専門家インタビュー

■第37回
みずほ証券のアナリスト、大畠陽介氏に聞く

コロナ禍におけるREIT投資の魅力

大畠陽介氏フォト

みずほ証券 大畠陽介

新型コロナウイルスの世界的拡散によりREITは急落

2018年以降は上昇基調が続いたREITは、2020年に入り新型コロナウイルスの世界的拡散とそれに端を発した資本市場の混乱によって急落した。新型コロナ問題が世界的な広がりを見せた2月と3月には、REITは株式以上に急落した。

2月から3月にかけてREITが非常に大きな調整を示した背景には、市場全体のリスク許容度の低下に加えて、REITの主要な投資家層の一つである国内の金融機関によるロスカットの売りが集中したという、テクニカルな要因が大きい。

長期的にはREITは株式と同様に、ファンダメンタルズに合わせて株価も動くものの、短期的には需給要因などでミスプライシングが生じうる。


 

■図表:東証REIT指数の推移
図表:東証REIT指数の推移

 

REITの長期的な投資にはNAVを基にしたバリュー投資が有効

REITの投資指標の一つであるNAV倍率は、REITの保有する資産価値に対して、株価がどの水準にあるかを示す指標である。REIT市場がスタートして以来のNAV倍率をみると、全期間では平均してNAVを17パーセント上回っている。不動産を直接所有した場合の価値の目安が1倍であるのに対して、REITのNAV倍率が1を上回っているのは、いくつかの理由が考えられる。

まず、REITは税制により法人税を負担していないため、その分収益性が高い点がある。また、不動産の売買には時間やコストがかかるが、REITは市場で簡単に売買できる。また、REITの保有不動産は専門家によって適切に管理されており、資産価値が高く保てる。

これらによってREITの株価はNAVを上回っている時期が長いものの、局面によっては1倍を下回る割安な水準まで下落することがある。過去を振り返ってみると、リーマンショックに端を発した金融危機後や東日本大震災後は、REITのNAV倍率は1倍を下回った。こういった時期には景気や不動産市況の悪化が懸念されることから、REITの株価は下落しやすい。

ただし、歴史的にみると、REITはNAV倍率が1倍を下回る割安な時期に投資すれば、長期的に大きなリターンにつながっていることも事実である。もちろん、こういった不透明感の大きい時期には配当水準が大きく変動し、それに伴って株価の変動も大きくなるため、投資するタイミングがつかみづらい。しかしながら、長期的な観点では、短期的な不透明感が高まり、リスク許容度が低下しているタイミングは、割安な水準での投資が可能となっていることが分かる。

■表:NAV倍率の推移
表:NAV倍率の推移

 

リーマンショック時との違いは?

新型コロナウイルス問題とそれによる景気後退の大きさは、リーマンショック並みともそれ以上とも昨今言われている。確かに、日本のみならず世界的に今後大幅な景気悪化が見込まれ、不動産市場にもマイナスの影響を及ぼすのは不可避の情勢と言える。08年から09年にかけての金融危機時にはREITは大幅に下落したことから、当時のような大幅な調整余地があるとの見方も散見される。

他方、市場の内容やREITの投資運用の実態を分析すると、金融危機時とは異なる点が多いことが分かる。最も重要な点は、08年から09年にかけての金融危機の本質はバランスシート危機であった。当時は分配金の急落や信用力の低下に苦しんだREITも多かったが、その原因の多くは短期借入金への依存やレバレッジ水準の高さといった資金調達に関する問題であった。

当時の反省や長期化した金融緩和の効果もあり、現在はREITが調達するローンの大半は長期固定金利のローンである。またLTVの水準を比べても、無理にレバレッジをかけて分配金をかさ上げしているようなことも行われていない。新型コロナ問題によって実体経済の悪化が予想され、金融環境もある程度タイト化することが予想されるが、そういった状況でもREITは総じて安定運用が続けられる体制にあると言える。

 

