専門家インタビュー

■第39回
大和証券株式会社 エクイティ調査部次長 大村恒平氏に聞く

2020年のJ-REIT市場と2021年の今後のポイント

目次
・2020年の需給環境
・P/NAV倍率は概ね1倍に収斂へ
・日本株と連動が高まるJ-REIT
・日銀「点検」結果及び2021年度見通し
・都心5区オフィス空室率が「5.0%」超に
・オフィス型REIT代表格から見るオフィス市況
・ESGの「E(環境)」に焦点が当たる一年に

 

岩佐浩人氏フォト

大和証券株式会社
エクイティ調査部次長 大村恒平

2021年2月末の東証REIT指数(以下、同指数)は、1,929.15ptとなり、2019年12月末(2,145.49pt)との比較で▲10.1%下落、配当込みのトータルリターンでは▲6.2%下落した。2021年2月末時点のJ-REIT市場全体の時価総額は14兆3,671億円となり、2019年12月末時点の15兆1,698億円との比較で▲5.3%減少した。

同期間のTOPIXは+8.3%上昇、配当込みのトータルリターンで+11.0%上昇となり、同指数はTOPIXをそれぞれ▲18.4pt、▲17.2ptアンダーパフォームとなった。

2020年の同指数は、2月下旬頃からの新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大に伴う経済活動の停滞懸念に加え、3月には決算期末を控えた国内金融機関等の損切りの動きも集中しTOPIX以上に下落。4月以降は低金利環境下における“イールドハンティング”ニーズに加え、P/NAV倍率に着目した割安性から選好され堅調に推移した。しかし、3月の大幅下落分を回復するまでには至らず、株式市場の堅調さも相まってTOPIX対比でアンダーパフォームとなったと言えよう。


 

■図表1:2020年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移(2019年12月末=100)
図表-1:2020年の東証REIT指数、TOPIX、東証不動産業指数の推移

各サブセクターのパフォーマンスに目を向けると、「物流型>住宅型>商業型>オフィス型>総合・複合型>ホテル型」の順となった。2020年3月の大幅下落以降は、コロナ禍において相対的にキャッシュフローの毀損懸念が小さいセクターを中心に選好され、年後半にかけてはP/NAV倍率の観点から割安なセクターを中心に選好されたと考える。

以下では、各サブセクターについて言及したい。

セクターパフォーマンスでトップとなった「物流型」は、2019年12月末との比較で+31.4%アウトパフォーム。もともと物流施設は、テナントと長期契約を結ぶことが一般的であるため賃料収入の安定性は認識されていたが、コロナ禍において“接触型”から“非接触型”への社会構造の変化から物流施設に対する需要がより一層高まったことで、ファンダメンタルズへの期待も高まった結果だと考える。2020年4月から夏場までは堅調な推移を見せていたものの、それ以降はP/NAV倍率でも高位の状況となり、割安性が薄れたことから横ばい推移となった。近年はEコマース(EC)市場の進展に伴い急成長しているセクターでもあり、引き続き安定推移すると考えられる。

「オフィス型」については、2019年末との比較で▲10.9%アンダーパフォームした。2019年まで堅調なオフィス市況が継続していたものの、コロナ感染拡大を契機とした景気後退の影響でオフィス市況(「空室率」と「賃料単価」)の悪化が懸念され、軟調なパフォーマンスとなったと考える。2020年10月以降、経済正常化への所謂“ワクチン期待”から持ち直した。また、コロナ影響によりテレワークが急速に広がったことも軟調なパフォーマンスだったと言えよう。某情報通信系の大手企業が「オフィス面積を半減させる」等の報道もあり、「働き方改革」とも併せた中長期的な構造変化としてオフィス需要への不透明感が色濃く出た年であった。三鬼商事によれば、足元の2021年2月のオフィス都心空室率は5%を突破。市場では指標面の悪化を一定程度織り込んでいると考えるものの、これが“どこまで続くのか”によって「オフィス型」のパフォーマンスに影響を及ぼすだろう。引き続き気を抜けない展開になりそうだ。

