■Event Report
【J-REIT】
平和不動産アセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 平野 正則氏
三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 亀岡 直弘氏
【インフラファンド】
いちご投資顧問株式会社 執行役員 グリーンインフラ本部長 新田 貴生氏
カナディアン・ソーラー・アセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 中村 哲也氏
平和不動産アセットマネジメント株式会社
代表取締役社長 平野 正則氏
平野氏新型コロナウイルスの拡大を受けて「働き方改革」が進展しています。在宅勤務やテレワーク、リモートワークといった言葉が飛び交うなか、オフィス市況にどんな影響を及ぼしているか考えてみました。
ここ数年で急速に需要が回復してきたエリア、たとえばIT企業の集積地である渋谷や臨海部などでは、大きな床面積を使う大企業が空室率を改善させてきました。こうした「大量供給」のあったエリアは何らかの影響は避けられないでしょう。一方で、ソーシャルディスタンスやサテライトオフィスが着目されてきているように、新しい需要も生まれています。私どもが運営している中小型オフィスのテナントは中小企業が中心。水道光熱費を調べると、すでに97%の社員の方が出社しているという実態がうかがえます。
これらを総合的に見て、これからのオフィスは選別の時代に入ると考えています。求められるオフィス像としては、まずは好立地。そして衛生面を含めたしっかりした管理、新しいニーズを柔軟に取り込むことができるかどうか。これらを満たす不動産に関しては、今後も需要が旺盛で選別されるようなオフィスになっていくでしょう。
三井物産ロジスティクス・パートナーズ
株式会社
代表取締役社長 亀岡 直弘氏
亀岡氏すでにご承知の通り、J-REIT市場も大きな影響を受けています。東証REIT指数は今年3月に大きく調整しました。商業施設やホテルに投資する銘柄は比較的、影響が大きかった一方、当リートのような物流施設に投資するREITについての影響は限定的でした。株価(投資口価格)は調整後に急回復して足元はコロナ前を上回る水準で推移しています。
背景としては、人びとの生活を支えるインフラとして物流は欠かせないということが挙げられます。食料品や日用品を運ぶ物流施設の需要は底堅く、そこに投資するREITのキャッシュフローも安定していたのかなと分析しています。これまであまりネット通販を使ってなかった方も、コロナ禍をきっかけに使い始めたという方が増えたようです。以前からネット通販は伸びていましたが、伸びが一層加速した感があります。
物流施設で働く人のなかで新型コロナウイルスの感染者が出た場合も迅速な対応ができるように物件オーナーも物流会社も細心の注意を払って感染対策をおこなっています。ほとんどの施設において、仮に感染者が出たとしてもすぐに復旧して物流現場が受ける影響を最小限にする取り組みができたと思います。多くの方々の努力で実現した結果でしょう。
新田氏当リートはインフラファンドですが、J-REITと同様に今年3月に投資口価格が下落しました。しかし、インフラファンド7社はすべて固定価格買取制度に基づいた太陽光発電所に投資していているので、景気の影響を受けないという特徴をもっています。実際に収益は安定しており、コロナ禍によって人びとの移動や物流が滞って工事の部品が届かないというようなことはありましたが、インフラファンドの運用には大きな影響はありませんでした。
中村氏これは相当程度、意欲的な目標だといえます。日本の電力構成を見てみると、2040年あたりの再生可能エネルギー比率は控えめに見ても50~60%、原子力が20~30%程度でしょう。ゼロに向けてはそれでも不十分。太陽光発電の2019年度の発電能力から考えると、おそらく3倍近いものが求められます。ニーズの高まりという意味でも、インフラファンドには今後、フォローの風が吹いていくのではないでしょうか。太陽光発電以外でも、たとえば洋上風力は政府が重点的に取り組むと公表しており、実現に向けて系統(発電・変電・送電・配電システム)の整備が進んでいくでしょう。
いちご投資顧問株式会社 執行役員
グリーンインフラ本部長 新田 貴生氏
新田氏この目標はもともと、2015年に定められたパリ協定がベース。各国が実現に向けて進めているなかで、やっと日本も正式に発表しました。ESGやSDGsなどは日本だけの動きではありません。いちどこの流れになったら元に戻ることはないでしょう。私も、インフラファンドにとってフォローの風になると見ています。
亀岡氏ESGに対する関心の高まりを日々実感しています。元々は欧米とくにヨーロッパの年金投資家が最も高い関心を寄せるテーマでしたが、最近では日本国内でも高まっています。公的年金のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESGに着目した投資をしており、ESGに着目したJ-REIT投信も設定されるようになっています。
