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Ⅲ.上場インフラファンドの実務

 

パート1:制度概要と実務上の留意点

森・濱田松本法律事務所
弁護士 佐伯 優仁氏

 

上場インフラファンドとして3つの導管性要件

上場インフラファンドは2015年に市場が開設され、7号案件まで上場しています。近時においてはESG投資の高まりと相まって、より注目されている市場ということができるでしょう。上場しているファンドはいずれも太陽光発電設備を主な投資対象としていますが、今回のトピックは風力発電設備です。風力発電設備を主たる投資対象とするファンドがすぐに出てくるとは現時点では考えにくいですが、既存のファンドにおいて追加的に風力発電設備を組み入れることは十分に考えられます。

上場インフラファンドは現時点において、いずれも投資法人の形態をとっている直接投資のファンドなので、それを前提に話を進めます。投資法人が具体的に設備(太陽光発電、風力発電など)を所有し、これを賃貸することが要件となります。発電事業者に賃貸し、電力会社に売電することで、収益を得るモデルが基本的な仕組みです。また、投資法人なので基本的にはすべての機能を外出ししており、一般事務受託者、資産保管会社、資産運用会社に対して機能を委託しています。金融機関から借り入れを行っていますが、発電施設やその他の資産を担保に入れるかどうかは現状、ファンドによりけりになっています。

上場インフラファンドの投資法人における税務上の導管性要件はいくつかありますが、主な要件としては3つ。1つめは配当可能利益の90%超を配当しなければならないこと。つまり、利益はほとんど分配しなければなりません。2つめは、他の法人の発行済株式または出資の総数または総額の50%以上を有していないこと(マイノリティ出資制限)。たとえば、他の法人に対して50%を超える出資はできません。もし出資すると税務上の優遇が受けられなくなります。3つめは、一定の特定資産において資産総額の50%超を占めなければならないこと(特定資産過半投資要件)。投信法上においても、特定資産が主たる投資対象でなければならないとありますが、税務上の特定資産はまた違うものになるので、このあと話します。

 

マイノリティ出資制限と特定資産過半投資要件

マイノリティ出資制限について。「他の法人の発行済株式または出資の総数または総額の50%以上を有していないこと」に関して、これには匿名組合出資も含まれることが近時の改正で明確化されています。たとえば投資法人が他の法人に対する匿名組合出資持分を有する場合においても、匿名組合出資持分全体の50%未満であることが求められます。

似たような規制として、議決権過半保有禁止という投信法の規制もあります。これは、同一の法人の発行する株式に係る議決権の総数の50%超保有してはならないというルール。これは法律上、明確に禁止されています。

マイノリティ出資制限はあくまでも導管性要件なので、仮にそれが満たされなくても税務上の優遇策が得られないだけですが、実際上は導管性要件を満たすファンドが求められているので、両者の規制が相まって株式の議決権、議決権のない株式ないしは匿名組合出資なども半分未満であることが実際上求められています。

なお、不動産を保有する法人に対する出資には特例があり、海外の不動産を保有する法人の特例(100%議決権・出資可)は、専ら不動産以外の資産の取り引きをおこなうことを目的とする法人には適用しません。これはあくまで不動産の法人に対するルールであり、本件のようなインフラファンドとくに発電設備を主たる投資対象にする場合には、このルールは使えないと考えられます。

続いて特定資産過半投資要件について。原則は、再エネ設備と運営権(コンセッション)以外の特定資産が50%超ないと、導管性要件を満たさないということです。この原則に従うと、たとえば再エネ設備を主たる投資対象としている投資法人については、そもそも導管性要件を満たせないことになってしまう。これについては市場の導入時において手当されており、再エネ設備特例が存在します。以下の条件を満たせば、再エネ設備についても50%超を満たす資産ということになります。

・設立の際に投資口を公募、または投資口が上場
・規約上、再エネ設備の運用方法を「賃貸」に限定(※)
・2023年3月31日までに再エネ設備を取得(※)
・再エネ設備を最初に賃貸した日から20年を経過した日までの間に終了する各事業年度に適用

(匿名組合契約等に基づく権利(TK出資持分)に関しては、営業者が保有する資産について上記(※)と同様のルールが適用)

