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Ⅱ.風力発電の現状と今後の展望について

 

~洋上風力の産業競争力強化に向けた取組を中心に~

経済産業省
資源エネルギー庁
省エネルギー・新エネルギー部
新エネルギー課
武智 翼氏

 

再エネ導入量と増加スピードは世界トップクラス

世界では2015年に発電設備容量(ストック)ベースで初めて再生可能エネルギー(再エネ)が石炭を上回り、その後も発電設備容量、年間導入量(フロー)ともに着実に増加しています。再エネ導入拡大の動機としては、温暖化対策もさることながら現在は安価で安定供給が見込める国産エネルギーであることも大きくなっています。

世界的に見れば再エネコストは大きく低下しており、我が国においても低減傾向にあります。しかし、国際水準(特に欧州)と比べればその水準は高く、導入拡大には他の電源と比較して競争力のある水準までコストを低減させることが必要となっています。

日本においても再エネの導入は着実に拡大しています。以前から我が国において開発が進んできた水力を除く再生可能エネルギーの全体の発電量に占める割合は、FIT制度の創設以降、2.8%(2012年度)から10.3%(2019年度)に増加しました。水力を含めると10.0%から18.0%に増加しています。

再エネ導入量と増加スピードを国際比較してみると、我が国の太陽光発電導入量は世界第3位、再エネ導入量でも世界第6位となっています。また、増加スピードを2012年と18年で比較すると、この7年間で3.1倍となっており、我が国の増加スピードは、世界トップクラスの水準といえるでしょう。2030年の「エネルギーミックス」導入目標では、今回のテーマである風力発電は1000万kWhであり、2020年3月時点での導入量は420万kWhと、進捗率は42%になっています。

 

国策として洋上風力産業の育成・拡大に取り組む

菅内閣総理大臣は2020年10月26日の所信表明演説において、我が国が2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出と吸収でネットゼロを意味する概念)を目指すことを宣言しました。2050年のカーボンニュートラルを目指す道筋について、いくつか重要分野が掲げられており、梶山経産大臣が記者会見で以下のように述べています。

「カーボンニュートラルを目指す上で不可欠な、水素、蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力などの重要分野について、具体的な目標年限とターゲット、規制標準化などの制度整備、社会実装を進めるための支援策、などを盛り込んだ実行計画を、年末を目途に取りまとめてまいりたいと考えております」。

総合資源エネルギー調査会とグリーンイノベーション戦略推進会議で集中的に議論されており、洋上風力は重点分野のひとつとなっています。

具体的には、我が国における洋上風力産業の育成・拡大に取り組みます。大きな方向性としては、①洋上風力産業の国内市場を創出する。②創出した市場で国内サプライチェーンを形成し、③その後、技術開発などを通してとくに日本と気象海象が似ているアジアなどの海外マーケットも獲得していく、というものです。魅力的な国内市場を創出することにより国内外の投資を呼び込み、競争力があり強靱なサプライチェーンを構築し、さらに、アジア展開も見据えた次世代技術開発、国際連携に取り組み、国際競争に勝ち抜く次世代産業を創造していくという道筋で考えています。

 

再エネの主力電源化に向けた切り札に

我が国における風力発電の動向は、2030年のエネルギーミックス(1,000万kWh)の水準に対して、現時点のFIT導入量440万kWh(FIT前導入量+FIT導入量)に、導入前ですが認定を受けているものが順調に導入されると1,200万kWhになっており、目標水準を超える計算です。ちなみに直近3年度における平均のFIT認定量は約120万kWhとなっています。コストについては、陸上風力発電のコストは低減しているものの依然として世界より高く、足下では微増です。再エネの導入拡大と国民負担抑制の観点から、FIT制度で掲げている2030年発電コスト8~9円/kWhの目標に向けて取り組んでいく必要があります。

洋上風力発電導入の意義について改めて考えてみます。洋上風力発電はカーボンニュートラル実現に向けて重要分野に位置づけられており、再エネの主力電源化に向けた切り札と考えられます。その理由は、①大量導入②コスト低減③経済波及効果が期待されるからです。

①大量導入=欧州を中心に世界で導入が拡大しており、四方を海に囲まれた日本でも、今後導入拡大が期待されています。
②コスト低減=洋上風力は一般に海上に敷設することから輸送の制約が低く、陸上に比べて風車の大型化がやりやすいです。先行する欧州ではコスト低減が進展しており、日本でも期待できます。
③経済波及効果=洋上風力発電設備は部品数が多く(1~2万点)、事業規模は数千億円に至る場合もあって関連産業への波及効果が大きいため、地域活性化にも寄与するものと思われます。

①大量導入②コスト低減③経済波及効果が期待できる

上記3点について、国外との比較を含めて解説します。まずは①大量導入に関わる世界の洋上風力の導入拡大の動きについてです。

洋上風力発電は、かつてのオイル&ガスなどの歴史的背景もあり、欧州を中心に右肩上がりに増えており、特に英国やドイツを中心に進んでいます。さらに欧州だけでなく、中国や韓国、台湾などアジアでも導入に向けての取り組みが進んでおり、今後は世界各国でさらなる導入拡大が期待されています。

