専門家インタビュー

■第13回

2012年の振り返りと2013年の展望

2012年のREIT市場は、年初から確実に上昇傾向をたどり、東証REIT指数でみると30%超の値上がり益が得られました。加えて分配利回りが5%平均なので、トータルリターンは40%程度にもなりました。2012年のREIT市場の振り返りと、2013年の注目点について、SMBC日興証券シニアアナリストの鳥井裕史氏に伺いました。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

まず2012年のJ-REIT市場を振り返っていただけますか?

鳥井東証REIT指数でみると、年初は830ポイント前後。これが、年末にかけて1100ポイントを超える水準にまで上昇しました。あくまでも東証REIT指数というインデックスベースの話になりますが、この間の値上がり率は30%超。そして年間の分配金利回りは5%程度になりますから、両者を合わせると40%程度のトータルリターンが実現したことになります。

東証REIT指数が1030ポイントになると、J-REITの純資産倍率が1倍になり、ディスカウント状態から脱したことになります。年末にかけて1100ポイント超まで上昇しましたから、2012年のテーマはまさに「ディスカウント解消」ということになるでしょう。1年を通じてみれば、非常に堅調なマーケットだったと思います。

■図表:東証REIT指数
図表1

 

ファンダメンタルズが好調だったということでしょうか。

鳥井オフィスの賃料は下落していましたが、そのマイナス面を物件取得によってカバーしたことや、8月以降、空室率が下がったことなどが奏功しました。

ただ、こうした要因に加えて、政策面の後押しが、マーケットを大きく押し上げました。具体的には、2013年に予定されている投資信託法の改正によって、自己投資口取得が解禁されることやライツオファリングの解禁、日銀によるJ-REITの買入枠の拡大などです。

こうしたことを受けて、地方銀行による不動産投資信託への投資が活性化されたことや、複数のJ-REITを組み入れて運用するファンド・オブ・ファンズを通じて、個人資金が国内REIT市場に流入しました。ちなみに、ファンド・オブ・ファンズの純資産残高を見ると、昨年末の5,500億円に対し、2012年11月末のそれは8,500億円ですから、需給の改善には非常に大きな意味を持っていたと考えられます。

 

好調に推移するJ-REIT市場ですが、今後の値上がりを阻む懸念材料はありますか?

鳥井ファンダメンタルズの面では、それほど大きな懸念材料は出てこないと思います。ただ、オフィスの賃料自体は、なかなか上昇して来ない。賃料が上がらないと、J-REITの分配金も向上せず、したがって、ここから先の値上がりも望み薄ということになります。
東証REIT指数は2012年末にかけて1100ポイントを達成してきましたが、これから先、1200ポイントを目指すのであれば、オフィス賃料が値上がりするといった支援材料が必要になってきます。なので、まずはオフィス賃料に値上がりの余地があるのかどうかという点が気になります。

もうひとつは、新規上場の増加にともなう一時的な需給環境の悪化です。2012年後半から新規上場が増えていましたが、この流れは2013年も続くでしょう。市況が好調であれば、新規上場が増えていきますから、全般的には供給増になります。供給過多になれば、価格の上昇は一時的に抑制されます。

一方、政策面における懸念材料はどうかというと、これはほとんど心配しなくても 大丈夫でしょう。自民党政権になり、マーケットにとってはやさしい政策が期待されます。今後、インフレ政策が本格的に打ち出されてくれば、J-REITにとってはポジティブな材料になります。

恐らく、地方銀行などは2013年3月末にかけて、一旦は保有しているJ-REITについて、利益を確定させる動きを見せてくるのではないかと考えています。したがって、3月はやや需給が緩むでしょう。結果、価格が調整する可能性はあります。

そして、その後は政策面の効果が表れて、再び上昇トレンドに入っていくと見ています。

 

J-REITの収益性を改善させていくうえで、
新規物件取得は必要だと思いますが、その動きはどうなるでしょうか。

鳥井2012年を通じて、J-REITによる物件の取得は、取得を公表したものも含めると、合計で1兆円を超えます。恐らく、2013年もこの傾向は変わらないでしょう。新規物件を取得することによって、J-REITは収益性向上を目指すはずです。

