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【特別講演】
米国株と金融市場の注目点

現役ファンドマネージャー 石原 順氏

 


 

バイデン大統領と上院共和党では何もできない!?

 


現役ファンドマネージャー
石原 順氏

わたしの独断と偏見で、今後の米国株と金融市場の注目点を解説します。

今後の米国株式相場を考えるうえで問題なるのは、大統領と議会です。トランプ大統領は現時点でまだ敗北宣言をしていません。元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏がトランプ大統領の弁護人になって、不正選挙だといって戦っています。

とはいえ、民主党のバイデン氏が大統領になったと仮定してみます。ここでは上院の議席が非常に重要で(下院は元々民主党)、大統領選と同時におこなわれた上院選でアラスカ州は共和党が勝ち、議席は共和党50:民主党48。2021年1月5日にジョージア州で2議席が決まります。その両方を民主党が取ると50:50に。その際は州法律で副大統領が1票を投票することになっています。副大統領(現時点は候補)は民主党のカマラ・ハリス氏。つまり上院は民主党が過半数を取ることになります。

現時点では共和党が優勢と見られていますが、民主党の財政刺激策は“大きな政府”でカネをばらまき、グリーンニューディールで株式は買い――というシナリオに。この場合、賞味期限は半年と見ています。新しい大統領になると、マスコミも半年は批判しませんから。

上院で共和党が過半数になった場合、バイデン氏は何もできないでしょうね。レームダック(死に体)です。共和党が反対するから自由にできるのはコロナ対策などの大統領令ぐらい。バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)は「バイデン+上院共和党の組み合わせならデフレになる」と書いています。つなり、あまりよくないぞと。フィナンシャル・タイムズは「バイデンは最初からレームダックなんだ」。トランプ大統領には熱狂的な支持者がいるが、バイデン氏にはそんな支持者はいない。トランプ大統領が嫌だからバイデン氏に投票した人たちばかりだということです。

ここにきて、ちょっと怖い動きがあります。コロナ禍によってヒト・モノ・カネの動きがすべて止まりました。こんなことはリーマン・ショック時でもなかったことです。財政出動して何とか景気をもたそうとしているなか、ワクチン開発のニュースが出てきました。実のところ株式市場にとって、ワクチンができるとまずい側面があります。

仮にワクチンができてコロナ禍が落ち着いてきたとします。対GDPで負債をつくって市場に財政出動しているわけですから、共和党は「もう財政出動はやめよう」といい出しかねません。いまばらまいている大量のカネは恐ろしい緊縮政策に向かうことになってしまうでしょう。コロナ対応への財政出動規模は、第二次世界大戦と匹敵するレベル。現在は米国財務省とFRB(米連邦準備理事会)との対立も取り沙汰されています。株式市場にとっては梯子を外される可能性があります。恐ろしいですね。

 

社会民主主義への流れを相場は折り込んでいない

 

バイデン政権はうまく機能するのでしょうか。バイデン氏や民主党はいまや「軍産資本主義の傀儡(かいらい)」といわれています。軍需産業を敵に回すとアメリカの大統領はクビになってしまいます。オバマ元大統領の8年間を見ればわかるでしょう。彼はいわば無人戦争を始め出して、世界一爆弾を落とした大統領です。

そのオバマ元大統領やヒラリー元国務長官の流れをくんでいるバイデン氏。米国人の6割は「どうしてこんな高齢の人を出したんだ、もっと若い人がいるだろう」と認識しているといわれています。民主党のエリザベス・ウォーレン氏やバーニー・サンダース氏が選挙戦から降りた過程で、共和党左派の要求を飲むことを条件にバイデン氏が表に出てきたという話もあります。

バイデン氏の健康状態によっては、彼が任期全うできるのか不安視する向きもある。バイデン氏の任期途中で副大統領のハリス氏が米国初の女性大統領になる可能性も否定できません。彼女は民主党の極左といわれており、社会主義化していくかもしれません。主義思想の良い悪いではなく、このシナリオは相場として最悪です。

米国企業の繁栄やダイナミズムは、小さな政府による純粋資本主義でやってきたことによる点が大きい。だから株価も上がってきました。これが左側に大きく旋回しているわけです。反トランプで結束していた民主党も、大統領選挙でバイデン氏が勝って内紛が始まっています。時代の流れとして、社会民主主義に傾いています。このことは、相場はまったく折り込んでいません。今後3年くらいのタームで見ると、株式市場は大きな反応を起こす可能性があると見ています。

オカシオコルテス上院議員ら米国民主党左派はMMT(現代貨幣理論)を進めたい。「日本を見ろ、30年間にいろいろな財政政策、ゼロ金利マイナス金利、量的緩和なんでもやってきたが、まったくインフレになっていない。米国もこれをやるべきだ」と。お札をどんどん刷って給付制の世の中にすればいいということですが、MMT推進派は「インフレになったら給付は止める」といっています。最近はIMF(国際通貨基金)も日本のように財政ファイナンス(国債発行して中央銀行が買う)しろという。そのような政策はできるのでしょうか。

MMTを実践したと指摘された日本は30年間で成長したのでしょうか。いや「失われた30年」でした。日本の「幸せ度」ピークは、考え方にもよりますが1970年の万国博覧会(大阪)で天井を打っていると見ています。東京タワーができるころまでは、中小企業も零細企業もみんな儲かった時代。みんなが幸せを感じることができました。