②のコスト低減について。現在は洋上風車の大型化が進んでいます。一般的に陸上風力は山間部で発電されることが多く、道を切り開くなど輸送の制約が多くなってしまいます。風車の大型化が難しいわけです。一方の洋上風力は海上輸送ができるので、陸上と比べて大型化がしやすいというメリットがあります。現在は10メガWh、174m径の風車も開発されており、これらのスケールメリットもあってコスト低減が進んでいる状況です。先行する欧州では、落札額が10円/kWhを切る事例や補助金ゼロの事例も生まれています。

③の経済波及効果について。前述のように洋上風力発電設備は関連産業への波及効果が大きく地域活性化にも寄与します。しかし、世界の洋上風力発電タービンメーカーは欧州に偏在しており、国外に立地している洋上風力産業を国内に誘致して、いかに国内にサプライチェーンを呼び込むかが政府として目下の課題、取り組みになっています。

 

「再エネ海域利用法」の着実な施行

洋上風力のための海域利用に必要なルール整備を実施するため、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下、再エネ海域利用法)」が2019年4月1日より施行されました。日本は四方を海に囲まれていることもあって、洋上風力発電はポテンシャルが高いといわれつつもなかなか導入が進んでいませんでした。それは以下3つの課題があったからと思われます。

1つめは、海域利用に関する統一的なルールがなかったこと。洋上風力は非常に大規模なプロジェクトなために、長期に海域を占用することが一般的です。そうしたなか、これまでは海域利用(占用)の統一ルールがありませんでした。占用するためには、都道府県の許可を得る必要がありましたが、都道府県の許可は通常3~5年と短期で中長期的な事業予見可能性が低く、資金調達が困難でした。

そこで、2019年4月に施行した再エネ海域利用法では、国が洋上風力発電事業を実施可能な促進区域を指定。公募を行って事業者を選定し、長期(30年間)占用できるという制度を創設しました。

2つめは、先行利用者との調整の枠組みが不明確だったこと。海運や漁業等の地域の先行利用者との調整が不可欠ですが、これまでは調整に係る枠組みがなく、個々の事業者がそれぞれに行っていました。

再エネ海域利用法では、関係者間の協議の場である法定の協議会を設置し、地元調整を円滑化します。区域指定の際には関係省庁とも協議し、他の公益との整合性を確認します。たとえば文化遺産がある海域では文化庁と、電波線の関係で支障をきたすようであれば総務省と、防衛施設との関係なら防衛省と協力するなどです。結果、事業者の予見可能性が向上し、負担軽減につながります。

3つめの課題は高コスト。洋上風力に関するFIT価格は36円/kWhと、欧州と比べて高額になっていました。また、国内に経験ある事業者が不足しており、コスト低減も難しい状況です。再エネ海域利用法では、価格等により事業者を公募・選定します。評価の半分を価格が占めるようにして競争を促し、コストを低減する仕組みを取り入れています。

再エネ海域利用法で指定された促進区域は4か所(2021年3月現在)。初の促進地域は長崎県五島市沖で、2020年12月に公募受付期間が終了し、現在は提出された公募占用計画の審査に着手しています。秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖についても、2020年7月に促進区域に指定しました。2020年11月から事業者の公募を開始し、2021年5月まで受付中です。

また、新たな有望区域として、2020年7月に秋田県八峰町・能代市沖を含む4か所を公表しました。協議会の設置や国による風況・地質調査の準備に着手しています。再エネ海域利用法施行以降は環境アセスメントとの地続き案件が増えており、事業者による案件形成も増えています。

 

洋上風力の産業競争力強化に向けた取り組み

洋上風力の競争力強化に向けた官民協議会は2020年12月、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を取りまとめました。そのポイントは、「洋上風力の産業競争力強化に向けた基本戦略」として、先ほど述べた①魅力的な国内市場の創出②投資促進・サプライチェーン形成③アジア展開も見据えた次世代技術開発、国際連携—となっています。

 

①魅力的な国内市場の創出

まずは、政府による導入目標を明示し、案件形成を加速化させ、そのうえでインフラの計画的整備を行って市場を創出します。そこから、産業界による国内調達比率目標や着床式発電コストなどの目標設定を行い、洋上風力サプライヤーの競争力強化などを通じて国内の投資促進とサプライチェーン形成、浮体式などの技術開発や国際標準化などを通じてアジア展開を見据えていく計画です。

