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企業IR&個人投資家応援イベント

「J-REITファンin大阪」リアル開催

 

 

2023年1月28日(土)、「J-REITファン2023 in大阪」が大阪市北区の毎日新聞ビルB1Fオーバルホールで開催された。今回は2020年以来、3年ぶりのリアル開催となった。

参加企業は、サムティ・レジデンシャル投資法人(3459)、積水ハウス・リート投資法人(3309)、SOSiLA物流リート投資法人(2979)の3投資法人。識者の講演のほか3法人からのプレゼンテーションや最新動向の報告など、個人投資家はリアル開催ならではの情報に触れることができたのではないだろうか。

当日のプログラムの一部を抜粋して紹介する。

主催:株式会社東京証券取引所(日本取引所グループ)
   株式会社日経ラジオ社
   株式会社プロネクサス

 


 

【特別講演01】
2023年の株式材料と指数現住所のチェック

スプリングキャピタル代表
井上 哲男氏

 

地政学リスクの高まりと米国の金利と景気減速懸念


スプリングキャピタル代表
上場推進部長 井上 哲男氏

2023年の株式材料を整理すると、以下の3点になるでしょう。

1) 地政学リスク(ロシア、ウクライナ情勢)
2) 米国金利と景気後退懸念
3) 日本株外国人需給(先物買い戻し)

 

<地政学リスク(ロシア、ウクライナ情勢)>

地政学リスクは、ここにきて非常に高まっています。この問題に対して解決の道筋が立てば、株式市場には劇的に資金が戻ってくるでしょう。気になっているのは、ロシアのスポークスマンのコメントで「西側」と言っている点です。それまでは「ウクライナ」と言っていました。この表現は危険な兆候かもしれません。

EEU(ユーラシア経済連合)という組織があるのはご存知だと思います。加盟国はロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギスの5か国。これにイランが時限的自由貿易協定を結んでいて、中国も協定を結んでいます。緊張が高まっているという現状認識のうえで、地政学リスクを意識する必要があるでしょう。

年金やファンドの運用において、地政学リスクが高いときはキャッシュポジションをある程度厚めに持っている必要があります。不測の事態が生じたときに、投資家へ説明できなくなってしまうからです。実際に各ファンドのキャッシュポジションは高い状態にあります。

この問題がクリアになれば資金が入ってくるのは確かですが、マーケットは去年1月以降、地政学リスクに鈍感になっています。この点が逆に、何か起きたときに怖いと思っています。

<米国金利と景気後退懸念>

ここ2週間ほど、米国の製造業を巡るさまざまな景気減速サインが出ている一方、GDPは2期連続でプラスという話が伝わっています。また、GAFAにおいて従業員の大規模解雇がありました。果たして景気後退は本当に起きるのか、米国内でも意見が二分している感があります。

その根っこにあるのが米国金利です。去年の夏以降、米国は2年債と10年債の利回りが逆転している「逆イールド」の状態にあります。これは明確なサイン。米国は過去、逆イールドの状態になると、必ずその後に景気減速が起きているのです。これが去年の夏以降、景気減速が意識されている大きな理由のひとつです。

この点については、後段で説明します。

<日本株外国人需給(先物買い戻し)>

ここ数年における日本株の動きは、外国人投資家の現物買いではなく先物の売り、先物の買い戻しで説明できます。

去年の各株式指数の動きを振り返ってみると、米国のダウは年次で-8.8%、S&P500は-19.4%、ナスダックは-33%でした。ファンドや年金はどの指数を対象(ベンチマーク)にしているのかというとS&P500なんですね。日本の日経平均株価が225銘柄。TOPIXは以前1700銘柄以上あって、これが指数として意識されています。欧州にはドイツのDAX、フランスのCAC40、英国のFTSE100などがありますが、世界の年金が見ている指数はストックス600です。

株価指数としてはS&P500とTOPIX、ストックス600の3つが大事になるわけです。

去年1年間の日経平均株価の騰落率は-9.4%でした。ダウより少し悪い程度です。TOPIXは-5.1%。この数字は日本人の感覚であって、外国人はドルを円に替えて日本株に投資するのでドルベースで見る必要があります。ドルベースの日経平均株価の下落率はちょうど20%。S&P500とほぼ同じです。ちなみにTOPIXは-17%でした。去年については、日本株はそれほどアウトパフォームしていないということですね。

なぜこうなったのか。公的資金のソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)や年金は為替ヘッジをしないからです。

去年は大きく円安に振れました。外国人投資家が望むのは、日本株が上がること、指数が上がること、そして円高に向かうことです。極論すれば、指数が20%上がっても20%円安になったら彼らにとってはゼロと同じ。去年の円安は外国人投資家にとって非常に厳しい状況を招いたことになります。そうなると、ここから先も買っていこうという意志が薄れてしまいます。