環境悪化時への対抗手段もある

環境悪化に対応する手段の整備も行われた。株価が急落して実態以上に割安になった場合には、自社株買いを行うことができる。自社株買いは金融危機時にはREITには認められていなかった。自社株買いはバランスシートが健全で、運用によってREITがしっかりキャッシュフローを生み出していることが前提となるが、今後は多くのREITが手元資金で割安な自社株を買い入れて消却すると予想される。

公募増資を行い物件を取得することで一口当たりNAVや分配金を引き上げることが、健全な市場環境でのREITの成長手段であるが、資本市場の不調で公募増資ができない時であっても割安な株価で自社株買いを行えば、一口当たりNAVや分配金を引き上げることも可能である。

また、金融危機の後には、REITの間で合併やスポンサーの交代といった再編が進んだ。それらの多くは、資金調達難で運用に行き詰ったREITが体力のあるREITに救済合併される形であった。今回の景気後退局面も、REITは多くの問題に直面することが予想されるものの、仮に非常に困難な状況に陥るREITがあったとしても、再編によって投資主価値が守られるケースも想定される。

 

REITの本質的な特徴や強みに立ち返ることも重要

近年REITは資本市場からの評価を高め、株価は堅調な推移が続いた。この背景には、大規模金融緩和や右肩上がりの不動産市況が続いたことに加えて、各REITによる投資主価値重視の運用が徹底されたことが大きい。投資面では、資本コストへの意識が徹底された結果、一口当たりNAVや分配金を引き下げる外部成長が減少した。また、利益成長など運用パフォーマンスに連動した形への資産運用報酬の改定も多くのREITで行われ、投資家と運用者の利害一致が進んだ。

これらの点は言うは易し行うは難しで、日本の株式市場では投資家重視の市場への転換はなかなか進んでこなかった。REITは株式持ち合いや安定株主によって守られていない分、市場からの評価である株価を引き上げる意識が強く、多くのREITでは株価を高めるために投資主重視の運用が徹底されることにつながった。市場からの高い評価は株価の上昇をもたらし、それによりREITは資金調達による外部成長を行い投資主価値を高める好循環が、近年のREIT市場の好調の大きな背景である。

足元では経済環境の不透明感が高まっているものの、このようなREITの本質的な特徴や強みは消えてなくなるものではない。外部環境の変化は投資主重視の運用が行われている優良REITへ割安に投資できるチャンスを作り出しているとも言え、特に長期投資家にとってはむしろ投資機会が到来したとも言える状況だろう。

 

景気後退によりDPU成長率は鈍化、減少リスクも高まる

新型コロナによる経済活動の停滞で、今後は景気後退局面に入ることが予想される。それに伴い、好調が続いてきた不動産市況もピークアウトし、調整局面に入る公算が高いと考えられる。賃料収入の減少によってREITにも分配金低下圧力が加わることとなるが、その度合いや時間軸は資産のタイプ毎に異なる。

2020年に入り、REITの保有資産タイプごとの株価パフォーマンスに大きな差がみられる。これは、それぞれの資産タイプに対する新型コロナ問題による影響の大きさを投資家がどう見ているかに起因していると考えられる。以下では、それぞれの資産タイプについて、今後のファンダメンタルズの方向性や投資に際してのポイントを整理する。

 

オフィスビル

REITの最大のサブセクターであり、市場全体の動きを大きく左右するオフィスセクターであるが、新型コロナ問題による直接的な影響は限定的で、短期的には賃料収入に大きな変化はないと考えられる。一般的にオフィス賃貸市況は半年から1年程度景気に遅行する傾向があり、景況感の変化から少し遅れて賃料収入に変化が現れる。従って、今回の新型コロナ問題を契機とした景気後退の影響でオフィスREITの賃料収入が減少する場合は、おそらく来年以降になる可能性が高いだろう。