「商業型」は、2019年末対比で▲5.7%のアンダーパフォーム。コロナ感染拡大によって、人々の行動制限や店舗休業が相次いだことによる賃料収入の減少からパフォーマンスは軟調となったと考える。J-REITにおける商業施設の契約形態は固定賃料であることが多いものの、国土交通省からの要請もあり固定賃料の減免が相次いだ。8月以降は、「最悪期は脱した」との認識から堅調に推移し、年末にかけても“ワクチン期待”に加えて、P/NAV倍率の割安性から選好されたものと考えられる。一方、「商業型」のサブセクター内においても都心中心部に物件を保有する「都心型」REITと比較的郊外に商業施設を多く保有する「郊外型」REITでパフォーマンスに差があったと言える。生活必需品を扱う郊外のスーパー等では、むしろ売上増加も見られ、「郊外型」商業施設への“ディフェンシブ性”が確認出来たと言えよう。

「ホテル型」については、2019年末比で▲19.9%とセクターパフォーマンスは最も悪かった。「ホテル型」REITの賃料収入は固定賃料とホテル業績によって変動する変動賃料に分かれるが、コロナを契機とした国内での移動制限、外国人の入国制限に伴うインバウンドの減少から稼働率は大幅に低下、変動賃料収入のみならず、固定賃料の減免といった対応により収益が悪化したことが背景であろう。ホテルオペレーターの倒産も見受けられ、オペレーター側の信用リスクを問われる局面もあった。2020年10月以降は、「オフィス型」、「商業型」と同様、“ワクチン期待”から選好されたと言えよう。足元、アフターコロナを見据えたホテル業績の回復から堅調に推移していると思われるが、当面はホテル市況の動向には注視する必要があろう。

■図表2:各サブセクターの2020年のパフォーマンス推移(2019年12月末=100)
図表2:各サブセクターの2020年のパフォーマンス推移(2019年12月末=100)

 

2020年の需給環境

2020年のJ-REIT市場を取り巻く需給構造について、以下の点が特徴として挙げられ、コロナ禍において比較的需給環境は良好であったと考える。
①金融機関は、3月、9月の決算期末(半期決算含む)において、ポジション調整による売り越しが見られたものの、低金利環境下においてJ-REITへのニーズは確認された。
②海外投資家は、リスクオン局面において株式市場への資金シフトがあったものの、P/NAV倍率の観点から割安性に着目し買い越し姿勢であった。
③個人のJ-REIT特化型投信への資金流入の動きは2019年を上回り、J-REITに対するインカムゲインニーズは強い。また、大幅な調整局面では“押し目買い”の傾向も見られた。
以下では、それぞれの投資主体の動向について述べる。

 

<銀行(除く日銀)>

2020年の銀行は累計で1,169億円の売り越し(日銀含むベースでは22億円の売り越し)であり、売り越し主体であった。特に3月、9月は大幅に売り越し(累計:1,355億円)ており、決算期末(半期決算含む)を見据えたポジション調整を目的とした売りがあったものと推察される。特に、3月は急ピッチで調整する局面においてロスカットによる売却の動きがあっただろう。一方、地方銀行をはじめとした地域金融機関はREIT-ETFを通じてJ-REITに投資する傾向があり、2020年における東証REIT指数等をベンチマークとするREIT-ETF16本の純資金流入額は約1,918億円であり、旺盛な需要は確認できる。足元、長期金利がゼロ付近で低位推移している環境下、絶対値利回りを確保できる本邦金融商品たるJ-REITに対し“イールドハンティング”を目的とした買い主体として今後も期待されよう。

 

<生保・損保>

2020年の生保・損保は、累計39億円の買い越しであった。2019年(累計952億円の買い越し)と比較し目立った投資主体ではなかったものの、世界的な低金利環境下においては、債券運用の長期デュレーションプレーヤーにとってJ-REITの利回りは魅力的に映ろう。今後も同投資主体の動向には注目したい。