目先半年の話に戻りましょう。新大統領がトランプ氏・バイデン氏のどっちになろうが、人気取りに好都合なコロナ禍を利用した財政出動の法案が出されるでしょう。つまり、FRBも議会もどんどん金融緩和をやり、カネのばらまきが続く。ウォール街の運用担当者はいっています。「我々は不況の最中にいる。景気は悪いが株だけ上がっている」と。彼らにとって、コロナ禍は続いてほしい、収束してほしくない。なぜなら、コロナ禍が続いている限り、FRBはカネをばらまき、政治家もばらまく。ばらまいても行き先は株式市場しかないから、株価が上がって好都合だ――。

 

為替ヘッジの重要性高まる。企業は「高い成長」「潤沢な手元資金」

 

米国株式はしばらく上がるでしょう。しかし、借金の額が天文学的になっており、増税程度では埋められません。最終的にどう処理されるか。ひとつはインフレ。もうひとつは、米国がよくやるさまざまな政策でドルの価値を下げること(通貨切り下げ)です。

米国は米国債を他国から買ってもらって国を回しています。たとえば、ドルの価値を半分にすると米国の借金は半分になりますが、米国債を買っている日本や中国などのポートフォリオの資産価値も半分になってしまう。米国はそれをここ4~5年のうちにおこなう可能性があります。日本から円で米国株投資をしていると、ドル安になると株価が上がっても為替でやられる。米国株式投資する場合は今後、為替ヘッジをより考える必要があるでしょう。

過去8期における、各大統領任期中の連邦債務と連邦準備制度のバランスシートを見てみると、クリントン大統領2期目以降は債務がうなぎのぼりで、米国ではすでにベーシックインカムのような制度を導入したように見えます。議会は「カネは無料」と思っているから、どんどんカネを刷ってばらまいています。米国株式は今後、爆発的に上がる可能性がありますが、逆に爆発的に下る可能性もあると思います。

米国株式投資でバリュー株の人気が高まっています。わたしはアマゾン、グーグル(アルファベット)、マイクロソフトなどの「GAFAM」、メガグロースと呼ばれる銘柄を買ってきました。バリューとグロースの株価比較を見ても、バリュー株なんて持っててもまったく儲かりません。それが2013年から続いています。日本のトヨタあたりの営業利益率は数%程度ですが、GAFAMなんて数十%。米国株式とはつまり、GAFAM5銘柄の成績なのです。これらを買うと儲かるからずっと買ってきた。単純な話です。

GAFAの2020年7-9月の決算を見ると、アップルがちょっと悪いですね。ここ3~4年、利益が伸びていません。2019年は2兆円の自社株買いで株価を上げました。いろいろ見ると、アップルはオーバーバリューなのかもしれません。正直あまり買いたくはありませんが、キャッシュをいちばん持っていますからね。

「高い成長」「潤沢な手元資金」。企業の価値はフリーキャッシュフローで決まります。借金があるとか儲かっているとか正直どうでもいい。売上が上がっている会社、手元資金が潤沢な会社は危機が起きても生き残れるし、先行投資や設備投資がどんどんできます。ここを買うしかないというのがわたしの結論です。

わたしはグリーンニューディールにはあまり興味がありません。バイデン氏を信頼できないからです。上院で共和党が過半数を取ったら、果たしてどこまで仕事ができるのか。目先で上がるなら関連銘柄に乗ればいいだけです。

 

ニクソンショックから始まった金融実験が終わりつつある

 

ここまで対GDP比で負債が積み上がって、いまや株式市場が上がるかどうかは、中央銀行がいくらばらまくか、政治家がいくら財政出動するか、それだけが焦点になっています。極論すれば、企業業績は関係ありません。

世界の経済政策は社会主義化してMMT的なものに向かっています。債券王と呼ばれるジェフリー・ガンドラック氏はMMTについて聞かれ、「すでにどんな考えも許容されるところに世の中は来ている。事実として日本は負債をものすごく増やした。その結末として30年前の株式市場最高値から半分までしか回復していないということ以外何もない」と述べています。

政治信条がまったく違う右派も左派も、MMTをやろうとしています。官僚や政治家からしたら、自分の裁量が増えていくらでも予算をばらまけるわけだから、それは賛成でしょう。左派にとっては「MMTで貧困を救う」のが大義名分らしいですが、そんなことが進んだら税金だって国債を刷ればいいということになる。ダウ平均は10万ドル、日経平均は10万円、そして缶コーヒー1本が1万円。こんな世の中が来るかもしれません。

投資アドバイザーのマーク・ファーバーは「普通、サンタクロースは思春期にいなくなる。正直なところ、MMTは現代でも理論でもない。通貨インフレによる詐欺的課税で、資本主義と中産階級の両方に忍び寄る実績ある殺し屋だ」と述べています。そこにあるのは、ツケの先送り。積み上がった借金はいずれ、インフレや富裕税、預金カット、通貨切り下げで減価していくのでしょう。2020年7月、CFR(米国外交問題評議会)は「ドル覇権を放棄するときが来た」という論評を発表しました。1971年のニクソンショックから始まった金融実験がいま、終わりつつあることを示唆しています。

※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。

 

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取材・執筆:K-ZONE (掲載日:2020年12月21日)

 

 

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