専門家インタビュー

■第35回
SMBC日興証券のシニアアナリスト、鳥井裕史氏に聞く

2019年のJ-REIT市場と2020年の展望

「2019年のJ-REIT市場概要」

鳥井裕史氏フォト

SMBC日興証券株式会社
株式調査部シニアアナリスト
鳥井裕史氏

2019年12月末の東証REIT指数は2,145.49ポイントとなり、2018年12月末(1,774.06)との比較で20.9%上昇、配当込みのトータルリターンでは25.6%上昇した。2019年12月末時点のJ-REIT市場全体の時価総額は16兆4380億円となり、2018年12月末時点の12兆9703億円の比較で26.7%増加した。

同期間のTOPIXは15.2%上昇、配当込みのトータルリターンで18.1%上昇となり、東証REIT指数はTOPIXをそれぞれ5.7ppt、7.5pptアウトパフォーム。2018年の大幅アウトパフォームに続き、2019年もアウトパフォームした。しかしながら、11月以降はTOPIXが堅調であった一方で東証REIT指数は失速したため年間でのアウトパフォーム幅は縮小した。また、東証REIT指数は同期間のFTSE EPRA/NAREIT Global Real Estate Index(円ベース)の17.7%に対して3.2pptアウトパフォームした。

2019年の東証REIT指数は特に10月まで堅調であった。一方、11月以降は金利上昇懸念や投資マネーの株式シフト等もあり調整する局面となった。年を通じて見ると、賃料増額は物件取得等で増配継続という好調なファンダメンタルズに加え、ゼロもしくはマイナス圏で推移した長期金利下においてインカムゲイン獲得ニーズを背景としたJ-REITに対する旺盛な需要が好調なパフォーマンス要因であったと言えよう。

以下では2019年におけるJ-REIT市場を取り巻く需給環境、物件取得動向等について振り返るとともに、2020年の展望について記述したい。

■図表1:2019年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2018年12月末=100)
図表1:2019年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2018年12月末=100)

■図表2:J-REIT市場全体の時価総額推移
図表2:J-REIT市場全体の時価総額推移

 

「2019年のJ-REIT市場における需給動向」

2019年のJ-REIT市場を取り巻く需給構造を見ると、以下の点が特徴として挙げられる。総合的に判断すると、2019年の需給環境は良好であったと考える。

  1. 地域金融機関は投資口価格上昇で利益確定売りをする局面があったものの、国内長期金利がゼロ近辺もしくはマイナス圏で推移する環境下でJ-REITのインカムゲインに着目し、需要は旺盛であった。特にJ-REIT市場の下落局面での押し目買い姿勢が強かった。
  2. 海外投資家は不安定な株式市場と世界的に金利上昇リスクが低減している環境下では他国のREITとともにJ-REITに対しても安心な投資先として買い越し姿勢であった。ただし、2019年4月や6月、10月等、株式市場の回復局面ではJ-REITから株式シフトも見られる局面もあった。
  3. 個人投資家によるJ-REIT特化型投信への資金流入の動きが2018年12月以降改善しており、J-REITに対するインカムゲインニーズは強い。ただし、J-REIT市場の下落局面では短期的には順張りで同投信からの資金流出が増加する傾向もあった。
  4. 2019年5月以降保険会社からの買い需要が強い。地域金融機関と同様にインカムゲインに着目した需要が旺盛であった。
  5. エクイティファイナンスを通じて配分された個人投資家からの売り圧力は継続。

2020年についても長期金利が低位安定推移し、J-REITの投資口価格も安定的に推移すれば、国内金融機関や投信経由での個人からのインカムゲインニーズは引き続き期待でき、相場の下支え要因となろう。同金融機関は超低金利環境や不安定な株式市場環境の下で他に投資先が限られるという資金運用難からJ-REITへの投資意欲は高く、継続的な買い越し主体として期待できる。

また、海外投資家についても世界的に金利上昇懸念が小さく、かつグローバルでの株式市場が不安定であればREITへの買い越し姿勢は継続するものと考えられる。ただし、株式市場が回復する局面ではREITから株式への資金シフトはある程度予想され、売り圧力となることも考えられる。そのような局面において海外投資家のJ-REITへの買い意欲が継続するためには賃料上昇や物件取得による増配期待の継続や内外中央銀行の金融政策による超低金利環境の継続が必要と言えよう。

このような点を勘案すると、2020年についても一定規模の定期的なエクイティファイナンスを吸収できる状況にはあると考える。ただし、短期間にエクイティファイナンスが集中する局面や資本コストを顧みずに増配をもたらさない公募増資が乱発するとJ-REIT市場のセンチメントを悪化させるとともに需給環境の悪化を招くだろう。適度なペースかつ増配をもたらすエクイティファイナンスであることを期待したい。

