■第23回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く
昨年秋口以降、なかなか1,500ポイントを抜け切れずにいた東証REIT指数が、今年の春先から徐々に騰勢を強めている。7月末以降は1,600ポイントに乗せると共に、2013年3月につけた1,700ポイントも視野に入ってきた。これからの国内REIT市場の動向を、SMBC日興証券の鳥井裕史氏に伺った。
SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏
鳥井そうですね。7月末に1,600ポイントを付けた東証REIT指数ですが、概ね順調な値動きだと思います。長期金利が0.5%前後で、オフィスビルの賃料が上昇してきていますから、年末に向けて1,800ポイント乗せのシナリオは、今のところ変更ありません。オフィスビルの賃料は今後も順調に上がっていくでしょうから、少なくとも今年一杯は、安心してマーケットを見ていることができます。
ただ、問題は来年以降でしょう。オフィスビルの賃料上昇には期待したいところですが、それが景気回復によるものだったら、一方で長期金利には上昇圧力が掛かってきます。そのため、オフィスビルの賃料上昇と長期金利上昇の綱引きが続くことになりそうです。
来年にかけてのシナリオは3つ考えられます。
第一は今、申し上げたように、オフィスビルの賃料が上昇する一方、長期金利も上昇するケース。
第二は、景気が伸び悩むケースです。この場合、長期金利には上昇圧力がかからないでしょうが、一方でオフィスビル賃料の上昇期待が無くなります。
そして第三のシナリオは、非常にポジティブなもので、景気は極めてしっかりしているけれども、金融緩和政策がこのまま継続されるというものです。
このいずれになるのかということを、考えておく必要があります。一見、最もポジティブな第三のシナリオが理想的と思うでしょうが、景気が回復しているにも関わらず金融緩和を継続したら、別な面で日本経済に歪が生じます。それを考えると、第一のシナリオが最も現実的ということになります。
鳥井仮に長期金利が現在の0.5%から1%まで上昇したとしても、オフィスビルの賃料が10%上昇すれば、年末にかけて東証REIT指数は1,800ポイントを目指す展開になるでしょう。これはマーケットもほぼ織り込んでいて、シナリオ通りの展開になっています。
もし、長期金利が1.5%まで上昇したとしても、オフィスビルの賃料が2013年比で20%上昇すれば、分配金利回りを1%押し上げる効果があるので、長期金利の上昇分を相殺することができます。そこからさらにオフィスビル賃料が10%を超えて上昇すれば、東証REIT指数は2,000ポイントを超えてくるでしょう。ただ、現状でオフィスビル賃料が、2013年比で20%や30%も上昇するというのは、いささか高望みに過ぎると考えています。
■図表:東証リート指数
鳥井今年に入ってからオフィスビル賃料の上昇ぶりは、かなりしっかりしたものになってきています。東京都心5区の平均募集賃料で見ると、現在は坪当たり1万7,000円近辺ですが、恐らく1万9,000円程度までは十分に見込めると思います。このように賃料が着実に上昇しているので、多少、長期金利が上昇したとしても、J-REITのダウンサイドリスクは少ないと考えています。
鳥井過去の値動きを振り返ると、2005年末からオフィス賃料は上昇し、2006年後半以降、上昇傾向が鮮明になりました。具体的には、オフィス賃料がボトムから5%程度上昇し、賃料ギャップが解消し始めた段階にあたる2006年後半から、J-REITの分配金利回りと長期金利のスプレッドが縮小トレンドに入りました。つまりJ-REITの価格が上昇したということです。
今回は2013年末からオフィスビルの賃料が上昇し始めました。このまま2014年後半にオフィスビル賃料の上昇が鮮明になれば、前回と同様、J-REITの分配金利回りと長期金利のスプレッドは縮小すると期待されます。
鳥井賃料ギャップが存在するからです。オフィスビルの募集賃料とJ-REITに組み入れられている物件の賃料の間には、ギャップが存在します。これが賃料ギャップです。現状、オフィスビルの募集賃料は、J-REITに組み入れられている物件の賃料に比べて5%程度低い水準にあります。
したがって、募集賃料がここから先、上昇傾向をたどり、J-REITに組み入れられている物件の賃料を上回ってくると、今度はJ-REIT側も組入物件のテナントに対して、賃料の増額要求が出来るようになります。結果的にJ-REITの成長につながるということで、投資家が買いに動くのです。特に外国人投資家は、賃料の上昇を材料にして投資を進める傾向がありますから、オフィスビル賃料の上昇は外国人投資家の買い意欲を高める可能性があります。
