専門家インタビュー

■第38回
ニッセイ基礎研究所、岩佐浩人氏に聞く

賃料減免によるJリート分配金への影響は?
一定の前提のもと、▲9%~▲13%減少を想定

岩佐浩人氏フォト

ニッセイ基礎研究所上席研究員
岩佐浩人

賃料減免などを理由に、
17社(占率27%)が分配金見通しを下方修正

新型コロナウィルスの感染拡大は、Jリート市場にも多大な影響を及ぼしている。まず、市場全体の値動きを表す東証REIT指数は2月第4週以降急落し、高値から安値までの下落率は一時▲49%に達した。その後は金融市場の回復にあわせて上昇に転じ、一時の危機を脱した感もあるが、バリュエーション指標の1つであるNAV倍率(株式のPBRに相当)は依然として1倍を下回っており、本格回復には至っていない(図表1)。


 

■図表-1:東証REIT指数の推移
図表-1:東証REIT指数の推移

次に、業績への影響である。施設売上などに連動して受け取る変動賃料の減少や固定賃料の減免などを理由に、7/15時点において、17社(占率27%)が1口当たり分配金(DPU)の見通しを下方修正した(図表2)。この結果、市場全体の分配金水準は足もとでピーク対比▲5%減少し、前年比でもマイナスに転じている。こうした賃料減免などの影響は一過性のものとはいえ、不透明感の漂う賃貸市況を勘案すれば、長らく増益基調にあった分配金水準は、ひとまずピークアウトしたと考えられる(図表3)。

■図表-2:1口当たり分配金(今期・来期)の修正(7月15日時店)
図表-2:1口当たり分配金(今期・来期)の修正(7月15日時店)

■図表-3:市場全体の予想分配金水準の推移(前年比)
図表-3:市場全体の予想分配金水準の推移(前年比)

一方で、テナントからの賃料減免の要請があっても業績への影響は軽微だとして、DPUを下方修正しなかったJリートは既に半数を超える。20年1-3月期の上場企業の最終損益(金融を含む全産業)が1.4兆円の赤字となり、約6割の企業が今期業績を未定としたことに比べても、Jリートの商品特性である業績の安定性や見通しの明瞭性は損なわれていないと言えそうだ。

それでは、今回のコロナ禍によって、市場全体の分配金水準はどれほど減少する可能性があるのだろうか。以下では、変動賃料の減少や賃料減免の影響を試算することで、当面の分配金水準のボトムラインを確認したい。

 

コロナ禍で問われるJリートの社会的責任

試算を行う前に、新型コロナウィルス感染拡大により広がるテナント賃料の減免について整理したい。そもそも、現在のコロナ禍という非常時において、Jリートをはじめとする不動産の賃貸人(オーナー)が賃借人(テナント)からの賃料減免などの申し出に応じないといけない法的義務はない。もちろん、オーナーは今後の対応策などについてテナントと真摯に協議するべきであり、コロナ禍を理由に賃料の滞納が生じた場合、これをもって信頼関係が失われたとして契約を直ちに解除することはできない。また、政府による緊急事態宣言発令に伴う休業要請先は、基本的にテナントに対するものと考えられるが、オーナーサイドの判断で施設の休館などを決定したケースでは、相応の賃料減免はやむを得ないと思われる。しかし、テナントは賃貸借契約に基づいて全額支払うのが原則であり、支払わなければ法的には債務不履行となる。

こうしたなか、Jリートを所管する国土交通省は、「新型コロナウィルス感染症に係る対応について(依頼)」(3/31)において、テナントの賃料支払いについて柔軟な措置の実施を要請。金融庁も、「賃料の支払いに係る事業者等への配慮について(要請)」(5/8)において、賃料支払いが深刻な課題となっているテナントに対して、賃料の減免もしくは猶予に応じるなど、投資者への説明責任を果たしつつ、柔軟な措置の実施を要請している。

