■Event Report
武者リサーチ代表
武者 陵司氏
2017年の株式は非常に良い相場になるでしょう。日経平均株価は控えめでも25,000円、さらには30,000円という冗談に思えるような時代になると見ています。ポイントはドル高です。その理由はトランプ大統領だからではなくて、米国景気が非常に良いことが最大のポイントです。
武者リサーチ代表 武者陵司氏
端的にいって米国経済はとても強い。トランプ大統領はレーガン元大統領とよく似ており、当時のような成果が期待できそうです。レーガン大統領就任時(1981年)のNYダウは約1,000ドルでしたが、18年後の1999年には10,000ドルを超えました。約20年で株価が10倍になったわけです。この大相場の土台をつくったのがレーガン元大統領です。
レーガン元大統領とトランプ大統領の政策は以下の3点が決定的に似ています。1点めは徹底的な軍拡路線。いうことを聞かない相手に軍拡で畏怖することは最も効果的で、かつレーガン元大統領がやったことでもあります。トランプ大統領はこれを中国に対してやろうとしています。2点めは、財政による景気浮揚。レーガン元大統領を1とすればトランプ大統領はその2倍以上の規模でやろうとしています。効果はありそうです。3点めは規制緩和。ビジネスの規制になるものは全部緩和しようとしている。それ自身は副作用があるという批判があるものの、少なくとも中期的な景気は大きく良くなります。これらのことから、トランプ氏が大統領に確定して以来、米国の株価は急上昇し、ドルも上昇しているわけです。
一方で決定的に違う点もあります。経済の地力が違う。レーガン政権時は、企業収益は非常に停滞。貯蓄不足で金利が高く、投資もできない。財政は極めて非健全でした。そして15%のインフレ。もうめちゃくちゃです。現在はまったく違います。空前の企業収益と競争力。その源泉は、“第7の大陸(=インターネットを中心としたサイバー空間)”にあります。米国が第7大陸をつくり上げ、運営し、目に見えない形でお金を得る仕組みを構築しました。ここに独占的な強みがあるから米国の企業収益は極めて強く、その競争力はかつてないほど強力になっているのです。
以上のことから米国はいま、以下の5つの基本的な指標において史上最強のパフォーマンスをもっていると判断できます。①企業収益②産業競争力③貯蓄(投資余力)④健全化した財政(金利)⑤抑制されたインフレ。トランプ大統領はいわば、夢の現実を継承したわけです。トランプ大統領の将来はひょっとするとレーガン政権時よりずっと明るいかもしれません。
レーガン大統領は大相場の土台をつくった一方、大きな後遺症ももたらしました。ドル安です。1973年に変動相場制になってから現在までのドル実質実効為替レートを見ると、最もドルが強かったのは1978年終わりから1985年のプラザ合意まで。その6年半の間に5割も値上がり(ドル高)しました。しかし、その直後からドルが強すぎて米国の競争力が落ち、たいへんな対外赤字を被って空前のドル安を余儀なくされたのです。トランプ大統領でレーガン政権時と同じことがおこるなら、いずれドル安になるのでようか? 私はかなりの確率でならないと思っています。
米国はレーガン政権時のように、赤字が増えることはないからです。逆に米国の経常収支は黒字になるかもしれません。その理由は第7大陸の強みがあるからです。米国の経常収支とそれを構成する貿易収支、サービス+一時所得収支の推移を見ると、米国の赤字が最も多かったのは2006年。経常赤字は8,000億ドルで対GDP比5.7%。現在は4,000億ドル強(対GDP比2.7%)です。半分まで減っている。貿易赤字は8,000億ドルで横ばい傾向です。つまり、いまや米国で必要なモノのほとんど(約9割)は海外から買っているといっていい。
貿易赤字が変わらないのに、なぜ経常赤字が半分になったのか。サービス+一時所得収支が増えているからです。これは目に見えない収入、第7大陸からチャリンチャリンと入ってくる類の収入です。このサービス+一時所得収支が約4,000億ドルで、過去10年およそ年率12%のペースで成長しています。このペースで成長を続ければ6年後には8,000億ドルになり、貿易赤字と同額になります。つまり経常赤字がなくなる。これが米国の強さなのです。
これからドル不足の時代になるかもしれません。ドル高です。先ほど話した通り、米国の輸入依存度は9割ほど。レーガン政権時は約7割でした。現在は輸入する余地はないし、その必要もありません。ドルが強くなれば輸入品の値段が安くなります。他方で、第7大陸からの収入がある。これがレーガンとトランプの決定的な違いであり、米国景気がいくら良くなろうと、大きなドル安にはならないどころかむしろドル高になっていく。トランプ大統領が何をいって、いくら保護貿易をやろうともドルは強くなります。これは米国の経済学者のコンセンサスでもあるのです。
これは日本にとってはおいしい話。米国景気が良くて、かつドル高=円安。日本の株価は相当上がると思います。これから迎えるトランプ時代の最大の特徴は米中対立でしょう。中国経済をこれほど強くしたのは、米国が中国からたっぷり輸入して対中国で赤字をつくってやったからという認識を、トランプ大統領はもっています。実際に米国は過去10年間、GDPの約2%の経常赤字を中国に払っています。そのおかげで中国は軍備増強をおこない米国を脅かしている。これは許せない――この考えがトランプ政権の最もコアな部分で、日本とも共有されています。この点も考えても、日本の投資環境は非常に恵まれているといえるでしょう。
みずほ証券市場情報戦略部
石澤 卓志氏
2016年の不動産マーケットは総じて良かったと思います。たとえば、全国の商業地では9年ぶりに地価が下落からプラスに転じました。ほぼ横ばい傾向が続いて2010年ごろには底打ち感もありました。2016年が実際にプラスになったことは大きな節目だったということができるのではないでしょうか。