我々も経営上の重要課題としてESGに取り組んでおり、環境負荷の低い設備の導入や屋根にソーラーパネルを敷設するなどの対応をしています。ESGの観点では、Eの環境だけでなくSの社会、Gのガバナンス(企業統治)も重視している投資家の皆さんも多くいます。我々は従業員が働きやすい環境を整備したり、最近では資産運用報酬体系を変更して、投資家の皆さんと我々の利益一致をより高める対応もおこなっています。
中村氏米国はすでにトランプ大統領によってパリ協定を脱退していますが、バイデン大統領ということになれば復帰するでしょうね。気候変動については、従来のトランプ大統領の政策と大きく変換していくはず。2050年までに米国全体で温暖化ガス排出をネットゼロにしたり、35年までに排出規制も全発電量で炭素フリーにすることなどがバイデン氏の公約として発表されていますから。
亀岡氏我々が運営している物流施設の使い途は、国内の消費者にモノを届けるような使われ方が多いのですが、ネット通販の伸びなど“マクロドライバー”が要因で需要が伸びています。米中貿易の動向によって影響を受ける輸出入は、いまのところ大きなインパクトになってはいないようです。
むしろ、私が注目しているのは金利動向です。金利の動きは不動産はもちろん、あらゆる投資に影響を与えるファクター。いまは低金利環境が大きく変わるような兆候はあまり感じられませんが、もし動いたときのインパクトは非常に大きい。この点は注視しています。
平野氏私も直近のコロナ禍の状況において、すぐに金利が上昇するような感触はもっていません。このような状況下だからこそ、企業に対する融資が積極的におこなわれています。今後、この融資状況が変わっていくのかどうか、これは十分に注目していかなければならないでしょう。
平野氏少子高齢化が進んでいくなかで注視すべきは住宅賃貸市場だと思います。人口は減少局面であるものの、世帯の小規模化も進展しています。都市によっては世帯数が増加傾向にあるところもあります。都市化の流れも進んでおり、これによって地域間格差が拡大。都市部におけるシングル・コンパクトタイプへの需要が増加しています。
住宅賃貸市場に対しても、コロナ禍が大きな影響を及ぼすだろうといわれています。リモートワークなどの影響で、会社から少し離れてもいいから広い面積を確保したいという需要も今後出てくるでしょう。これらの兼ね合いが重要になると思われます。また、高年齢化によるバリアフリー対応・ヒートショック対応、医療・介護サービス付きの需要増加、社会的責務としての子育て支援住宅、保育施設の提供などにも注目していかなければなりません。
物件を提供していくこと以上に大事なことは、J-REITとして資産形成に資するという使命。2019年は「老後資金2000万円」問題が大きくクローズアップされました。平均寿命100歳時代といわれてきているなか、我々は税制を優遇されて高い利回りで商品を提供できる恵まれた環境にあるわけです。ポートフォリオ分散や安定資産への投資、内部留保の活用など長期安定的に分配金をお支払いできる態勢をいつも整えておく。その社会的使命を強く負っていると感じています。
新田氏J-REITもインフラファンドもキャッシュフローが安定した金融商品。インフラファンドは景気に連動せずに分配金を支払えることも強みです。当ファンドは年1回決算で上場から10期分の分配金予想を出し、それを着実にクリアしてきています。将来に向けた資産形成のために、分配金の底堅さを注目してみてください。
ナディアン・ソーラー・
アセットマネジメント株式会社
代表取締役社長 中村 哲也氏
中村氏コロナ禍という事態において、インフラファンドの収支安定性が改めて注目されたのではないでしょうか。マクロでフォローの風が吹いているなかで、今後はアセットの拡大(資産取得)も期待できます。インフラファンドは太陽光発電だけでなく、風力やバイオマスなどいろいろな形があり、今後は組み入れ資産の多様化が進むと思われます。ぜひとも期待していただきたいですね。
亀岡氏物流施設を取り巻く環境は、足元で極めて良好といえます。コロナ禍にあっても、むしろ人びとに必要なモノを届ける社会インフラとしての重要性が再認識された格好です。実際に安定したキャッシュフローを生んでおり、現状はこのあたりが評価いただいていると思われます。今後は良好な市場環境を生かして積極的な運用をおこない、引き続き分配金を安定的に成長させていきたいですね。不確実性が高まっている時代だからこそ、これらの変化に対応していくことの重要性を日頃から強く感じています。
平野氏私たちは物件の入れ替えにも注力しており、この10年で40物件を購入したのに対して、22物件を売却しています。これはひとえにポートフォリオの強化を図るため。物件の売却益から内部留保を得て、直近では47億円まで積み上がっています。だからこそ、コロナ禍のなかでも分配金を毀損させることなく運営ができたのだと思います。今後もポートフォリオ強化や分配金の高位安定化に対する積極的な取り組みを続けていきます。
※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。
取材・執筆:K-ZONE (掲載日:2020年12月21日)
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