 

<海外投資家>

海外投資家は、2020年で累計409億円の買い越しであった。2020年においては、株式対比、J-REIT内のセクター対比での割安性に着目し選好していたものと推察される。特に2020年3月や8月、9月は大幅に買い越しており、「商業型」や「ホテル型」の夏場のリバーサルに鑑みれば、P/NAV倍率の観点でバリュー銘柄を中心としてJ-REITへの資金流入があったものと考える。一方、5月や6月、11月は大幅に売り越しており、リスクオン局面でグローバルに株式市場へ資金流入が大きくなる局面では選好され難かったと言えよう。特に、5月及び6月の累計売り越し額は1,125億円であった。

 

<投信・個人>

投資信託協会のデータによれば、主に個人投資家向けの公募型J-REIT特化型投信(除く、J-REIT-ETF)への資金流入超過額は2020年の累計で約2,674億円に上ったと推察しており、2019年の約1,646億円の資金流入超過額を上回った。東証による投資部門別売買状況では、投資信託は2020年で累計529億円の買い越しであった。世界的な低金利環境でのインカムゲイン商品という位置付けに加えて、安定的な分配金を確保できるという認識から注目されたものと考える。個人は、2020年で累計1,210億円の売り越しであった。個人投資家は、基本的にJ-REITによるエクイティファイナンス実施時に配分されたものを取引所経由で売却する売り主体と考えられる一方、2020年3月には2年8ヶ月ぶりに477億円買い越しており、相場が大きく調整した局面においては“押し目”を企図した買い主体となり得るものと考える。

 

■図表3:投資部門別売買動向(単位:10億円)
図表3:投資部門別売買動向(単位:10億円)

 

■図表4:J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)
図表4:J-REIT特化型投信への純資金流出入状況(単位:億円)

 

P/NAV倍率は概ね1倍に収斂へ

2020年3月のコロナショックによって、J-REIT市場も大きく調整した状況であった一方で、「P/NAV倍率(単に「NAV倍率」とも言う)」という投資指標が有効に働いていたものと考えている。P/NAV倍率とは、投資口価格を一口当たりNAVで除したものである。元来、J-REITは利回り商品としての位置づけが色濃く、一口当たり分配金をもとに算定する「分配金利回り」で割安もしくは割高といった投資判断をする傾向が強い。一方で、コロナ影響に伴い、分配金の原資となるテナントからの賃貸収入見通しに不透明感が漂ったことで、「分配金利回り」よりも「P/NAV倍率」という指標に重きが置かれたものと考える。図表5は、2020年7月末、2020年12月末及び2021年3月12日各時点における各サブセクターのP/NAV倍率レンジの変遷である。各サブセクター内ではP/NAV倍率に高低は存在するものの、大局的に見れば、P/NAV倍率は概ね1倍に収斂するように見受けられる。かつてリーマンショック時もそうであったように、所謂「有事」と指摘される環境では、各REITが保有する不動産価値に着目したNAV(Net Asset Value)を投資判断の拠り所とする傾向が強い。一般的な株式で言えば、PBR(株価純資産倍率)に近しい考え方である。既に、資本市場ではコロナ収束後の回復ストーリーを織り込み始めていると言われる。J-REIT市場におけるP/NAV倍率が概ね1倍に収斂しているのは、まさに「有事」から「平時」への本格移行を意味しているものとも考えられる。

 

■図表5:各サブセクターのP/NAV倍率レンジの変遷
図表5:各サブセクターのP/NAV倍率レンジの変遷

 