Jリートなどの不動産投資法人であれば原則が素直に適用されるので、これらの条件を満たさずに導管性要件が満たされ、かつ20年という限定もありません。しかし、現状の規制において再エネ設備については、これらの条件を満たせば導管性要件を満たしますが、20年に限定されることになります。

匿名組合の出資持ち分を投資法人が取得した場合には、営業者に対して個々の条件を満たすことが求められるルールとなっています。仮に匿名組合出資持ち分を取得した場合に、営業者が発電設備を取得したら営業者は賃貸しないといけないのが現状の導管性要件のルールとなっています。

 

上場制度と投信協会のルール

上場制度の根本的なものとしては、インフラ資産等とインフラ関連有価証券あるいは流動資産等のポートフォリオに占める割合が求められます。具体的には、インフラ資産等(インフラ資産とインフラ有価証券をあわせたもの)で70%以上、さらにインフラ関連有価証券と流動資産等を合わせて95%以上をファンドのポートフォリオとして満たさないといけません(そうでないと上場できない)。

ポイントはインフラ有価証券、インフラ関連有価証券に株券や匿名組合出資持ち分などの有価証券が含まれているので、上場制度上は間接投資すなわち投資法人が株式や匿名組合契約出資を通じて投資するという形態も考えられているということがいえるでしょう。

内国インフラファンド(投資法人)の管理会社は、一般社団法人投資信託協会(以下、投信協会)の会員にならなければ上場できないので、必然的に投信協会のルールも守らなければなりません。インフラファンド特有の規程としては、「インフラ投資信託及びインフラ投信法人に関する規則」(「インフラ投信規則」)があります。

そのなかにおいても、主たる投資対象がインフラ資産等とインフラ関連資産が50%超であることが原則になっています。ここでも、インフラ関連資産に株券や匿名組合出資持分が含まれており、投信協会の規則でも間接投資が想定されているということがわかります。

投信協会の規則で留意が必要なのは、再エネ特措法上の認定発電設備でなければ上記の計算上「インフラ資産等」に含まれないということ。現在上場しているファンドはいずれも認定発電設備を組み入れています。認定を受けていない設備については、いまのところ50%超を満たすインフラ資産等には含まれてないことになっています。

 

2つの投資形態とスキーム組成上の留意点

スキーム組成上の留意点は多岐に渡りますが、まずは直接投資形態と間接投資形態という2つの形態があり得るということを述べておきます。

直接投資では、売り主となる発電SPCから発電投資法人が発電設備を買ってきて、また発電SPCにリースバックすることが想定されます。このときに既存の発電SPCに対するレンダーのローン、あるいは匿名組合が入っていたらその投資家にいちど返すことが想定されています。すなわち、既存の枠組み(ストラクチャー)をいちど解体(匿名組合/ローンの解体)が必要ということです。この場合、発電事業者は変わらず(特定契約・接続契約上の地位は移転せず)、ファンドとして仕組みやすいことから、現状では直接投資形態が取られています。

対して間接投資の場合はどうなるか。たとえば既存の投資家が匿名組合で発電SPCに入れている匿名組合出資持ち分(50%未満しか入れられない)を投資法人が取得するケース。これまで申し上げている通り、匿名組合については営業者からさらに賃貸することが導管性要件で求められているので、もともと発電SPCが持っていた設備を、新しい発電SPCをつくってそこに賃貸したうえで、事業は新しい発電SPCに移さないといけません。イニシャルのストラクチャリングとしては相対的に手間がかかるということがいえるでしょう。

直接投資形態の場合はもともと、賃貸スキームが必要になります。間接投資形態の場合は、あり得るとすると匿名組合出資持分を取得することになりますが、営業者による賃貸スキームを取らないといけないので、既存ストラクチャーの組み換えが必要になります。この点、実務上それなりのハードルがあると理解しておきたいところです。

それに加えて間接投資形態の場合は、匿名組合出資持分のマイノリティ持分しか取得できないので資産規模が小さくなりがちです。また、マイノリティであってなお設備や運営にどのくらいのコントロールを及ぼし得るかという点で議論はあり得ます。匿名組合契約に承認事項を規定することも考えられますが、それなりにたいへんです。現実的な選択肢としては、再エネ設備を主たる投資対象とする賃貸スキームを前提とした直接投資形態が想定されるでしょう。

 