為替が落ち着き、円安が一服して緩やかな円高へ向かうとなると、円安を望んでいる先物を売っている投資家の買い戻しが起きます。このような状況が先週から起きています。

 

ウォルマートの決算と株価、住宅関連の数字は注視したい

米国金利の話を少し詳しくしましょう。

去年に入ると2年債と10年債ともに金利が上昇し始めました。これは、その前の夏からの原油価格の上昇などによるインフレ懸念に反応した結果です。しかし、そもそも米国金利には柔軟性というか弾力性があります。23年1月20日現在は、2年債が4.190%、10年債が3.478%、FF金利が4.25~4.50%。ここまで上がったといっても、私には大きな打撃には感じないのです。

モノのインフレは原油価格や半導体不足、希少金属の価格、天候不順などさまざまなことに影響を受けますが、これらは比較的解消しやすい。問題なのはモノ以外のインフレ。長引くのです。労働コストや住宅関連コスト、家賃などはいちど上がるとなかなか落ちません。

たとえばウォルマートは、売上の6割以上が生鮮食品で、他の小売りにくらべて消費が固いことから「インフレ時の優良児」といわれていました。ウォルマートを買って、他の小売りを売るのがインフレ時の売買の教科書でした。しかし、去年第1~2四半期の業績が予想を大きく下回ったのです。その原因はドライバーのコストでした。

同社の去年第2四半期における新人ドライバーの年俸は10万~13万ドル、当時の為替レートで1300万円~1800万円です。新人で、ですよ。このような待遇でなければ人が集まらない状況だったわけです。これはなかなか下がりません。ウォルマートの決算をマーケットが好感したときは、インフレに対するメドがついたときと考えるのが妥当でしょう。

マーケットはいま、利上げ終了までの時間軸を意識していると見ています。

去年10~12月に2年債と10年債の利回りは落ちてきています。景気減速のサインとして、逆イールドのほかに、もうひとつあります。景気減速の前年、少なくとも半年前以降に失業率が大きく上昇することです。しかし現在はまったく上がっていません。つまり、米国の景気減速の前に必ず起きていた事象でも、起きているものと起きていないものがあるということです。どう判断すべきでしょうか。

私個人としては、大きな景気減速は考えていません。去年12月20日に発表された、11月の住宅着工件数よりも許可件数が大きく下がっている事実。この許可件数が増えてくれば、それほど大きな景気減速には結びつかないというのが私の見立てです。

住宅はただの箱ではありません、車や家電など幅広い消費を伴います。その意味でも住宅の数字は意味が大きい。ウォルマートと住宅の数字はぜひ注視してほしいポイントです。

 

売り超10.4兆円の半分が買い戻されたら日経平均は…

日本株の需給について。

外国人投資家の去年における日本株の売買占有率は61%でした。13年のアベノミクス相場が始まってからの累計買い越し額をまとめてみると、ピークは15年5~6月で上海ショックの前。その後は減ってきていますが、株価は日銀のETF買いなどの“黒田政策”でがんばっています。これが現物株の動きです。

北米・欧州・アジアでの需給を見ると、21年は欧州が約1兆5000億円買い越しましたが去年は売り越しに転じました。やっかいなのはアジア。15年以降、ずっと売り続けています。アジアの主体は中国です。今後の拡大期待は難しいでしょう。日本株の売買動向に大きく影響を与えてきたのは欧州だということです。

欧州の資金に含まれるのがオイルマネーです。中東の資金は結構な頻度で出し入れされて、そのたびにポーション(割り当て)を決めて日本株をどのくらい買うか決めています。原油価格が上昇することは日本株にとっては実はプラス。中東のお金が英国の投資顧問に流れて、「欧州」の形で日本株を買ってくれるからです。

しかし、先物は別です。

アベノミクス相場が始まってからの外国人投資家による指数先物残高は、今年年初から過去最大規模の売りになっています。1月6日現在で10.4兆円の売り超です。先物はどこかで必ず買い戻す必要があり、過去では買い戻し時に指数が大きく上昇するケースが散見されました。前述の地政学リスクが収まったときに、このケースが出てくることは期待できるでしょう。

もし現在の売り超の半分が買い戻されたら、計算上、日経平均株価は3万1008円になります。あくまで計算上ですが。現状の地政学リスクでは、買い戻し気分が盛り上がらないのはよく分かります。しかし、外国人投資家による先物買い戻しで、状況は大きく変わるということは忘れないでほしいところです。

 

※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。

 

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取材・執筆:K-ZONE

 

 

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