鳥井これまでJ-REITの買い主体というと、地方銀行などの金融機関、そしてJ-REIT特化型ファンドを通じた投資信託会社の買いが中心でしたが、この動きにも若干の変化が見られるようになってきました。
第一は、外国勢の動きが活発になってきたことです。単月ベースで見ても、5月、6月は大幅な買い越しでした。
第二は、これまで買い主体だった金融機関、投資信託の買いペースが一時的に伸び悩みましたが、再び買いの勢いが出てきたことです。
2012年6月~2014年3月まで一貫して買い越し主体であった投資信託が2014年4~6月は320億円の売り越しに転換しました。J-REIT特化型投資信託への資金流出入動向を見ると、2014年1~3月の平均月額資金収入超過額は600億円でありましたが、2014年6月には-4億円と資金流出超へと鈍化しました。東証REIT指数が1,600ポイント台に上昇して分配金利回りが低下したことにより、同利回りへの魅力度が低下したことや利益確定売りが多く出たことが背景として考えられます。一方、2014年7月以降は長期金利が再び0.5%前後へと低下し、J-REITの相対的な利回り魅力度が向上したことにより、J-REIT特化型投資信託への資金流入は再開、再び買い越しに転じています。同様の動きは銀行でも見受けられます。これまで継続的な買い手であった地方銀行をはじめとする銀行について、2014年6月の買い越し額は22億円へと急減したものの、7月以降は再び買い越し姿勢を強めています。
2014年7月以降の東証REIT指数も堅調に推移したことにより分配金利回りは低下傾向にあるものの、長期金利も低位にとどまることにより結果として分配金利回りスプレッドは3%程度を維持している。そのため、インカムゲインを重視する国内投資家勢も引き続き買い手として存在感を維持していると言えます。
現在の「オフィス賃料上昇」+「超低金利」は「キャピタルゲイン」獲得期待を持つ投資家と「インカムゲイン」獲得期待を持つ投資家の双方がJ-REITを「買える」環境と言え、良好な需給環境が続くものと期待しています。
鳥井冒頭でも申し上げましたように、今年末までは安心して見ていられると思います。東証REIT指数の1,800ポイント乗せ実現の可能性も高いといえるでしょう。ただ、来年以降はやや波乱含みの展開もありえるかも知れません。
とはいえ、大きく崩れるようなことはないと思います。何しろ、今年は厳しいと思われていたJ-REITの物件取得ですが、これが思っていた以上に積極的なのです。
2013年のJ-REITによる物件取得実績は、金額ベースで2兆2,268億円でした。まさに過去最高の取得額になりましたが、その反動で今年は厳しいと見られていたのも事実です。恐らく、せいぜい取得できたとしても昨年の半分程度の規模だろうと見られていました。
それでも、2014年の1~9月までの数字を見ると1兆2,000億円の取得実績になっています。年間ベースで見れば、恐らく1兆5,000億円を超える水準には達するでしょう。しかも、昨年は大型IPOがあったので、新規上場ファンドによる物件購入が大きかったのですが、今年はIPOもまだないので、そこから考えると、既存のJ-REITが頑張って買っていることになります。それだけ物件取得の競争も激しくなっていますが、一方でファンドの成長シナリオを描くための努力も行われているということです。これらの点からも、確かに来年以降のシナリオは難しいところもありますが、大きく相場が崩れるようなこともないと考えています。
掲載日:2014年11月11日
鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト
大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券)において
年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、
2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。
2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012年、
2014年に1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター
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