以下ではそれぞれの投資主体の動向について言及したい。

 

<銀行(含む証券自己)の売買動向>

東京証券取引所が公表している投資部門別売買状況に基づけば、銀行(除く日本銀行、以下同様)は2019年1~12月に累計で1,001億円の売り越し(日本銀行含むベースでは473億円の売り越し)であり、同統計上は買い越し主体ではない。J-REITでの益出しを目的とした売りも散見されたと思われる。

一方、最近の地方銀行をはじめとした地域金融機関はREIT-ETFを通じてJ-REITに投資する傾向がある。2019年1~12月における東証REIT指数もしくは東証REIT Core指数をベンチマークとするREIT-ETF14本の純資金流入額は約2,500億円であり、旺盛な需要が確認できる。また、東証データに基づけば、同ETF組成が関わる証券自己の買い越し額は2019年1~12月で合計1,827億円に達した。ただし、「証券自己」にはそれ以外のヘッジ取引等も含まれている点は留意したい。また、東証が公表している「ETF/ETN Factsheet 2019」によると、2018年7月末時点での地銀をはじめとした国内金融機関におけるREIT-ETFの保有シェアはおおよそ9割に上る。そのため、同投資主体の投資状況については東証が公表する投資部門別売買状況の「銀行」部分のみならず、REIT-ETFへの資金流入超過額も合わせて分析する方がよいだろう。

このような点から国内金融機関は長期金利がゼロ前後やマイナス圏で安定推移もしくは低下傾向となる場面ではJ-REITを「安定したインカムゲイン商品」という位置付けで買い越し主体として今後も期待されよう。

<保険会社(生損保)の売買動向>

東京証券取引所が公表している投資部門別売買状況に基づけば、生損保は2019年4月までは目立った投資主体でなかった一方、5月以降は大幅に買い越し主体となり、同年5~12月に累計で1,185億円の買い越しとなった。19/5期以降の各REITの決算説明会資料等で上位投資主に名を連ねる損害保険会社があり、同社がインカムゲイン等に着目してJ-REITを大幅に積み増しているものと推測される。他の保険会社も同様に動きが出るかについては現時点では定かでないが、今後も同投資主体の動向には注目したい。

<外国人の売買動向>

外国人は2018年に累計3,057億円を買い越し、2019年1~3月にも1,691億円買い越した。筆者による同投資家とのミーティング等によれば、2018年前半はグローバルリアルエステイトファンドが中心となり、J-REITに対して他国のREITに比べて2017年のパフォーマンスが低く割安感を感じていたこと、オフィスをはじめとしてファンダメンタルズが好調であることを認識していたこと、長期金利が他国に比較して上昇リスクが小さいこと等を背景として、J-REITのポジションをアンダーウェイトからニュートラルスタンスに戻すために買い越し姿勢であったと推察される。

一方、2018年後半に関しては海外年金やグローバル株式ファンドが低金利環境下で株式市場が不安定であったことから、J-REITと安定的な資金回避先として株式からシフトしてきたように感じた。そして、2019年1~3月については世界的に金利上昇懸念が遠のく中、グローバルREIT市場に資金が向かい、J-REITもその一環として買われたものと推察される。

しかしながら、株式市場が改善に向かった2019年4月や6月、10月は大幅売り越しとなった。これらは2018年後半に株式からJ-REITにシフトしてきた資金が株式に戻っていったことによるもの等と考えられる。特に、2019年4~8月の累計売り越し額は1,060億円であった。

上記の点を踏まえると、世界的に金利上昇懸念が持たれにくい状況が継続するのであれば引き続き海外投資家からのJ-REIT市場への資金流入は期待されよう。一方、世界的に金利上昇が許容されるセンチメントに転じた場合やリスクオン相場で株式市場への資金流入が大きくなる局面では注意が必要である。その際はJ-REITが分配金成長モメンタムを継続もしくは加速させることが海外投資家からの買い意欲を維持させることの条件となってくるだろう。

<投信・個人の売買動向>

投信協会や弊社集計データに基づくと、主に個人投資家向けの公募型J-REIT特化型投信(除くREIT-ETF)への資金流入超過額は2019年1~12月累計で約1,500億円に上ったと推察している。東証による投資部門別売買状況によると、投信は2019年1~12月に811億円買い越した。

