■Event Report
SMBC日興証券
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏
SMBC日興証券 株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏
J-REIT市場は今年1年どうなるか。まず2つのことを明確にしておきます。2017年末までの東証REIT指数は1600ポイント台で低迷していましたが、ファンダメンタルズ自体はしっかりしいています。オフィスの賃料上昇も続いており金利も低い水準で魅力的な状況です。私は2年前から同指数2000ポイントもあるといってきましたが、現在もこれを変える理由はまったくありません。これが1つめ。2つめは足元の課題です。J-REIT市場のポイントは資産価値から見た割安さであり、具体的にはM&Aや自社株買いにあるということです。
東証REIT指数が1700ポイントを下回っていると、半分以上のJ-REITがNAV倍率1倍を割ります。つまり、解散価値(=買収価値)を下回る。一方で不動産売買市場は活況です。公的年金や海外の政府系ファンドが相当買っています。不動産がどんどん買われているなかで、J-REITは解散価値を下回る価格で取り引きされている――これが足元の状況です。
すでにバリュー系の外国人投資家がこの点に注目して買っています。17年秋から外国人はずっと買い越し。1700ポント以下の状況では、解散価値を割り込んでいる中小型銘柄は注目に値するでしょう。本来のJ-REITの買い方は、中長期でインカムゲインに期待すること。1700~1800ポイント半ばくらいなら分配金利回りは4%くらいあります。これが欲しくて、地銀などの国内金融機関はずっと買い越し基調です。ある意味で、このあたりが東証REIT指数の居心地いい水準といえそうです。
J-REITの主要アセットであるオフィスは、賃料がずっと上がっています。この低金利環境で支払利息も減少傾向が続いています。それを裏づけるように、分配金は12年比で一口あたり20%ほど増えています。いまのような環境が続けば、今後5年は同じような分配金成長が期待できるでしょう。東証REIT指数は2000ポイントにいくだろうし、分配金も3.2%は期待できるでしょう。長期金利が0%近辺なら十分に魅力的です。
06年あたりまで分配金利回りと長期金利のスプレッドは2.5%くらいで安定していました。オフィス賃料が上がってきた06年半ばからはスプレッドが縮小、結果として07年に東証REIT指数は2600ポイントをつけました。当時は加熱という見方がありましたが、私はセオリー通りに動いたという印象をもちました。
15年半ばまでは長期金利+3%のスプレッドで安定していたが、そこからまた賃料が上がってきています。本来であれば06年~07年のようにスプレッドが縮小→指数が上昇してしかるべきですが、現実としてはスプレッドが拡大して4%を超えています。いまのJ-REIT価格は「今後長期金利が大きく上昇するのではないか、オフィス賃料がどんどん下がるのではないか」という点を折り込んだ状況で、非常に割安だと考えています。
私は、金利が急にドンと上がるとは思っていないし、いまの景況感から賃料が下がることもないと思っています。少なくともスプレッドは3%ぐらいまで縮小してもおかしくない。長期金利が0%なら、スプレッド3.5%になるだけで東証REIT指数は2000ポイントになる計算。仮に長期金利が0.5%まで上がることを折り込んでも、スプレッド3%で同じく2000ポイントになります。どう見ても割安なんですね。海外ファンドが買っているのも納得できます。
実際のオフィス市場はどうなっているのでしょうか。東京都心では企業は移転したくても空き室がないような状況で、需要がひっ迫しています。18年~20年のオフィス大量供給が懸念されていますが、東京23区の過去20年の年平均供給量はトータルストックの1.5%相当。18~19年では1.6~1.7%相当くらいなのでさほど多くありません。
一方の需要の伸びは大きい。企業業績がしっかりしており人材獲得も旺盛なのでオフィス拡張率が高まっています。足元の需要は毎年1.5~2%ずつ増加している計算です。現在の需要量を考えると、18年~20年の供給増は吸収できるのではないかと考えています。
賃貸マンションなどの住居は、J-REITの安定資産とえます。REITが保有する賃貸マンションの空室率は3~4%。100戸程度のシングル・DINKS向きが多く、原状回復期間などを考えると、空室率はその程度が一般的です。現在は企業の家賃補助も増えてきました。賃料そのものも上向き傾向にあります。
スーパーやショッピングセンターなどの商業施設はEコマースの拡大で、売上が下落してテナント退去リスクが大きくなっているという向きもあります。理解はできますが実際はスーパー/ショッピングセンターの売上は横ばいで推移。賃料は長期固定契約で安定しており、Eコマースに対してはすでに対応済みの物件が多くなっています。日本におけるBtoCのEコマース市場規模は全体の6%程度なので、過度の悲観は不要でしょう。
一方の物流施設はEコマースで拡大中です。施設の開発が進んでいることは事実で、一部には過多という見方もあるようです。賃料がどんどん上がるというわけにはいかないでしょう。しかし、これも長期契約による安定賃料でかつ新規施設は新しい需要に対応するものが多いのが特徴です。
インバウンドで話題のホテルです。確かに需要は伸びていますが私は強気ではありません。ビジネスホテル(宿泊特化型ホテル)がすでに相当開発されており、大都市では18年~20年でトータルストック比30%ぐらい増える計画です。注意が必要でしょう。
2017年で2800万人強だったインバウンド数が4000万人に到達すると需給がフィットします。その意味では今後5~10年で見るといいでしょうが、近々1~2年なら供給が先に伸びるので弱含み。宿泊単価は下がりつつありますが、これ以上下がることはないと見ています。この1~2年はダウンサイドリスクがあるのでじっくり見たいところです。
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取材・執筆:K-ZONE (掲載日:2018年4月16日)
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