日本株と連動が高まるJ-REIT

図表6は日経平均株価を東証REIT指数で除したものである。ここでは「NR倍率」と呼称したい。アベノミクスが本格化した2012年末以降、NR倍率の期間平均値は11.1倍となっている。足元のNR倍率15.3倍というのは、日経平均株価が東証REIT指数対比で大きく先行しているとも解釈できる。とりわけ2020年末以降、その先行度合いが急速に増したこともあり、東証REIT指数は2021年に入り一時「2,000pt」を付ける場面があったものと考える。勿論、NR倍率は、日経平均株価をTOPIXで除したNT倍率とは違い、比較する両指数の裏付け銘柄は異なるため違和感が生じることは事実だろう。一方で、図表7の東証REIT指数と日経平均株価、そして日経平均株価への寄与度が高い日本株との相関状況を見ると、2021年は日経平均株価だけでなく、日経平均株価に対する寄与度の高い日本株との相関が非常に高位となっている。J-REIT市場全体を表す東証REIT指数は、日経平均株価をはじめとした日本株を意識して推移しているとも言えよう。上記の仮説が当てはまるとすれば、短期的には東証REIT指数は不動産市況よりも株式市場の動向に左右されるリスクは内包するものと考えられ留意すべきと考える。

 

■図表6:日経平均株価を東証REIT指数で除した「NR倍率」の推移
図表6:日経平均株価を東証REIT指数で除した「NR倍率」の推移

 

■図表7:東証REIT指数及び日経平均株価(寄与度が高い日本株含む)との相関状況
図表7:東証REIT指数及び日経平均株価(寄与度が高い日本株含む)との相関状況

 

日銀「点検」結果及び2021年度見通し

2021年3月19日、日銀はより効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検(以下、単に「点検」と言う)を実施し当該結果を公表した。本点検によって、J-REITを年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う方針を撤廃。但し、年間増加ペースの上限約1,800億円については、感染症収束後も継続し必要に応じて買入れを行う方針は変わらないものとした。まず、結論から言えば、本点検によるJ-REITへの影響は軽微と考えられる。それは、年間増加ペースの上限そのものは変更されておらず、市場が大きく不安定化した場合に大規模な買入れを実施できる手段は、引き続き日銀が持ち合わせていると考えられるためだ。実際に、2020年3月16日の「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」において、年間約1,800億円の上限が新たに盛り込まれた形となったが、2020年を振り返ると、J-REITを年間1,147億円買入れており、買入幅は大きかったものの、上限まで買入を実施することはなかった。日銀は、市場が大きく不安定化した場合、すなわち大きく下落した場合にJ-REITを買入れることが引き続き期待される。かかる状況下、2021年度見通しとして、J-REIT市場の代表的指標となる東証REIT指数は「2,100pt」を目指す可能性はあるだろう。「2,100pt」は同分配金利回りで3.4%に相当する。図表8は、東証REIT指数及び加重平均分配金ラインの推移であるが、一般的に、同分配金利回り4.0%(赤線)は有事と平時の判断ポイントと言われる。2020年は、コロナ影響により同分配金利回り4.0%を大きく上回る水準となった一方、2021年に入ってからは、同分配金利回り4.0%を下回る水準で推移している。足元、コロナ禍ではあるものの、ワクチン普及等によりJ-REIT市場は有事モードから平時モードに移行している状況と解釈できる。短期的には、同分配金利回り3.5%に相当する「2,000pt」が大きな節目になるものと考えられる。他方、新年度入りする2021年4月からは、国内金融機関を中心にJ-REITを選好する流れが出るものと考えられ、全般的に安定的な分配金見通しの下、「2,100pt」を目指す可能性もあると考える。

 

■図表8:東証REIT指数及び加重平均分配金ラインの推移
図表8:東証REIT指数及び加重平均分配金ラインの推移

 

