第1回

ヘルスケアリート入門

1.はじめに

来たる高齢社会に備えて医療施設や介護施設等のヘルスケア施設の供給促進が求められている中、民間資金を有効活用するために不動産証券化手法の採用が検討されています。その中でも、私募ファンド等に比べて長期で安定的な資金の出し手(投資主体)となる不動産投資信託(Jリート)に期待が寄せられており、2013年12月5日に閣議決定された「好循環実現のための経済対策」においても「ヘルスケアリートの上場推進等を通じたヘルスケア施設向けの資金供給の推進」が掲げられました。今まさに官民協働により上場ヘルスケアリート市場の環境整備が行われているところではありますが、当取引所においても環境整備の一環として、投資者によるヘルスケアリートへの理解促進を目的としさまざまなコンテンツを提供していくこととします。今回の「ヘルスケアリート入門」を導入とし、数回にわたるレポートやインタビュー記事を通じて、いくつかの視点からヘルスケアリートについて検討し、その実態をなるべく簡易な形で明らかにしていきたいと思います。

2.ヘルスケアリートとは

東証ではヘルスケアリートを「主たる投資対象をヘルスケア施設とするリート」と定義しています。つまり、総資産に占めるヘルスケア施設の割合が50%超のリートを指しており、Jリートの投資物件全体(ポートフォリオ)の一部にヘルスケア施設を含むのみではヘルスケアリートに該当しません。2014年3月末時点で東証に上場するJリートは図表1の通りですが、複数のJリートでヘルスケア施設への投資を行っているものの、いずれもポートフォリオの一部に止まっています。東証の定義するヘルスケアリートに該当するJリートは存在しませんが、例えばJリートの資産運用会社(AM会社)である大和リアル・エステート・アセット・マネジメント株式会社は、ヘルスケアリートの平成26年中の上場を目指すことを表明(2013年12月25日付:大和証券オフィス投資法人プレスリリースより)しており、近い将来のヘルスケアリートの上場が期待されています。

●図表1 上場Jリート一覧(2014年3月末時点)