オフィスビルの市況には、空室率と賃料単価という2つの代表的な指標があるが、一般的には空室率が賃料単価より先行して動く傾向がある。仮に来年、オフィスビル市況が悪化する場合には、まず空室率が上昇する可能性が高いだろう。空室率の上昇で需給が軟化すれば、テナント側に移転する選択肢が増えることとなり、オーナーとの賃料交渉の際の交渉力が強まる。こういった経路で、賃料単価には下落圧力がかかることとなる。

また、中長期的な構造的変化として注目されるのは、在宅勤務の広がりである。近年は座席を固定しないフリーアドレスのオフィスや、多数の拠点で柔軟な勤務体制が可能となるシェアオフィスが広がりを見せており、全体的にはオフィス需要は分散化の方向にあると言える。新型コロナ問題によって在宅勤務が急速な拡大をみせており、企業は社員のリモートワークを支える設備投資を積極的に行っている。今後は企業のコスト削減の一環として固定オフィス削減の動きが緩やかに進み、オフィス需要は分散化が進むと考えられる。

一方、“オフィス市況がどの程度悪化するのか”という点は、現時点ではまだ何とも言えない。足元の東京都心の空室率は歴史的な低水準にあり、今後ある程度上昇したとしても、リーマンショック後のような10%近い水準までは上昇しない可能性もある。また東京都心においては、来年以降は供給が減少することもサポート材料である。従って、市況悪化がREITの賃料収入に与えるネガティブな影響も限定的となる可能性もある。

■図表:東京都心5区の空室率と賃料の推移
図表:東京都心5区の空室率と賃料の推移

 

商業施設

商業施設REITは今年に入ってからの下落率が大きいサブセクターである。新型コロナ問題の拡大に伴って人々の行動制限や店舗の休業が広範にわたって行われているが、これが商業施設REITの賃料収入の減少につながると懸念されていることが背景にある。新型コロナ問題によって直接的な影響を受けることから、初期段階で売られたことは自然な流れだろう。

現時点ではどの程度商業施設REITの賃料収入が減少するのか不透明な点も多い。多くのテナントに一律に賃料を繰り延べたり減免するというよりは、個別に交渉して状況に応じて必要な対応をするというケースが多いと予想され、影響が判明するまでには時間がかかるだろう。

悪影響の度合いは都市中心部の商業施設でより大きく、郊外エリアでは相対的に小さいと考えられる。また、足元ではスーパーなど生活必需品を扱う商業施設では売上増加も見られている反面、飲食テナントやスポーツクラブなどのサービス系のテナントでは新型コロナ問題による打撃が非常に大きい。

契約形態についても、REITが実際に営業しているテナントと直接契約を結んでいるケースもあれば、施設全体を丸ごとスポンサーなどにマスターリースし、そこから実際に営業しているテナントへ転貸されているケースもある。マスターリースで固定賃料をREITが受け取っているケースでは、施設全体が新型コロナ問題により休業することとなっても、REITへの賃料は支払われるのが一義的な理解と考えられるが、休業が長期化した場合の扱いには交渉の余地が出てくる可能性もある。

商業施設REITに投資するにあたっては、REITによって保有資産の中身やテナント層の違いから、収益リスクに差異が大きい点をよく考慮した上で投資判断を行うことが当面重要となろう。

 

物流施設

物流施設REITは、今年に入ってREIT市場全体が弱含む中で、非常に堅調に推移している。これは、物流施設市場の構造的な成長が続くことに加えて、新型コロナ問題による恩恵を受ける面もあるとの投資家の見方が背景にあると考えられる。

近年Eコマース(EC)市場の成長が続いていることに伴い、ECの配送拠点となる物流施設への需要も非常に旺盛である。物流施設市場は2000年代に入ってから成長が本格化した比較的歴史の浅いサブセクターであるが、近年は最も早いペースで規模の成長を続けてきたサブセクターである。足元では新型コロナ問題による移動制限によってECの取扱高が急増しており、リアル店舗である商業施設からECへの需要シフトが一層進んでいることを裏付けている。