都心5区オフィス空室率が「5.0%」超に

三鬼商事によれば、2021年2月時点の東京ビジネス地区(都心5区)オフィス平均空室率は5.24%となった。一般的に、空室率が「5.0%」を上回ると、オーナー(賃貸人)側及びテナント(賃借人)側とのパワーバランスが逆転すると言われる。オーナーは、テナントに対し契約更新時に増額賃料を求め難くなったり、仮にテナントが退去した場合、リーシング(埋め戻し)までに時間を要したりする分水嶺と考えられるためだ。図表9は、都心5区オフィス空室率の増減要因(年末ベース)を纏めたものである。2019年末の空室率1.55%及び20年末の空室率4.49%(前年比+2.94%pt)との増減要因を見ると、供給要因により空室率を+2.61%pt押し上げたことに加え、需要要因でも空室率を+0.33%pt押し上げていると試算された。2020年はオフィスの新規供給が大量になされたことに鑑みれば、供給要因で空室率を押し上げることに違和感はないだろう。一方で、需要要因でも空室率を押し上げてしまった背景には、新規供給が大量になされたことに伴う二次空室が一定程度発生したことに加え、テナント退去がテナント入居に先行したことがあったものと考える。先にも触れたように、2019年末の空室率は1.55%と歴史的に低位だったが、これはテナント退去が全く存在しなかったわけではなく、一定程度のテナント退去があったものの、その退去区画に入居を希望するテナントが存在していたことに他ならない。他方で、2020年末にかけてのテナント退去の先行から何が言えるのかといえば、①コロナ影響による業績悪化等による退去、②コロナ影響によるテレワーク推進等に伴う賃借床の返却(これも退去と同義)、③コロナ影響を見定めるため新規入居を様子見、等が挙げられる。2021年はワクチンが普及等することで、①のコロナ影響によるネガティブな退去が減少することに加え、③の様子見姿勢だった新規入居が動き出す可能性が高いと見込まれる。一方で、②のテレワーク推進等は、コロナ影響を契機としてビジネスパーソンへの浸透が加速したことは否めない。そこで、2021年は空室率の上昇そのものではなく上昇ピッチに注目したい。仮に空室率の上昇ピッチが鈍化してくれば、(空室率を上昇に導くような)需要の後退要因を(空室率を下落に導くような)需要の先行要因が上回ってきている証左になると考えるためだ。2021年後半に向け、空室率の上昇ピッチは徐々に鈍化することで、空室率の上昇トレンドは良化していくことが期待される。

 

■図表9:都心5区オフィス空室率の増減要因
図表9:都心5区オフィス空室率の増減要因

 

オフィス型REIT代表格から見るオフィス市況

ここでは、「オフィス型」REITの代表格である日本ビルファンド(8951、以下「NBF」)からオフィス市況を見てみたい。図表10は、NBFの入居率、退去率及び期中平均稼働率の推移である。2021年2月16日時点で、NBFは21年6月期及び同12月期に其々▲3.4%の退去率を見込む一方で、相応の入居率を想定することにより期中平均稼働率は其々97.5%の維持を見込んでいる。先述の三鬼商事によるオフィス空室率が上昇に転じている中でも、NBFは相応の入居率(埋め戻し)を見込んでいるわけだ。NBFの場合、2021年6月期及び同12月期で見込む退去率のうち大宗が大口テナント退去によるものであり、その事情が少し特殊ではあるものの、コロナ収束が進むにつれ、コロナ影響を見定めるため新規入居を様子見していたテナントが動き出す可能性は十分に考えられる。テレワーク等の浸透に伴うオフィス需要の変化が見込まれる中で、NBFをはじめとした「オフィス型」REITの(広義の)稼働率が2021年後半に向けボトミングアウト(底打ち)できるか注目だろう。他方で、オフィス稼働率を上昇させることを優先するために、賃貸条件の緩和等を行っているかにも気をつけたい。三鬼商事の空室率を見れば、オーナー側及びテナント側とのパワーバランスが逆転する可能性もある中で、フリーレント等の長期化により名目ベースでは賃料水準は下がらなくとも実質ベースでは賃料水準が下がる場合もあるためだ。J-REITがテナントからの賃料収入を原資として分配金を創出する以上、そうした賃貸条件の緩和等にも目を向ける必要があると考える。

