パート2:建設・運営のポイントと組み入れに関する論点
森・濱田松本法律事務所
弁護士 岡谷 茂樹氏
風力発電は、風の運動エネルギーを風車によって回転エネルギーに変え、発電機で電気エネルギーに変換する発電方法です。風の運動エネルギーは風を受ける面積に比例し、風速の3乗に比例します。つまり、風車の大きさ(規模)が大事になってくるわけです。この点が、太陽光発電と比べて発電量予測がやや難しいといわれる理由につながっていきます。以下が風力発電と風力発電事業の特徴です。
【風力発電】
【風力発電事業】
風力発電事業のスキームについて、主に太陽光発電と対比しながらキーワードでまとめてみました。
●スポンサー
限られた大規模事業者が多く、大規模化が進むと参入者も増加していくでしょう。一事業者ではなかなか遂行できない規模になってくると、複数の事業者が一緒に進めるジョイントベンチャー(JV)型が増えています。
●ファイナンス
資金調達においては、必ずしもプロジェクトファイナンスではなく事業者が自ら調達するコーポレートファイナンスを行っているケースも相応にあります。プロジェクトファイナンスについても、風力発電事業は建設・運営の面で相応の能力が必要になるので、現状は代替確保が容易ではありません。そうした能力を有するスポンサーがエクイティ種々をして事業にコミットすることが、プロジェクトファイナンスの案件であっても相応に求められます。太陽光発電などでよく用いられる「GK-TKスキーム」(合同会社と匿名組合を組み合わせた投資スキーム)はあまり多く利用されていません。
●建設時の体制
いわゆるバラコンが多いです。太陽光発電の場合はEPC(設計・調達・建設)業者が一括して請負契約を締結して責任をもって完成させることが多いですが、風力事業の場合は風車メーカーが寡占してそのパッケージを担うことも影響しています。風車メーカーと調達・据え付けを契約、その他の基礎などをEPC契約など、複数の請負事業者、複数のメーカーとの契約を締結して建設することが多く、複数の事業者を束ねたり、インターフェイスリスク(責任の境目が不明確になってしまうリスク)の調整をしながら進めることが求められます。
上場インフラファンドとの関係では、差し当たって稼働済み(運転開始後)のものが組み入れられることを主に想定されているので、建設体制の違いについてことさら強調することはないかもしれません。EPC業者から見ても、インフラファンドが取得することで何か大きく変わることはないでしょう。
●O&M(オペレーショナル&メンテナンス)体制
これにはいろいろなパターンがあって、大規模事業者においては自社に相応のO&M体制を有してそこで対応しているケースがあります。風車については風車メーカーに委託、それ以外はサードパーティ事業者に委託することも。風車に関しては、自社もしくは風車メーカーに委託することがほとんどで、欧州では風車の当初保証期間が終わった後にO&Mを自社やサードパーティに切り替えたりすることもあるようです。日本では風車そのものをメンテナンスできる業者は限られているので、サードパーティ事業者は今度の課題といえるでしょう。
●稼働率担保主体
O&M体制と似て非なる論点として、稼働率担保があります。すなわち、風力発電事業については稼働率の確保やダウンタイムの短縮は非常に重要で、風車が止まったら速やかに復旧させることが求められます。止まった場合にそれを保証する仕組みも取られています。
働率を維持する責任を誰が負っているのかということにおいて、いろいろなパターンがあります。自社O&Mなら自社が、スポンサーが自分の責任で、などです。よくあるのは風車メーカーがパッケージとして稼働率保証をするアベイラビリティ・ワラントを提供しているケース。稼働率担保が何もない場合もあることはありますが、ファイナンスの観点では厳しい条件といえます。
●事業用地の利用権
風力発電ではさまざまな設備が広範囲に展開していますが、そのことによってさまざまな権利の確保が必要になってきます。まとまった土地で一括して地上権を設定することは少なく、広範な土地を抑える関係があって、いろいろな地権者、地方公共団体、国が有している土地を借りたりすることもあります。必ずしも登記された地上権、賃借権、占用許可というわけではありません。風車が立つ土地だけでなく、通称「羽根下」と呼ばれる部分の利用権も抑えなくてはなりませんが、これもきれいに登記されているわけではありません。実状に応じながら、さまざまな種類の権利をそれぞれの土地の権利を保有している方と交渉して確保していくことが必要になります。
以上のことを踏まえて、インフラファンドに組み入れる場合の留意点を事業運営面とスキーム面から整理してみましょう。まずは、事業運営面の課題を3つにまとめました。
1つめは売電収入の予測です。発電量の予測が一筋縄でいかない部分があるので、予測技術が大事になります。具体的には予測するテクニカルアドバイザーやコンサルの力を借りることになるでしょう。ここでは彼らの能力や信頼性が重要になりますし、トラックレコードの蓄積も大事です。日本の場合、陸上風力は相応にあるかもしれませんが、洋上風力となるとこれから。トラックレコードの蓄積が待たれるところです。
単純な風況予測による発電量予測だけではなく、どのように稼働率が担保されているのか。稼働率を上げるためのO&Mの体制がどうなっているか。実際に止まったときの稼働率保証もどのようなパッケージが入っているのか。こういうことも重要になってきます。
2つめがO&M体制とO&M業者の信用リスクです。まずはスポンサーによる自社のO&M体制が考えられますが、風車メーカーへの委託、サードパーティもあります。どういった体制にするのか、ファンドに組み入れた後でもいいので考えなくてはならないところです。