Jリートは賃貸借契約に基づいて支払われる賃貸収入を原資として、利益のほぼ全額を分配することで法人税の支払いを免除された上場金融商品であり、「不動産キャッシュフローの分配」という社会的責任を担っている。と同時に、金額にして20兆円を超える不動産を所有し、「人々が安心して快適に暮らせる社会インフラの提供」という社会的責任を担っている。また、街から賑わいが消えてしまい苦境下にあるテナントに対して、賃料の支払い猶予や減免などを通じて支援を行うことは、アフターコロナを見据えた社会の持続的成長への貢献にもつながる。したがって、Jリートが賃貸借契約の原則に反してテナントからの賃料減免などの申し出に応じることは、投資家への分配金が一時的に減少するにしても、社会的責任を全うすることに他ならないと理解できるのではないだろうか。

 

変動賃料の減少や賃料減免が分配金に及ぼすインパクトは?

1|Jリートの収益構造。賃貸事業収入が▲1%減少すると分配金は▲2.4%減少

まず、各社の開示データ(2019年2月期~2020年1月期)をもとに、Jリート全体の収益構造を確認する。図表―4の通り、賃貸事業収入 を「100」とした場合、不動産の管理運営に掛かる費用は「26」であり、不動産が生み出す賃貸事業収益(Net Operating Income、以下NOI)は「74」となる。その後、減価償却費「17」や資産運用報酬等「10」、支払利息「6」などを控除した残りの金額が投資家への分配金原資「41」となる。つまり、賃貸事業収入が▲1%減少した場合、その他の費用が変わらないとすると、NOIは▲1.4%(1÷74%)、分配金原資は▲2.4%(1÷41%)減少することになる。

■図表-4:J-REITの収益構造
図表-4:J-REITの収益構造

この関係をもとに、「全てのテナント」に対して賃料を一定期間免除した場合のNOIや分配金原資への影響を示した(図表―5)。仮に1カ月免除した場合、年間の賃貸事業収入は▲8%(1÷12カ月)、NOIは▲11%(8%×1.4)、分配金原資は▲20%(8%×2.4)減少する。そして、免除期間が5カ月以上に及ぶと費用が収入を上回り、分配金原資はマイナスとなる。

■図表-5:賃貸事業収入の構成比
図表-5:賃貸事業収入の構成比

 

2|賃貸事業収入の構成比。施設売上などに連動して決まる変動賃料の割合は3.1%

次に、賃貸事業収入における変動賃料の割合と固定賃料のセクター別構成比を確認する。各社の開示データをもとに推計すると、施設売上などに連動して決まる変動賃料の割合は3%(うちホテル2.5%、商業施設0.6%)、固定賃料(97%)はオフィスビル38%、物流施設16%、商業施設15%、住宅15%、ホテル7%、底地など4%となっている(図表-6)。

■図表-6:賃貸事業収入の構成比
図表-6:賃貸事業収入の構成比

 

3|コロナ禍の影響は、ホテル>商業施設>オフィス>住宅>物流施設の順に大きい

続いて、コロナ禍による不動産市場への影響を簡単に述べたい。まず、最も甚大な影響を受けたセクターはホテルである。3月以降、外出自粛や国内外で人の移動が制限されるなか、観光やビジネス、インバウンドの宿泊需要は大きく落ち込んだ。ホテル特化型リートであるジャパン・ホテル・リート投資法人によると、保有20ホテル(変動賃料等導入)の経営指標は月を追って悪化し、5月の稼働率は8.5%、客室単価(ADR)は前年比▲37.8%、RevPAR(稼働率×ADR)は前年比▲94.0%となった(図表-7)。現在も回復の足取りは重く、6月のRevPARは前年比▲90%程度減少する見込みである。

■図表-7:ホテルの運営状況(稼働率、ADR、RevPAR)
図表-7:ホテルの運営状況(稼働率、ADR、RevPAR)

また、商業施設の被害も大きい。生活必需品を取り扱う店舗の売上は底堅いものの、飲食やサービス系店舗、繁華性の高いエリアに立地する店舗などではソーシャル・ディスタンスの確保が求められ、今後も厳しい環境が予想される。一方で、オフィスや賃貸住宅、物流施設は、今のところ影響は限定的である。ただし、オフィスではビル内にある来店型店舗や飲食店舗など、オフィスワーカーの出社制限などで売上の減少したテナントが一定程度生じている模様だ。