■図表10:日本ビルファンド(8951)の入居率、退去率及び期中平均稼働率の推移
図表10:日本ビルファンド(8951)の入居率、退去率及び期中平均稼働率の推移

 

ESGの「E(環境)」に焦点が当たる一年に

近年、資本市場全体としてESG(環境・社会・ガバナンス)が主要テーマとなりつつある。J-REITにおいてもその例外ではなく、各REITもESGへの取組みをアピールするようになってきた。そもそもESGへの取組みはSDGsを達成するための手段と考えられ、先述の通り、J-REIT市場が「有事」から「平時」に本格移行する中で、ESGに対する具体的なアクションがより一層求められるものと考える。その中でも、2021年はESGの「E(環境)」に焦点が当たる一年と捉えている。周知の通り、世界的にも「脱炭素」に向けた流れが加速する中で、とりわけ温室効果ガス(GHG)削減に向けた取組みは、ESGの中で最も定量化し易く、且つ、グローバルでの喫緊の共通課題であるが故に、J-REITを含めた企業ごとのGHG削減に向けた具体的なアクションを示せるか否かが「G(ガバナンス)」にも直結するものと考えている。図表11の通り、既に多くのJ-REITでGHG削減に向けた具体的な目標を示している。議論は未だ流動的ではあるものの、仮に「カーボンプライシング」導入等に向けた検討が本格化すれば、GHG排出量が将来的な潜在資本コストとして認識される可能性は高いと考える。すなわち、投資主(株主)価値向上を謳い短期的なリターンのみを追求するのではなく、限りある環境資源を念頭に置き、将来的な潜在資本コストを考慮した長期的なリターン追求のあり方が求められる。一方で、こうした議論を展開すると、ある種の慈善事業として捉えられるリスクもあるが、今や世界的な大手機関投資家もESGに着目した投資を進めているのが実状だ。ESG投資においては、未だ発展途上の段階ではあるものの、基本的には投資を行う際のスクリーニングとして活用される可能性が高いと考える。大手機関投資家は巨額の投資資金を有していることからも、スクリーニングを経て投資対象として認識されることがひいては投資口価格(株価)の動向にも影響を与えると言える。物件を取得するため頻繁に公募増資等による資金調達需要が高いJ-REITにとって、やはり無視できない事象と考えられる。実際に、2021年1月に公募増資を決議した日本プロロジスリート(3283)は、「グリーンエクイティ・オファリング」にて資金調達を行った。第三者評価機関であるDNV GL社からのセカンドパーティ・オピニオンに基づき、ESGエクイティの取込みに本格着手したものと解釈できる。他方、ジャパンリアルエステイト(8952)は、2021年1月に大手機関投資家である農林中央金庫から「サステナビリティ・リンク・ローン」による借入れを実施している。このように、「E(環境)」の取組みがエクイティだけでなく、借入れ(デット)での資金調達にも影響を与え始めている。