こういった構造的な背景に支えられて、物流施設市場は当面安定的に推移すると考えられる。しかしながら、今回の新型コロナ問題に端を発した景気後退が非常に深刻なものとなれば、物流施設需要も循環的な景気サイクル悪化の影響を部分的に受ける可能性もあるため、この点は注意していく必要があるだろう。

■図表:東京圏と関西圏の物流施設の需給バランス
図表:東京圏と関西圏の物流施設の需給バランス

 

賃貸住宅

住宅REITも物流施設REITと同様に、今年に入ってからは相対的に堅調な動きを見せている。東京都心での住宅賃料上昇を背景に、近年住宅REITは良好なパフォーマンスを示してきたが、足元の新型コロナ問題からの打撃も相対的に低いとの見方が、良好なパフォーマンスの背景にある。

2016年頃から本格化した東京都心部での住宅賃料の上昇傾向は、若年労働者層の都心流入と低水準の賃貸住宅供給という需給両面の理由がある。住宅REITの主なテナント層である20~30代の単身者やDINKSは、可処分所得の増加や企業の福利厚生拡大を背景に、住宅賃料負担力が高まる傾向にあった。これが住宅REITの賃料上昇の原動力となっており、構造的な社会の変化が背景にあると言える。

今後は新型コロナ問題による景気後退で住宅賃料への悪影響が出る可能性もあり、これまでよりも賃料上昇ペースは鈍化する可能性が高いと考えられる。ただし、住宅は人々が生活していく上で最も基礎的な生活基盤であるため、賃料面での打撃は他の資産タイプのREITと比べると相対的に小さいだろう。

■図表:住宅REIT5社のテナント入替時の賃料単価上昇率の推移
図表:住宅REIT5社のテナント入替時の賃料単価上昇率の推移

 

ホテル

ホテルREITは今年に入り最も下落率が高いが、これは明らかに新型コロナ問題が影響している。インバウンドブームやオリンピック開催などで、多くの企業がホテル開発に進出したこともあり、昨年からホテル市場はやや供給過剰の傾向にあった。また、民泊市場の成長、台風や地震などの自然災害、昨年の日韓関係の悪化による韓国人旅行者減少などの逆風もあった。これらに新型コロナ問題が追い打ちをかけたことで、ホテルREITの株価は急落した。

ホテルREITの賃料収入は、固定賃料とホテルの業績によって変動する変動賃料に分けられる。新型コロナ問題による稼働状況の大幅悪化によって、当面は変動賃料収入を期待することは難しくなっている。むしろ、足元の状況が長期化した場合は、ホテルのオペレーターは固定賃料を支払うことも困難となる可能性があり、賃料減免といった対応が出てくる可能性も高いだろう。ホテルREITのオペレーターの経営動向は全般的に非常に厳しい状況にあるとみられ、オペレーターの信用リスクのコントロールも重要となろう。

短期的に市況が回復する可能性は低いことから、ホテル資産の価値も一定の下落は不可避だろう。保有資産の価値低下によって、ホテルREITのバランスシートにはストレスがかかるため、オペレーターのみならず、REIT自体のクレジットリスクにも注意する必要がある。他方、信用力を補完する目的に合併やスポンサーの交代といった再編が起こる可能性もあり、この点についても頭の片隅に入れてホテルREITへの投資を検討する必要があると考えられる。

 

 

大畠陽介(おおはたようすけ)氏プロフィール
慶応義塾大学商学部卒業後、森ビルに入社し、東京都心のオフィスや高級賃貸住宅市場の調査、六本木ヒルズ再開発などの業務に携わる。その後、ウィスコンシン大学マディソン校経営大学院(不動産専攻)、UBS証券を経て、みずほ証券に入社。2005年以降は一貫してREIT市場の調査に従事し、実物不動産市場、資本市場、海外REIT市場などへの幅広い知見を生かし、独自の視点でREIT市場の分析を行う。

 

 

TOP