第4回

三菱商事・ユービーエス・リアルティに聞く
中長期の投資主価値向上を目指して自分たちのミッションとしてESG課題に取り組む

J-REITによるESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)への取り組みが活発化している。ステークホルダーのグローバル化が進み、ESGがJ-REITの評価指標としてしっかり浸透したからだ。「日本リテールファンド投資法人」(JRF:8953)、「産業ファンド投資法人」(IIF:3249)、「MCUBS MidCity投資法人」(MMI:3227)の3つのJ-REITを運用している三菱商事・ユービーエス・リアルティは先進的な取り組みを進めている資産運用会社のひとつだ。同社コーポレート本部企画調査・ESG推進部ESG推進担当部長の庄司愛氏に、同社の取り組みの特徴などを聞いた。

――2020年2月に、運用する3銘柄のJ-REIT合同でESG説明会を開催しました。開催の背景やグループとしてのESGの位置づけを教えてください

庄司 愛氏フォト

三菱商事・ユービーエス・
リアルティ株式会社
企画調査・ESG推進部
ESG推進担当部長

庄司 愛

庄司氏機関投資家やアナリストなどを対象にした、ESGに特化した説明会の開催はJ-REITで初めてだったと思います。ちょうど2号目となるESGレポートの発行直後でもあり、とくに新しい投資家からの問い合わせが増えていました。一方で、日々のIRや決算説明会はどうしても足元の数字や予想の解説が中心になります。ESGの取組みに触れる時間が短くて説明不足だったという反省もあったので開催してみようと。おかげさまで、決算説明会を上回るほどの方々に出席いただき、ほとんどがポジティブな反響でした。

ESGに取り組む理由は明確で、私たちのミッションの実現のために不可欠であると確信しているからです。3銘柄合わせた資産規模は約1兆4400億円(*)、テナント数は約1500に上ります。そこには多くのステークホルダーがいらっしゃるわけで、当然のことながら社会的責任は重いですし、私たちにはその責任を果たす義務があります。(*)2020年1月末現在

資産運用会社として最大の目的は投資主価値の向上であり、それを目指しながらグローバルな課題解決に貢献していくことです。それをサステナビリティポリシーとして明記、戦略・方針として「環境憲章」と「責任不動産投資に係る基本方針」を制定しています。さらに、「環境負荷の低減」「社会的価値の創造・従業員の健康と快適性向上・地域社会への貢献」「すべてのステークホルダーのための健全な運営」の3つを大きな目標として掲げています。

重要なことは、いわば“美辞麗句”と理解されがちなこうした言葉を、きちんとブレイクダウンしていくことです。私たちはサステナビリティ課題に優先順位をつけて、経営層の議論などを経たうえで、最重要マテリアリティ及び重要マテリアリティを抽出します。これらのマテリアリティに関して、リスクと機会を分析しながら目標とKPIを設定して執行しています。これらはすべて、ESGレポートはもちろん、当社ウェブサイト上で閲覧することが可能になっています。

2020年1月には、当社のサステナビリティに関する方針・戦略の立案等を行うサステナビリティ委員会の委員長に、最高サステナビリティ責任者として当社代表取締役副社長の鈴木直樹が就任しました。グローバルのESG評価にあたっては、サステナビリティ責任者を主要ボードメンバーが務めているかどうかが非常に重視されます。鈴木の就任はESG活動の執行体制をより強固にしつつ、私たちの本気度を内外に明示する形になったと思います。

――社会的責任を果たすためのESG活動ということですね。具体的な取り組みと特徴を教えてください。

庄司氏Eの環境面では、大きく2つのトピックがあります。ひとつは環境認証の取得、もうひとつはグリーンボンドの発行です。

環境認証の取得状況をポートフォリオにおける延床面積の割合で見ると、JRFが約8割、IIFとMMIが約4割です。J-REITのなかでは高い割合といえるのではないでしょうか。当社のスポンサーはデベロッパーではないので物件取得先は多岐にわたり、新築物件はほとんどありません。取得後に環境性能を高めて認証取得を目指すことが多く、相対的に手間がかかります。

フォト:Gスクエア渋⾕道⽞坂

Gスクエア渋⾕道⽞坂

MMIは2019年12月、保有物件の「Gスクエア渋⾕道⽞坂」において、国土交通省が主導するCASBEE(建築環境総合性能評価システム)の新しい認証である「CASBEEスマートウェルネスオフィス評価認証」をJ-REITで初めて取得しました。同認証は、建物の環境性能だけではなくオフィスワーカー等の建物利用者の健康性、快適性の維持、増進を支援する取組みなども評価するもので、2019年にスタートした新しい制度です。IT企業など従業員にミレニアル世代が多い企業は働く人の健康や快適性を重視する傾向が強く、実際に「Gスクエア渋谷道玄坂」もそうでした。今回の認証取得は、テナントと私たちの志向がマッチした結果、実現したといえます。