オペレーター賃借人スキームとSPC賃借人スキーム

スキーム組成上の留意点として、次にオペレーター賃借人スキームとSPC賃借人スキームという点を挙げておきます。これは直接投資形態が前提になっており、投資法人の目線で考えると賃借人がオペレーター(事業会社)である場合、オペレーターにそのまま賃貸して、オペレーターが設備を使って事業を行います。したがって、電力会社との売電契約を結ぶのも認定を持つのもオペレーターになります。

一方の賃借人がSPCの場合は、賃貸借契約をSPCと締結したうえで、実際の運営自体は運営委託契約を結んだオペレーターに外出しします。この場合は、あくまでも賃借人のSPCが事業主体になるので、電力会社との契約締結や、認定を持つのもSPCになります。

現状の太陽光発電施設のファンドの場合は、ほとんどSPCのスキームが取られています。また、オペレーターとの運営委託契約も本来はSPCとの二者間契約でもいいのですが、投資法人を含めた三者間にすることが多いようです。投資法人レベルでもきちんとオペレーターをコントロールすることができるということが理由のひとつと考えられます。

 

重要になる賃料設定は大きく3パターン

次は賃料設定です。投資法人も収益の源泉はすべて賃料なので、賃料をどう設定するかは非常に大事になります。既存の太陽光発電も将来的に風力を組み入れたファンドでも、この点は同じです。賃料パターンとしては、①固定額②変動額(売電収入等に連動)③両者の組合せの3パターンがあり得るでしょう。

①固定額の場合、2通りのパターンがあります。一定の固定金額の場合と、太陽光で成されているのは予想売電収入等に基づく金額をあらかじめ支払時ごとに設定されるパターン(支払額は毎回異なる)。①と③の場合で重要なのは、固定の支払額が必ず存在するということです。SPC賃借人スキームは基本的に、余剰原資がないため売電収入があまり上がらない場合に固定支払額をどう払うのかという仕組上の工夫が必要です。たとえば、スポンサー・オペレーターによる匿名組合追加出資や賃料保証等補てんの仕組み、SPC賃借人でリザーブを積む、場合によっては費用・利益の保険を入れるなどが実際のファンドで行われています。

②変動額(売電収入等に連動)の場合、100%事業リスクを負担する商品となることから以下の検証が必要です。ひとつが賃貸スキームを前提とする場合に、それは賃貸といえるのかどうか。導管性要件との関係でかなり慎重な検討が必要でしょう(税理士の意見、国税庁への照会)。もうひとつが上場商品としての適格性です。東証の上場審査や引受審査でどう見られるのか検討が必要です。

参考までに、オペレーショナル・アセット(ホテル、ヘルスケア施設等)を投資対象とするJリートの場合、②の賃料設定(変動賃料のみ)を行う例はほとんど見られません。

 

賃貸借期間とオペレーターの信用リスク

賃貸借期間については、できるだけ長期化しようとするインセンティブが働きます。解約不能期間も同様です。調達期間の20年がひとつの目安になろうかと思われます。太陽光発電施設では増えているかもしれませんが、そもそも代替できるオペレーターの数は多くないので、可能な限り当初のオペレーターを維持したいところです。他方、発電設備の場合は建物に比べて耐用年数が短いので、解約不能期間があまりに長期にわたるとファイナンス・リースに該当する恐れがあります。実務上は、オペレーターからの解約リスクを排除しようとする要請と、ファイナンス・リース性を回避しようとする要請を適切に調整し、賃貸借期間を決めています。

オペレーターの信用リスクの回避について。発電設備も同じですが、もともとインフラファンドはオペレーショナル・アセットです。オペレーショナル・アセットの運営はその特性上、オペレーターに依拠することが背景にあります。つまり、オペレーターの能力に拠るところが大きい投資になるということ。オペレーターについて信用不安が発生したり倒産手続が開始された場合は、インフラ資産の運営に支障をきたし、当然、投資法人のキャッシュフローにも影響を及ぼすことになります。信用不安や倒産原因が生じた場合にオペレーターを交代できる仕組みを作っておいたり、オペレーターの倒産リスクからの保全を図るための仕組みなどが重要になります。

オペレーターの信用リスクの回避について、既存のファンドでどのような手当、仕組みが取られているのか以下にまとめました。

●オペレーター賃借人スキームの場合

●SPC賃借人スキームの場合

 

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※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。

 

 

 

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