていない物件は価値が低くなっている。これと同じような事象がグリーンビルディングに関しても起こるかもしれない。価値を高めるために投資を行うことやグリーンビルディングの不動産価値のプレミアムを議論することも大事であるが、価値を毀損させない、あるいは市場から取り残されないために投資をするという考え方も重要ではないだろうか。

 


古山 英治氏プロフィール
一般財団法人日本不動産研究所業務部参事。2000 年一般財団法人日本不動産研究所に入所。 日本政策投資銀行との業務提携の下でDBJ Green Building 認証業務に従事し、認証業務の実施及び普及促進に努める一方で、環境認証と不動産価値に関する経済分析を担当。国土交通省「ESG 投資の普及促進に向けた勉強会」委員などを歴任。不動産鑑定士、不動産証券化協会認定マスター、再開発プランナー。

 

【参考文献】
伊藤雅人:不動産に関する『環境付加価値』の検討/(社)東京都不動産鑑定士協会10周年記念論文/2005
伊藤雅人:不動産のサステナビリティ向上とその付加価値について/ARES不動産証券化ジャーナル Vol.26/2015.7-8
中山善夫、吉田淳、大西順一郎:第4回 これからの不動産市場における環境マネジメントの重要性~環境認証の経済性分析を通じて~/ARES不動産証券化ジャーナルVol25/2015.6

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