1-1)政府による導入目標の明示

これまで洋上風力の競争力強化に向けた官民協議会のなかで、政府は産業界と対話してきました。そのなかで出てきた声は、投資拡大のためには政府による導入目標のイメージがないと事業の予見性確保が難しいということです。こうした声を踏まえて、魅力的な国内市場の創出にコミットし、年間100万kWh程度の区域指定を10年間継続して、2030年までに1000万kWh、2040年までに浮体式含めて3000万~4500万kWhの案件を形成すると明示しています。この導入目標は、世界のなかでも野心的な数値といえるでしょう。

1-2)政府主導のプッシュ型案件形成スキームの導入

導入目標を実現するためには、再エネ海域利用法を通じて継続的な案件形成が不可欠です。案件形成にあたっては、①海域の風況・地質等の調査②環境アセスメントの実施③地域調整④系統対策等を同時に行っていく必要があります。

再エネ海域利用法を昨年施行し、地元調整のための協議会の設置など枠組みが具体化しました。一方で、初期段階の基礎調査や系統確保等は引き続き事業者が実施するため、地域によっては複数の事業者による重複実施による非効率や、地元調整への支障が指摘されています。こうした課題に対して、初期段階から政府が関与し、より迅速・効率的に風況等の調査、適時に系統確保等を行う仕組み(日本版セントラル方式)の確立に向けて実証事業を立ち上げることにより、案件形成を加速化していきます。

1-3)産業界による国内調達・コスト低減目標の設定

国内外から投資を呼び込み、競争力があり強靱なサプライチェーンを形成するため、政府による導入目標の設定に加えて、産業界では「国内調達目標」「コスト低減目標」の目標を設定しています。

・国内調達目標=産業界は、国内調達比率を2040年までに60%にする
・コスト低減目標=産業界は、着床式の発電コストを2030~2035年までに8~9円/kWhにする

 

②投資促進・サプライチェーン形成

国内のサプライチェーン形成について政府が行っている取り組みとして、洋上風力事業者の再エネ海域利用法を通じた公募において安定供給等に資する取り組みを評価しています。再エネ海域利用法に係る公募占用計画の評価において、「サプライチェーンの強靱化に向けた取組み等を記載したサプライチェーン形成計画」を確認しており、電力の安定供給や将来的な電力価格低減のために有効かという観点から評価することとしています。

2-1)国内のサプライチェーン形成に向けた政府の設備投資支援

サプライチェーン形成への投資を促進するため、政府としても補助金・税制等による設備投資支援を措置しています。たとえば、サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金(令和2年度第3次補正予算額2,108億円)の公募がスタート。カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(所得税・法人税・法人住民税・事業税)も創設しました。大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備の導入に対して、最大10%の税額控除または50%の特別償却を新たに措置するもので、現在国会に提出されている産業競争力強化法の改正に合わせて新しく導入する見込みになっています。

2-2)洋上風力に関する各種規制・規格の総点検

産業界からの規制見直し要望に対し、各省庁と連携した規制・規格の見直しを行っています。電気事業法に基づく安全審査の合理化と、国交省と経産省の審査の一本化についてはすでに見直しが決定し検討が進んでいます。

2-3)洋上風力人材育成プログラム

国内サプライチェーン形成の観点から、洋上風力人材育成プログラムの策定を検討しています。英国では、洋上風力サプライチェーン全域において必要となるスキルの棚卸を実施しています。我が国でも、洋上風力発電に必要なスキルの棚卸しを行い、スキル取得のための方策を産官学で連携して検討し、そのアウトプットとしてのプログラム策定を進めています。

 

③アジア展開も見据えた次世代技術開発

これまで述べてきた補助金・税制優遇・人材育成などを通じて、国内において洋上風力のサプライチェーンを形成し、産業競争力を高めていきます。将来的には、気象・海象が似ており今後の市場拡大が見込まれるアジアへの展開も目指したいと考えています。そのため、産業競争力強化に向けて必要な要素技術を特定し、「技術開発ロードマップ」を策定するとともに、2050年カーボンニュートラルの実現に向けたイノベーションを推進するための基金(「2兆円基金」)などを用いて、今後の拡大が見込まれる浮体式の商用化に向けた技術開発を加速化させる計画です。

政府は将来的な海外展開を見据え、二国間エネルギー政策対話や国際実証等を行うことにより、政府間の協力関係の構築と、国内外の企業の連携を促します。また、浮体の安全評価手法の国際標準化等を通じて、浮体式等の海外展開に向けた下地づくりを行います。

政府は現在、洋上風力発電の導入拡大に向けて、再エネ海域利用法の着実な施行と洋上風力の産業競争力強化に向けた取り組みの2つを進めています。これら2つは相互に独立したものではなく、同法で着実に洋上風力の案件を形成しつつ、その案件において国内市場を形成して産業競争力を強化、将来的には海外に展開していく—こうしたサイクルを描くことを想定しています。補助金や税制、基金なども活用していただきながら官民協力して洋上風力発電への投資を国内に呼び込んでいきたいと考えています。

 

(次ページ) Ⅲ.上場インフラファンドの実務
(パート1:制度概要と実務上の留意点) >>>

※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。

 

 

 

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