証券
コード
投資法人名 運用資産 運⽤資産
オフィス 住居 商業施設 ヘルスケア
施設
その他
8951 日本ビルファンド投資法人 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% オフィスビル特化型
8952 ジャパンリアルエステイト投資法人 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% オフィスビル特化型
8953 日本リテールファンド投資法人 0.0% 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 商業施設特化型
8954 オリックス不動産投資法人 59.8% 9.8% 17.6% 0.5% 12.4% 総合型(オフィスビル中心)
8955 日本プライムリアルティ投資法人 75.8% 0.0% 24.2% 0.0% 0.0% 複合型(オフィス+都市型商業施設)
8956 プレミア投資法人 58.5% 41.5% 0.0% 0.0% 0.0% 複合型(オフィス+住居)
8957 東急リアル・エステート投資法人 53.8% 0.0% 46.2% 0.0% 0.0% 複合型(オフィス+商業施設)
8958 グローバル・ワン不動産投資法人 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% オフィスビル特化型
8959 野村不動産オフィスファンド投資法人 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% オフィスビル特化型
8960 ユナイテッド・アーバン投資法人 43.1% 7.9% 36.2% 0.0% 12.8% 総合型(オフィス+住居+商業施設+ホテル)
8961 森トラスト総合リート投資法人 66.0% 0.0% 27.9% 0.0% 6.1% 総合型(オフィスビル中⼼)
8963 インヴィンシブル投資法人 9.5% 76.8% 7.2% 6.4% 0.1% 総合型(住居中心+オフィス等)
8964 フロンティア不動産投資法人 0.0% 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 商業施設特化型
8966 平和不動産リート投資法人 37.9% 58.7% 0.0% 0.0% 3.4% 複合型(オフィス+住居)
8967 日本ロジスティクスファンド投資法人 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 物流施設特化型
8968 福岡リート投資法人 30.4% 0.0% 62.4% 0.0% 7.2% 総合型(商業施設中心)
8972 ケネディクス・オフィス投資法人 89.6% 2.6% 7.8% 0.0% 0.0% 総合型(オフィスビル中心)
8973 積水ハウス・SI投資法人 0.0% 10.4% 89.6% 0.0% 0.0% 総合型(住居中心)
8975 いちご不動産投資法人 70.3% 16.7% 0.0% 0.0% 13.0% 総合型(オフィス+住居+商業施設+ホテル等)
8976 大和証券オフィス投資法人 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% オフィスビル特化型
8977 阪急リート投資法人 29.7% 0.0% 60.9% 0.0% 9.4% 総合型(商業施設中心)
8979 スターツプロシード投資法人 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 住居特化型
8982 トップリート投資法人 77.2% 10.1% 11,2% 0.0% 1.5% 総合型(オフィス+商業施設+住居)
8984 大和ハウス・レジデンシャル投資法人 0.0% 99.1% 0.5% 0.4% 0.0% 住居中心
8985 ジャパン・ホテル・リート投資法人 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% ホテル特化型
8986 日本賃貸住宅投資法人 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 住居特化型
8987 ジャパンエクセレント投資法人 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 総合型(オフィスビル中⼼)
3226 日本アコモデーションファンド投資法人 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 住居特化型
3227 MIDリート投資法人 74.5% 0.0% 23.4% 0.0% 2.1% 総合型(オフィスビル中⼼)
3234 森ヒルズリート投資法人 85.7% 2.7% 11.6% 0.0% 0.0% 総合型(オフィス+商業施設+住居)
3240 野村不動産レジデンシャル投資法人 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 住居特化型
3249 産業ファンド投資法人 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 複合型(物流施設+インフラ施設)
3263 大和ハウスリート投資法人 0.0% 0.0% 21.3% 0.0% 78.7% 複合型(物流施設+商業施設)
3269 アドバンス・レジデンス投資法人 0.0% 99.3% 0.0% 0.7% 0.0% 住居特化型
3278 ケネディクス・レジデンシャル投資法人 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 住居特化型
3279 アクティビア・プロパティーズ投資法人 24.8% 0.0% 53.3% 0.0% 21.9% 複合型(オフィス+都市型商業施設)
3281 GLP投資法人 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 物流施設特化型
3282 コンフォリア・レジデンシャル投資法人 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 住居特化型
3283 日本プロロジスリート投資法人 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 物流施設特化型
3285 野村不動産マスターファンド投資法人 0.0% 0.0% 46.5% 0.0% 53.5% 複合型(物流施設+商業施設)
3287 星野リゾート・リート投資法人 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% ホテル特化型
3290 SIA不動産投資法人 93.3% 0.0% 6.7% 0.0% 0.0% 複合型(オフィス+商業施設)
3292 イオンリート投資法人 0.0% 0.0% 100.0% 0.0% 0.0% 商業施設特化型
3295 ヒューリックリート投資法人 56.3% 0.0% 21.9% 13.7% 8.2% 総合型(オフィス+商業施設+ヘルスケア施設等)
合計/時価総額加重平均 47.4% 15.9% 21.7% 0.2% 14.7%  

※2014年3月末時点で公表されている最新の資産運用報告より作成(イオンリート投資法人については、上場後最初の決算に係る資産運用報告が公表されていないため、決算短信より作成)
※SIA不動産投資法人、ヒューリックリート投資法人については、上場後最初の決算が公表されていないため、有価証券届出書の鑑定評価額ベース

現在、念頭に置いているヘルスケア施設とは、国土交通省にて整備予定の「ヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」が対象とする、有料老人ホーム(老人福祉法第29条)とサービス付き高齢者向け住宅(高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条。以下「サ高住」という。)ですが、2014年3月末時点でJリートが保有するメディカルモールやグループホーム等の他の資産についても、上記ガイドラインの検討状況等を踏まえ柔軟に対応していくこととなります。

3.ヘルスケアリートのスキーム

ヘルスケアリートのスキームについて、賃貸マンションに投資するJリートと比較すると図表2の通りとなります。一般的な例を簡略化しているため、必ずしもこの通りとならないことにはご留意ください。