みずほ証券市場情報戦略部 石澤 卓志氏
大都市圏の地価は4年連続の上昇となり、上がりすぎたきらいもあります。東京23区の地価とその変動率を見ると、地価が高い場所ほど上昇率も高いという傾向が見られました。その背景としては不動産投資が地価を押し上げたことが考えられます。不動産会社にとって地価上昇は、保有する不動産の価値が上がるメリットがありますが、J-REITにとっては価格上昇で買いづらくなる問題も出てきます。現在は地価が上がって利回りが下がってしまった状況といえます。
たとえば東京23区のオフィスビルに投資した場合、大手町・丸ノ内周辺のレベルの高い(高い付加価値の)ビルの利回りは3.3%まで下がっています。これは私見ですが、賃貸不動産業が採算を確保できる利回り水準は3.5%。それを下回っているわけです。また、最近の地価上昇は一部でバブルではないかという指摘もありますが、都心部以外の利回りは3.8%以上取れているようです。つまり、まだバブルではないでしょうが危険水域に入ってきたと見ています。
価格が上がりすぎた嫌いがあるので、これからは揺り戻しがあるというか、地価の曲がり角になってくるのではないでしょうか。おおむね堅調に推移しながら価格の伸びは止まってきますが、下がりはしない――私はそう考えています。
その理由を簡単に説明します。東京23区の大規模オフィスビル供給動向を見ると、2017年はかなり少ない年といえそうです。つまり、需給関係が締まり供給過剰になることはないでしょう。一方で、2018年の供給増を心配する声は多いのですが、これも心配することはないと思います。2018年の供給量は130万平米程度で、過去30年間の平均が103万平米。2018年の数字は多いことは多いですが極端に多いわけではありません。とくに最近は、都心部における既存ビルの建て替えが中心。ストックの純増は見かけ供給量の4割程度です。多いように見えても実際にはそう多くは増えません。需要も引き続き増える見通しです。
J-REITの安定運用はこれから先も可能でしょう。保有物件の稼働率はおおむね堅調で、2005年以降は96%以上の水準を確保しています。これは、J-REITが物件を厳選して運用している効果のひとつです。この好調さは当面崩れないでしょうし、分配金も安定して確保できると見ています。
“米国の不動産王”トランプ氏の大統領就任でさまざまな憶測を呼んだり、期待を集めたりしていますが、日本と米国の不動産には多少の違いがあります。たとえば、日本は米国に比べて収益の振れが小さい。米国では不動産は良くも悪くも市況商品で、良いときは良く悪いときは悪い。日本とくに賃貸不動産では、あまりベースラインができ上がっていないこともあり、いわゆる大家と店子の信頼関係が強いのです。良いときも賃料はあまり上がらず、悪いときもあまり下がらない。経済合理性と必ずしも合致していない部分があるのが特徴です。
日本の不動産における期待という意味では、東京都心部の開発が挙げられます。とくに2020年のオリンピック以降、大手町、八重洲、新橋、虎ノ門周辺の開発が進む予定です。それに加えて個人的には、品川駅と渋谷駅周辺。この辺りが今後、東京のコアエリアになっていくでしょう。当然のことながら、エリア間の競争が激しくなっていくことが予想できます。
皆さんが注目するアセットタイプを見てみましょう。まずはホテルですが、一般にホテルというとシティホテル以上のグレードを指します。その供給量(全国)は7万室強あります。ストックは85万室あるので、8.3%ほど増えることになります。実はこれでもまだまだ足りません。国はインバウンドを倍増させる計画ですので、ホテルはこれからも不足が続くでしょう。
物流施設では、ネット通販が拡大し続けていることがポイントです。この傾向は10年、20年単位で続くことは間違いありません。そこで欠かせないのが一大消費地である首都圏に近い大規模物流施設です。これもまだ充足しているとはいい難い。今後はより大きな産業として位置づけられる可能性は高いと思われます。
ヘルスケアはこれまで、公的福祉の観点で整備されることが多かったですが、現在はサービス付高齢者住宅(サ高住)が相当増えています。今後はヘルスケア施設の「市場性」が高まるはずです。現在はまだ公的側面が強いですが、投資先としての魅力はこれからもっと高まりそうです。実際に、これまでは事業者の数が少なく、その規模も小さいものが多かった。その状況が2015年あたりから変わってきています。これからが本番というところです。
地価や物件価格が上がって、各J-REITは確かに物件取得に苦労しています。その一方で、いまお話したように投資対象もどんどん多様化しています。現状でオフィスビルは45%くらいを占めていますが、これからはアセットタイプが増えて分散していくことが考えられます。J-REITの買い手としては、地銀などの金融機関が投信を通じて買っているようです。投信で35%、それと個人が10%くらいでしょうか。この両者でおおよそ半分を占めることになります。J-REITは成長性よりも安定性を求める投資家が多く、商品特性とフィットしている感があります。
J-REITはいま、高齢化やエネルギー問題など、日本社会の難問に対応する社会インフラとしての役割を担いつつあります。今後は20兆円、50兆円と資産を増やしていくと見ています。話題の「インフラファンド」も不動産投資の一種でしょう。J-REITとインフラファンドはいずれも日本経済を支える金融商品として、100兆円規模に成長するのはそう遠くないのではないでしょうか。
<<< J-REITが集結するIRの祭典J-REITファン2017
工夫を凝らした企画が来場者の認知・理解を深める
取材・執筆:K-ZONE (掲載日:2017年3月10日)
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