■図表11:温室効果ガス(GHG)削減に係る目標(KPI)の一覧

証券
コード
投資法人 目標(KPI)
3296 日本リート ・短期的には、ポートフォリオ全体および個別物件において、毎年1%の原単位の低減
・中長期的には、ポートフォリオ全体および個別物件において、2021年~2025年の5年間で5%の原単位の低減
3298 インベスコ・オフィス・ジェイリート ・長期的には、10%若しくは年間で約1%削減
3309 積水ハウス・リート ・ポートフォリオのCO2排出原単位について、今後5年間で5%以上削減
・中期目標として、ポートフォリオのCO2排出原単位について2030年までに2018年対比で20%削減
3451 トーセイ・リート ・短期目標 1年で1%の原単位削減
・長期目標 5年で5%の原単位削減
3453 ケネディクス商業リート ・年平均1%(5年間)の削減
3462 野村不動産マスターファンド ・ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)における床面積あたり排出量(原単位)を2030年度までに40%削減(2016年度基準)
3466 ラサールロジポート ・CO2排出原単位について、5年間で5%削減
3492 タカラレーベン不動産 ・ポートフォリオにおけるCO2排出量原単位につき、中長期的に年平均1%削減
3493 伊藤忠アドバンス・ロジスティクス ・短期目標 毎年度原単位ベース1%削減
・長期目標 5年間(2019年度~2023年度)原単位ベース5%削減
8951 日本ビルファンド ・2013年-2030年 エネルギー由来CO2排出量削減量(原単位)40%以上
8952 ジャパンリアルエステイト ・ポートフォリオのCO2排出量(原単位)を2030年度までに35%削減(2013年度基準)
・2030年度までにCO2原単位60kg/㎡以下
8953 日本リテールファンド ・ポートフォリオ全体で、2015年対比で23%削減(原単位ベース)(目標年:2030年)
8954 オリックス不動産 ・2030年に本投資法人が管理権限を有する部分を対象に、CO2排出量原単位を2018年比12%削減
8955 日本プライムリアルティ ・ポートフォリオ全体の消費原単位およびCO2排出原単位について、2017年からの5年間で5%以上削減
8956 プレミア ・短期目標:ポートフォリオ全体及び個別物件において、毎年1%の原単位の低減
・中長期目標:ポートフォリオ全体及び個別物件において、5年間で5%の原単位の低減
8957 東急リアル・エステート ・温室効果ガス排出量原単位の前年比1%削減
8958 グローバル・ワン不動産 ・短期目標 年平均△1.0%削減
・中長期目標 5年合計△5%削減
8960 ユナイテッド・アーバン ・「エネルギー原単位」を、5年間平均で年1%削減
8961 森トラスト総合リート ・短期 中長期目標の対象期間を通じて原単位で年平均1%削減
・中長期(2016年から5年間)原単位ベースライン比で5%削減
8963 インヴィンシブル ・補正後スコープ1+2については2024年度までに2019年度から5%の排出原単位の低減
・補正後スコープ3及び補正後スコープ1+2+3の合計値については2024年度までに2019年度から1%の排出原単位の低減
8964 フロンティア不動産 ・ポートフォリオ全体につき、毎年その年から5年間の期間において、年平均1%のCO2排出原単位の削減
8966 平和不動産リート ・省エネルギー法に基づく届出対象物件全体のGHG排出量を増加させない
8967 日本ロジスティクスファンド ・ポートフォリオ全体において、直近5年間において、年平均1%以上のGHG排出量原単位の低減
8972 ケネディクス・オフィス ・ポートフォリオ全体において、直近5年間において、年平均1%以上の法準拠エネルギー消費原単位の低減
8977 阪急阪神リート ・5年間に5%の削減(原単位)
8984 大和ハウスリート ・年間目標 CO2排出量原単位を1%削減
・長期目標(2018年~2027年までの10年間) CO2排出量原単位を10%削減
8985 ジャパン・ホテル・リート ・中長期目標として、エネルギー由来CO2排出量原単位について5年間で年平均1%以上低減
8986 大和証券リビング ・年1%(5年間で5%)のエネルギー起源CO2排出原単位の低減
8987 ジャパンエクセレント ・各年度において前年度比1%、中長期的には2015年度から2019年度の原単位平均比で2020年度から2024年度の原単位平均を5%以上減少

注1:証券コード順で記載
注2:目標(KPI)は、2021年2月末時点の各投資法人ウェブサイト上の開示項目を基に記載
注3:直近公募増資等を発表した銘柄を除く
出所:各投資法人ウェブサイト等より大和証券作成

 

 

大村恒平(おおむら・こうへい)氏プロフィール
大和証券株式会社 エクイティ調査部次長 シニアアナリスト J-REIT担当
大和証券SMBC(現・大和証券)において機関投資家営業などに従事した後、
2013年からは投資銀行部門にてREITの引受業務に従事。不動産証券化協会認定マスター

 

 

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