J-REITの好調なパフォーマンスや世界的な低金利下での高利回りインカムゲイン商品という位置づけで個人投資家から注目されたものと考える。ただし、東証REIT指数が急落した11月単月では同投信から320億円程度の流出超過があった。個人投資家は基本的には同投信経由でJ-REITのインカムゲインを獲得主体であると考えられるものの、相場急変時の短期では順張りになる傾向にある。相場急落時には売り主体となろう。

なお、弊社が集計したデータによると、J-REIT特化型投信の残高は2019年12月末時点で2兆9414億円(除くREIT-ETF)であり、J-REIT市場全体の時価総額16兆4380億円の18%を占める重要な投資主体である。

一方、東証の同データに基づくと、2019年1~12月の個人投資家による累計売り越し額は3,379億円となり、売り越し傾向は続いている。基本的には、J-REITによる新規上場や公募増資が実施された場合にこれらを配分された個人投資家が取引所経由で売却したことが売り越しの主な要因であろう。ただし、J-REITは長期投資によりインカムゲインを獲得する有効な金融商品だと考える。個人投資家の長期投資を促進する環境を作る必要があろう。これは証券会社の個人投資家への営業姿勢や啓蒙活動が大きな役割を果たすと引き続き考える。筆者も含め、個人投資家に長期投資を促すことに引き続き努めたい。

■図表3:投資部門別売買動向(単位:億円)
図表3:投資部門別売買動向(単位:億円)

■図表4:J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)
図表4:J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)

 

「2019年のJ-REITにおける物件取得動向」

2019年のJ-REITによる物件取得実績は319物件で1兆4525億円(優先出資証券等は除く、追加取得は含む。新規上場銘柄の上場前取得分は上場日に取得したものとして計算)。2017年の1兆3187億円を10%上回ったものの、2018年の1兆7397億円を17%下回る水準にとどまった。

2018年12月末時点の東証REIT指数は1,774.06ポイント、J-REIT市場全体のNAV倍率(鑑定ベース)は1.04倍、インプライド・キャップレートは4.3%であり、J-REITにとって積極的にエクイティファイナンスと物件取得をするには至らず、2019年1~3月の物件取得実績は比較的抑制的な水準であったと考える。2019年における四半期ベースの物件取得実績を見ると、時期別シェアは1Q(1~3月)が31%となり、2017年の44%や2018年の41%を大きく下回った。1Qは一般事業会社やファンド等が決算期末(3月末)に向けて決済したい意向が強い点が挙げられるものの、2019年は例年に比較して同シェアは低水準であった。各J-REITは自らの資本コストに鑑み、保守的な物件取得姿勢であったと評価する。

一方、その後の東証REIT指数は上昇し、2019年3月末には1,900ポイントを超過。その後も同指数は堅調に推移し、2019年9月末時点における同市場全体のNAV倍率は1.2倍超、インプライド・キャップレートは3.8%に低下した。これにより、スポンサーパイプラインを豊富に有するREITが積極的に物件取得を実行に移したと言えよう。

2020年前半については上記に続きJ-REITの資金調達環境は改善していることから積極的な物件取得姿勢が予想される。一方、今後も超低金利環境の継続により国内外の幅広い主体が旺盛な物件取得意欲を有し続けると考えられる。J-REITに関しては引き続きスポンサーサポートがより重要になるとともに、資本コストに見合う物件取得であるかを注目しておく必要があろう。

■図表5:J-REITによる物件取得実績(暦年ベース、2019年12月末発表分まで)
図表5:J-REITによる物件取得実績(暦年ベース、2019年12月末発表分まで)

 
 

「2020年のJ-REIT市場展望」

2020年1~3月の今後3ヵ月間での短期見通しにおいて、東証REIT指数は軟調に推移する可能性がある。例年1~3月は他四半期に比較してJ-REITによるエクイティファイナンスが高水準に上ることが背景にある。2019年のJ-REIT市場は堅調に推移したことにより、より資金調達環境が改善していることから2020年はその傾向がより強く出る可能性があり、それは2019年12月から一部顕在化している。ただし、基本的にはインプライド・キャップレートを上回る水準で物件取得と増資を実施することにより、一口当たり収益性の向上が期待できる。そのため、同期間中に相場が下落した際は押し目買いのチャンスと捉えたい。

2020年におけるメインシナリオでのターゲット東証REIT指数2,250ポイントとしつつ、特に時期は定めないが、ブルシナリオとして2,600ポイントへの上昇というケースも視野に入れている。2020年における同指数は好調なファンダメンタルズと超低金利環境の継続により、安定もしくは堅調なパフォーマンスを遂げると考える。2020年も年を通じて見れば2018年からの好調なパフォーマンスの流れを引き継ぐものと期待したい。賃料増額の継続や外部成長により、弊社では2020~22年の今後3年間におけるJ-REIT市場全体の一口当たり分配金成長率を年率+5.0%と想定している。なお、J-REIT市場全体の一口当たり分配金は2014年下期~2019年下期の過去5年間で28%増加、年率換算で5%超増加しており、この増配ペースが継続することを期待した数値である。