その根拠になるのが日本再生戦略にJ-REITの活用が盛り込まれていることです。日本再生戦略では、J-REIT市場の資産規模を2015年度までに、対2011年度比で40%増、2020年までには倍増させるという目標を掲げています。つまり、現在の市場規模に対して、2020年までに8.5兆円程度、資産規模を増やすことになりますが、それを実現するとなれば、年間1兆円規模で新規物件を買い付けていくことになります。仮に、これがシナリオ通りに進めば、国内の不動産市況も確実に上昇へと向かうでしょう。

 

日銀によるJ-REITの買い入れは、今後も継続されますか?

鳥井日銀による金融緩和は引き続き継続されると見ています。日銀は消費者物価ベースで1%の物価上昇率を達成するまでは金融緩和を継続する方針を打ち出していますし、安倍政権はさらにそれをドラスティックに進めていくでしょう。何が何でもデフレ脱却を目指してくるでしょうから、総力を挙げて金融緩和を行ってくると思います。

当然、日銀による不動産投資信託の買い入れ枠も、さらに増額してくるでしょう。当初は2012年末で終了する予定でしたが、2012年10月には、これを2013年末まで継続させることを発表しました。買い入れ期間の延長と買い入れ枠の増額が既定路線になったのです。日本再生戦略に加え、日銀の金融緩和とJ-REITの買い入れも、政策面でJ-REIT市場を活性化させる根拠になります。

 

ライツオファリングの解禁は、
J-REITにとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

鳥井J-REITがエクイティで資金を調達する方法は、公募増資と第三者割当増資という2つの方法しかありません。一般的に、資金繰りの厳しい時ほど、株価は下がっているものですが、このような時に公募増資や第三者割当増資などで資金調達を行おうとしても、なかなかうまく行きませんし、既存の投資家からすれば、投資口1口あたりの資産価値が希薄化してしまうというデメリットがありました。

でも、ライツオファリングなら既存の投資家が保有している投資口の資産価値を希薄化しないというメリットがあるので、これを解禁すれば、J-REITの資金調達が円滑に行われることになります。

 

2013年のJ-REIT市場は、
どういう展開になりそうですか。

鳥井2012年におけるJ-REIT市場の見通しは、東証REIT指数で1100ポイントを目指すというものであり、それは12月で達成しました。

では、2013年はどうかというと、私は東証REIT指数で1200ポイントを目指す展開になると見ています。ただ、これには条件があります。というのも、東証REIT指数で1200ポイントになると、分配金の利回りが4.5%まで低下すると共に、NAV倍率が1.15倍まで上昇します。したがって、2013年のJ-REIT市場は、2012年のようにNAVディスカウントではなく、NAVプレミアムで投資する形になります。この状態で、さらに投資が促進されるためには、分配金が増額されることや、NAVが上昇することに対する期待感が必要になります。それが無くなると、逆に価格は下落していきます。

現状はどうかというと、オフィスの賃料下落に歯止めがかかりつつあります。これは、J-REITの市況にとって好材料でしょう。賃料下落が起こらないことと、継続的に物件取得することができれば、J-REITの増配も可能になりますから、それがJ-REITの市況をもう一段、押し上げるきっかけになると見ています。

ちなみに、2013年の市況は、東証REIT指数で1200ポイントを目指しつつ、下値は1000ポイントがサポートになるでしょう。NAV倍率で1倍をクリアし、J-REITはようやく自力で物件を取得し、収益を賄える状態にまでなりました。当然、1000ポイント割れは避けたいという気持ちも強くあるでしょう。これは、日本再生戦略を掲げて日本経済の回復、デフレからの脱却を目指している政策当局にとっても同じことです。したがって、1000ポイント割れは強く意識してくるでしょうから、2012年のように、そこを大きく割り込むような展開にはならないでしょう。総じて、2013年のJ-REIT市場は、明るいと思います。

 

 

 

掲載日:2013年1月11日

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券CM)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「2012All-JapanResearchTeam」REIT部門で1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

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