●図2-1 一般的なJリートのスキーム

●図2-2ヘルスケアリートのスキーム

※ 入居者・オペレータ間の契約が賃貸借契約の場合には、入居者からオペレータに対し賃料が支払われることとなります。

投資法人(Jリート)とテナントとの関係をご覧ください(図表2-1)。Jリートは従業員を雇用できないため、実際に入居するテナント(エンドテナント。例えば住宅リートではマンションの入居者等)と直接的に賃貸借契約を締結することは少なく、マスターリース契約(一括賃貸契約)をプロパティマネジメント会社(PM会社、物件管理会社)等と締結します。PM会社はサブリース(転貸)契約をエンドテナントと締結し、エンドテナントから転貸料を受け取り、それを元にJリートにマスターリース契約に基づく賃料を支払います。

ヘルスケア施設においても、エンドテナントたる施設利用者と直接的に契約しない点は他の運用資産と差はありませんが、Jリートの賃貸借契約の相手先はプロパティマネジメント会社ではなく、当該ヘルスケア施設の施設運営者(オペレータ)となります(図表2-2)。

プロパティマネジメント会社はエンドテナントとの間の事務や建物の修繕管理を行う等、運用対象不動産の維持・管理を主な目的としているのに対し、ヘルスケア施設のオペレータは運用対象不動産を用いた事業としてヘルスケアサービスを提供しエンドテナントからサービス料を受け取る点に特徴があります。このため、Jリートが得られる賃料の原資はこのサービス料になります。そしてこのサービス料の多寡はオペレータの運用巧拙に依存するので、一般にヘルスケア施設はオペレーショナルアセットと呼ばれます。

4.上場ヘルスケアリート活用のメリット

(1)ヘルスケア事業会社にとってのメリット

ヘルスケア事業会社は自身が保有するヘルスケア施設をJリートに売却し、Jリートから当該施設をリースバック(賃借)することで、施設保有をJリートに委ね、オペレータとしてヘルスケア運営事業に特化することができます。また、売却によって得た資金により、事業を強化することや新たな施設での運営を開始する選択肢を得ることも考えられる他、上場ヘルスケアリートにおいては投資者向けの情報開示の一環として一定のオペレータ情報が開示されることから、副次的にオペレータとしての信用力が増す可能性もあります。

(2)投資者にとってのメリット

これまでヘルスケア施設に投資するJリートは存在していましたが、ヘルスケア施設に特化したヘルスケアリートは存在しませんでした。ヘルスケアリートが上場することにより、新たな運用先が加わり、さらなる分散効果が期待できます。また、長期的な視点では、ヘルスケア施設の需要は強く、安定的な投資対象として期待が寄せられます。

(3)入居者にとってのメリット

上場ヘルスケアリートは政府や取引所等の一定の監督下に置かれるため、情報開示を通じたオペレータによる運営の透明性向上や一定のサービスレベルの維持等、投資者保護を通じ入居者の安心につながることが期待できます。

5.ヘルスケアリート上場に向けた取組み

東京証券取引所においてはヘルスケアリートの上場促進に向け、プロモーション活動を推進しております。ヘルスケア事業会社向けには、REITの特徴や活用のメリット、活用事例等を紹介するセミナーを開催し理解促進を図る他、上場推進部内にヘルスケアリート上場相談窓口を新設し、検討開始から上場申請までヘルスケア事業会社の検討段階に応じた相談や問合せにお答えしております。投資者や入居者に向けては、Jリートview(当サイト)等のWebサイトを活用した情報発信を積極的に行うことで、ヘルスケアリートが身近なものとなるよう様々な企画を行ってまいります。

 

■参考事例(上場Jリートが保有するヘルスケア施設)

アリア松原 (ヒューリックリート投資法人)フォト

アリア松原
(ヒューリックリート投資法人)

トラストガーデン用賀の杜 (ヒューリックリート投資法人)フォト

トラストガーデン用賀の杜
(ヒューリックリート投資法人)

トラストガーデン桜新町 (ヒューリックリート投資法人)フォト

トラストガーデン桜新町
(ヒューリックリート投資法人)

 

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