それでは、上記のシナリオが実現するためには何が必要であろうか?筆者は「増資と物件取得が外部成長期待につながること」、「分配金利回りスプレッドは縮小すること」の2点が重要であると考える。この点について言及したい。

■図表6:J-REIT市場全体の一口当たり分配金指数の推移(2002年下期=100)
図表6:J-REIT市場全体の一口当たり分配金指数の推移(2002年下期=100)

■図表7:東証REIT指数に対する筆者の考え方
図表7:東証REIT指数に対する筆者の考え方

 

増資と物件取得が外部成長期待につながるか

2009~2019年におけるJ-REIT市場全体のLTV(簿価ベース)は45%程度で安定して推移している。つまり、物件取得を実行する際にはLTVを一定に保つためにエクイティファイナンスも継続的に実施されていると言うことができる。デットのみの調達で物件取得を実施した場合、現状の超低金利環境の下ではよほど高い価格(低いキャップレート)でない限り一口当たり分配金は増加する。しかしながら、LTVが一定であればインプライド・キャップレートで示されるエクイティ資本コストを上回るキャップレート(一口当たり分配金もしくはEPSを基準に見るのであれば償却後キャップレート)で物件取得をする必要がある。

2010~2012年は投資口価格が低迷していたため、インプライド・キャップレートを上回る水準での物件取得が困難であったことから、物件取得及びエクイティファイナンスは低迷した。他方、2013~16年における平均年間物件取得額は1兆7863億円と高水準であり、同期間における取得キャップレートはインプライド・キャップレートを平均90bps上回る水準であった。このような状況であれば増資及び物件取得が一口当たり収益性の向上をもたらし、これらが投資口価格にもプラスに働くという好循環になった。

しかしながら、2017~18年は投資口価格が低迷してインプライド・キャップレートが上昇基調となる中、不動産価格上昇によりキャップレートは低下を続けたことにより、インプライド・キャップレートと物件取得キャップレートとの差(以下、同ギャップ)は同期間平均で30bpsに縮小した。このような状況であれば増資と物件取得は一口当たり収益性向上に結びつきにくい。同期間での年間平均物件取得額は1兆5292億円、同平均エクイティファイナンス額は6,155億円と比較的高水準であった。J-REIT市場ではこれらが増資期待ではなく、投資口需給の重しとなり、増資が敬遠されることとなった。2018年に物件取得と増資を積極的に実施した物流施設型REITが軒並み東証REIT指数をアンダーパフォームしたことは記憶に新しいだろう。

一方、2017~18年は物件売却及び入替も積極的に実施された。前述の通り、インプライド・キャップレートが高止まりしている状況でエクイティファイナンスが難しい状況であれば、売却物件よりも高い収益性の物件に入れ替えることは一口当たり収益性向上に有効である。実際、同期間に物件入替戦略に重点を置いたオリックス不動産(8954、OJR)やいちごオフィスリート(8975、IOR)、大和証券オフィス(8976、DOI)等は2018年に東証REIT指数を大きくアウトパフォームした。

東証REIT指数が2,000ポイントを超過した2019年7月以降については、インプライド・キャップレートは低下し、2019年12月末時点での同ギャップは60bpsに拡大した。これにより、2019年におけるJ-REITによるエクイティファイナンスと物件取得は再び一口当たり収益性向上につながったものと考える。具体的には、産業ファンド(3249、IIF)が2019年5月と12月に2度の公募増資を実施し、巡航ベースの一口当たり分配金は19/1期の2,673円から2,919円へ合計9.2%増加した(IIF発表ベース)。また、2019年9月に三菱地所物流リート(3481、MEL)は公募増資と物件取得により巡航ベースの一口当たり分配金が8.0%増加すると発表し、同発表翌日の投資口価格は前日比7.3%上昇した。2019年に2度の公募増資を実施したラサールロジポート(3466、LLR)は、2019年の投資口価格のパフォーマンスが東証REIT指数を31pptアウトパフォームした。

このように、インプライド・キャップレートと物件取得キャップレートの状況により、物件取得とエクイティファイナンスが一口当たり収益性の向上に資するか否かが変化することに加え、その時々の投資戦略の違いにより選好される銘柄にも違いがある。各REITはこのような状況を都度把握して柔軟な戦略に取り組んで欲しい。また、投資家にとっても、良好なパフォーマンスを獲得するためにこのような流れを読むことが重要と言えよう。