O&M業者(風車メーカー、サードパーティ事業者)の信用リスクも精査していく必要があるでしょう。風車そのものにおいては、現在はサードパーティも技術を蓄積しているところだと思われますが、風車メーカー以外では容易ではありません。代替性の確保は大きな課題です。そのためには、サードパーティ事業者の育成や事業者の評価手法を確立していくことが重要でしょう。
3つめがスポンサーの信用リスクです。風車発電事業の特徴を考えると、運営という意味ではスポンサー、つまり実際に事業を差配する組織の能力がより重要になっていきます。そこが倒産ということになると影響が大きい。代替可能性はまったくないわけではありませんが、太陽光発電と比べると大規模事業者が限られている現状があります。また、代替可能性の可能性も重要ですが、インフラファンドにおけるオペレーターの信頼性や財務的な安定性も相応に重要になってきます。
次にスキーム面の課題です。ポイントを4つに整理しました。①取得方法(直接投資or 間接投資)①土地利用権の確保、境界確定③賃料スキーム④担保設定です。
1つめの取得方法ですが、インフラファンドに組み入れる場合の取得方法は、先ほど佐伯が直接投資形態と間接投資形態の2通りあると話しましたが、基本的に上場インフラファンドは直接投資形態が想定されています。風力発電設備と関連資産を投資法人が直接取得するわけですが、その構成要素(設備)、関連契約の種類・数が多く、これらの権利関係をすべて移転するのは容易ではありません(手間がかかる)。準備や関係する第三者等との調整が必要になってきます。
また、洋上風力など大規模化が進んでいるので、発電所全体の取得には多額の資金が必要ということになります。いちどにまとめて取得するのは容易ではない局面もあるでしょう。さらにJV化の進展によって、一部株主が売却を望むケースもあり得ます。そうなると、間接投資的な所得を検討する局面は今後、増えてくるのではないでしょうか。間接投資の形にもっていった瞬間に賃貸スキームを組まなければならないので、これが大きなハードルになってくる可能性はあります。こと間接投資に関しては賃貸スキームの強制が障害になり得ると考えられます。
2つめの土地利用権の確保と境界確定に関しては、設備構成が広範囲なので、それらが置かれている土地の利用権もさまざまです。登記がなかった、短期間である、占用許可等の取扱いがあり、必ずしもきれいに登記されているとは限りません。私は太陽光発電施設の組み入れのときからデューデリジェンスや物件取得を多く担当してきましたが、その労力の多くは土地問題に費やされました。風力発電施設においては、ますますこの作業がたいへんになってくるでしょう。このような実態があるので、必ずしもすべてきれいに揃えるというのは容易ならざる面があります。きっちりデューデリして相手方や土地の性質、利用方法などに応じて何をどこまでやれば適切なのかを判断していくことも必要かと思われます。
土地がそのような状況なので、未確定の境界の取扱いも重要です。未確定というのは、必ずしも隣地所有者の方と境界確定所を交わしていない境界も多数あるということです。使えると思っていた土地が使えなくなるリスクがあるので、きっちり境界を確定させることはいうまでもなく重要ですが、広範囲の土地や山岳地帯などでは必ずしも正当な権利者と境界確認書を交わすのは容易ではありません。
これまで上場しているインフラファンドでは、かなり手堅く境界確定を取り扱ってきています。風力発電施設だから緩めていいわけではありませんが、実態を踏まえたリスク判断や取り扱いの手当をしていく必要があると思われます。
3つめの賃料スキームです。発電量予測が太陽光より難しいこともあり、それに応じて賃借人SPCに入ってくる発電量も必ずしも安定しないことがあり得ます。それが転じてインフラファンドに入ってくる賃料をどのように安定させるのか、これはひとつの検討課題になるでしょう。太陽光発電施設を組み入れたインフラファンドのように、スポンサーとオペレーターによる基本賃料や最低賃料保証も考えられますが、そのためのリザーブ等を活用するなど仕組みの工夫が必要です。
4つめの担保設定。風力発電だから何か特別なことがあるわけではありません。投資法人に組み入れ時から必ずしもすべての資産に担保を設定しているかというと、ファンドにもよりますが現状そうではありません。ただちにすべての資産で担保設定が問題になってくるわけでもありません。
風力発電設備に担保を設定しようとすると、太陽光発電施設では基本的にパネル(動産譲渡担保)と土地の権利が担保になるかと思います。風力発電施設では土地のうえにタワーを建て、風車やタービンを載せます。これらは建物でもないし、土地への定着度も強い。このような、民法でいうところの「土地の定着物」に該当すると思われる資産も数多く存在します。そうなると、動産ではないので動産譲渡担保や動産譲渡登記が使えません。土地の定着物は不動産ではありますが、土地のそのものではないので土地の登記もできません。これを担保に取るのは普通の民法の制度では難しいようです。
そこでよく使われているのは、工場財団を組成し、その組成物件に設備を記載するということ。工場財団抵当権を設定するわけです。
この話しは陸上風力発電の場合で、洋上になるとちょっと違ってきます。海底は民法上の土地ではないので、土地の定着物はありません。動産だろうという議論がありますが、これはすでにファイナンスを組成している洋上風力発電の物件で議論されているところです。
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※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。
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