 

4|一定の前提条件のもと、Jリート分配金への影響を試算する

それでは最後に、変動賃料の減少や賃料減免による分配金への影響を確認する。実際には、新型コロナウィルス感染拡大による店舗売上への影響は未だ全容が見えない。また、Jリートとテナントとの交渉もこれからであり、テナント属性(業態・財務・信用力など)も様々である。

日経不動産マーケット情報(2020年7月号)によると、賃料減額の要請は、「店舗により異なるが、平均すると3ケ月間、20%の減額」(全国チェーン飲食店)、「商業施設で6割、ホテルでほぼ全てのテナントから減額要請がある。オフィスはごく一部に限られ、住宅や物流施設はない」(綜合型REIT)、「最終的に減額に応じるケースは10%~20%程度、減額期間は2カ月~3カ月」(不動産仲介会社)と報じている。

これらの情報を参考として、賃料減免などで分配金がどれほど減少する可能性があるか、一定の前提条件のもと、試算したい。図表―8は、Jリートの収益構造と収入構成比をもとに、賃料免除による賃貸事業収入の減少率をマトリックス表(横軸:セクター別構成比、縦軸:免除期間)で示している。

■図表-8:賃料減免による賃貸事業収入と分配金の減少率
図表-8:賃料減免による賃貸事業収入と分配金の減少率

例えば、ケース①『変動賃料なし、ホテル(期間4カ月)、商業施設(期間3カ月)、オフィス(期間1カ月)を全テナント・全額免除』では、『賃貸事業収入は▲13%、分配金は▲30%』となる。しかし、全テナント(ホテル・商業・オフィス)に対して賃料を全額免除する前提は、やや現実的ではないと思われる。

次に、ケース②『変動賃料なし、ホテル(期間4カ月・対象4割)、商業施設(期間3カ月・対象3割)、オフィス(期間1カ月・対象1割)を全額免除』では、『賃貸事業収入は▲6%、分配金は▲13%』となる。また、ケース③『変動賃料なし、ホテル(期間4カ月・対象4割・減額率▲40%)、商業施設(期間3カ月・対象3割・減額率▲30%)、オフィス(期間1カ月・対象1割・減額率▲10%)』では、『賃貸事業収入は▲4%、分配金は▲9%』となる。

このように、「ケース②」や「ケース③」といった、節度ある賃料減免であれば、Jリート全体の分配金減少率は「▲9%~▲13%」にとどまる。さらに、年間分配金の6倍以上に相当する保有不動産の含み益(約3.7兆円)などを活用すれば、分配金への影響を許容範囲内に収めることができそうだ。

 

より本質的な課題。景気悪化や人々の行動変容の影響に留意

本稿では、ある程度の賃料減免であれば、分配金減少率が許容範囲内に収まることを確認した。ただし、より本質的な課題として次の2点に留意したい。1つは、「景気悪化」の影響である。景気悪化は全ての不動産セクターにとって天敵であり、前回の金融危機時を超える景気悪化が見込まれるなか、相応のダメージは不可避だと思われる。

2つ目は、「人々の行動変容」の影響である。デジタル化の加速やソーシャル・ディスタンスの確保など、アフターコロナにおける新たな生活様式は、中長期的に人々の不動産ニーズを変えて、賃貸市場に大きな地殻変動をもたらす可能性がある。今後のJリートの業績を考えるうえで、これらの影響を慎重に見極める必要がありそうだ。

 

 

岩佐浩人(ニッセイ基礎研究所上席研究員)氏プロフィール
1993年大阪大学経済学部卒、日本生命保険入社。2005年にニッセイ基礎研究所へ。19年4月より現職。Jリート市場を中心に不動産投資市場の分析を担当。不動産証券化協会「不動産証券化マスター資格制度委員」。著書(共書)に「不動産ビジネスはますます面白くなる」、「不動産力を磨く」

 

 

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