■図表8:J-REITの平均取得キャップレート(全用途平均)とインプライド・キャップレート(暦年ベース)
図表8:J-REITの平均取得キャップレート(全用途平均)とインプライド・キャップレート(暦年ベース)

 

分配金利回りスプレッドは縮小するか

J-REIT市場全体の分配金利回りスプレッド(分配金利回り-長期金利)の推移を見ると、2013~15年は3.0~3.5%で安定的に推移し、同期間の平均同スプレッドは3.1%、2015年12月末時点で3.3%であった。同期間での東京都心部におけるオフィス空室率は低下し、市況賃料は反転。J-REITが保有するオフィスの賃料ギャップ(既存賃料>市況賃料)は縮小して賃料減額リスクは低下した。その結果、安定した分配金の確保が期待できる状態となり、かつ先行きへの懸念も解消した。つまり、同期間のJ-REIT市場は過度な不安も期待も少ない安定期であったと考える。

一方、2016年から2017年にかけてはオフィス賃料が上昇を続けて各J-REITの賃料増額事例も増加し、内部成長が増配をけん引するようになった。また、日銀による金融緩和により長期金利は0%前後で低位安定。これらを背景にすると本来であればJ-REITの分配金に対する期待成長率の高まりにより分配金利回りスプレッドは縮小傾向となるはずであるが、実際にはむしろ上昇し、2017年11月には同スプレッドは4.4%にまで拡大した。2018~19年は投資口価格が堅調に推移したことにより同スプレッドは縮小傾向となったものの、2019年12月末時点で3.6%と2013~15年に比較すると高水準にある。

現状の分配金利回りスプレッドが2013~15年に比較して高水準にとどまっている主な要因について、弊社では将来の長期金利上昇や賃料下落等による分配金下落リスク、グローバルでのクレジット市場悪化をマーケットは懸念しているためと考える。長期金利については多少上昇することは想定されても目先は日本銀行の金融緩和政策により0.0%を超えた場合でも0.2%を超過することは想定しにくい。また、今後3年程度を見通した場合でも0.5%を大きく超過することは現時点では筆者は想定していない。

長期金利が-0.2~0.2%の範囲内で推移するのであれば、分配金利回りは2013~15年の分配金利回りスプレッドのレンジを参考にすると分配金利回りは3.0~3.5%で推移することに違和感はないと考える。なお、弊社メインシナリオに基づくターゲット東証REIT指数2,250ポイントでの分配金利回りは3.5%、ブルシナリオ①での同指数2,600ポイントでは3.0%であり、同レンジの範囲内にある。長期金利は低位安定し続けるという前提に基づけば、2020年のJ-REIT市場も堅調に推移することが予想されよう。

次に、オフィス市況について詳細は後述するが、弊社では引き続き堅調な推移を予想している。三鬼商事が公表する東京都心部でのオフィス空室率は2019年12月末時点で1.55%にまで低下、同月末時点での月額平均募集賃料は24ヵ月前比+16%となっている。製造業については一部で収益悪化懸念がありオフィス需要にも鈍化の兆しはあるものの、情報通信セクターを中心とした内需企業では人員強化を含めて旺盛な需要は続いている。

各オフィス型REITに対する公表資料やヒアリング等によれば、東京都心を中心に市況賃料が上昇してきたことからオフィス市況賃料と各REITが保有するオフィスの賃料とのギャップが5~10%生じている状況に変わりはないと考える(市況賃料>継続賃料)。また、市況賃料の上昇に伴い、同ギャップは拡大傾向にある。実際、最近のオフィス型REITの決算実績を見ると賃料改定時に5~10%の賃料増額をできている場合が多く、既存ポートフォリオの賃料収入はプラス寄与している。また、オフィスだけでなく、住宅や物流施設でもテナント入替時もしくは契約更新時に賃料増額を実現できる事例は着実に増加している。

このような点から、既存ポートフォリオの収益悪化懸念は小さいと考え、内部成長面から分配金利回りスプレッドが拡大する要因はないと考える。

■図表9:J-REITの分配金利回りスプレッドと都心5区募集賃料
図表9:J-REITの分配金利回りスプレッドと都心5区募集賃料

 

 

鳥井裕史(とりい ひろし)氏プロフィール
大和総研および大和証券SMBC(現・大和証券)において年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。2010年10月より現職。InstitutionalInvestor誌の「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012〜2019年に1位を獲得。日経ヴェリタス誌「アナリストランキング」REIT部門で2016年〜2019年に1位を獲得。(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

 

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