2018年5月には、JRFがJ-REITとして初めてグリーンボンドを発行しました。投資法人債はこれまで、流動性の観点から参加する投資家が限定的でしたが、本起債では幅広い投資家に参加していただきました。2019年6月の2回目の起債は、70億円の5年債で、利率は当時のJ-REIT史上5年債としては最低金利となる0.2%でした。特筆すべきは、私たちのグリーンボンドを買っていただいた投資家の皆さまが、そのことを改めて開示していることです。グリーンボンドへの参加をアピールしているわけで、ESG投資拡大の一助になったかもしれません。

――J-REITで初めて、という取り組みが目立ちますね。S(社会)とG(ガバナンス)はいかがですか。

庄司氏Sについては、「ポジティブ・インパクト金融原則」に則したOTAテクノCOREの投資プロジェクトが典型的かもしれません。ポジティブ・インパクト金融原則とは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)が採択した原則で、投資家、銀行、企業、政府が一体となって、商業的に実現可能となるようなインパクトを与える解決策を考えようという取り組みです。

フォト:OTAテクノCORE

OTAテクノCORE

IIFは2019年2月、ポジティブ・インパクト投資プロジェクトとしてOTAテクノCOREに係る匿名組合出資持分の一部を取得しました。IIFを含む出資者からの出資等により組成されるSPC(特別目的会社)が、日本政策投資銀行をシニアレンダー、興銀リースをメザニンレンダーとして招聘し、OTAテクノCOREを取得。東京都の大田区が賃借人となり、大田区が工場経営者などに同物件を貸し出すスキームです。

日本の中小製造業ではいま、工場経営の継続性や職人育成が急務となっています。日本が誇る工場・技術の集積地である大田区においても同様の課題に直面しており、サステナビリティに懸念が生じている状況にありました。OTAテクノCOREは大田区が建物と場を地元産業へ提供するシェアファクトリーです。審査を経た事業者が一定の使用料を払えば、工場・設備を持っていなくても仕事ができる環境を生み出しました。これにより、中小規模の製造業者が工場を持たずに経営することを可能にしただけでなく、OTAテクノCOREに入居する複数の製造業者間でコミュニティが形成され技術承継などのシナジーが生じることも期待されています。

この案件では、IIFの「地域経済を不動産から支える」という理念と大田区の考えがマッチしました。大田区は技術承継のサポートを実現し、私たちは大田区という中長期に安定した借り主を得たたことで、投資家の皆さまの安定収益に結びつくと期待しています。

G(ガバナンス)に関しては、ESGレポートの作成が間接的に効果を生んでいます。ガバナンスの要諦は、情報開示の徹底による透明性の確保だと考えています。J-REITはもともと開示に積極的ですが、ESGレポートをつくってはじめて「これまでは伝えきれていなかった」と感じました。たとえば、実行している施策や実績などはオープンにしていますが、概念的ではなく投資家の皆さまが理解しやすい言葉で、より具体性をもって伝えていたかどうか。それを解決していくことが真の透明性といえるのではないか――。

そのような観点に立ち、ESGレポートは写真を多めに使いながら事例を重視した内容になっています。当然のことながらウェブサイトでも公開しています。たとえば、保有不動産からのCO2排出量の削減状況について一部の銘柄で停滞している事実もありますが、これが私たちの実体であり、課題でもあるわけです。簡単なことではありませんが、悪いデータや事実もオープンにして丁寧に説明するのがガバナンスで最も大事なことなのだと思います。

――J-REITでもGRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)によるESG評価を取得する動きが目立っています。その評価については、どのようにとらえていますか?

庄司氏GRESBは2009年に当社スポンサーのUBSを含む責任投資原則(PRI)を主導した欧州の投資家グループが立ち上げた仕組みで、不動産セクターの法人・ファンド単位でのESG配慮を測り、投資先の選定や対話に用いるためのツールです。ESGの進捗を測る重要な評価と考えており、私たちも2012年から参加しています。

2019年の参加社は1005社で、その資産規模は4.1兆ドルに上ります。日本からは44のJ-REITが参加しました(日本の法人全体では70社)。評価のもとになるのは、100問以上ある英文の質問にエビデンスを添えた回答書です。7項目を点数化して「実行と計測」「マネジメントの方針」という2軸でプロット。両軸のスコアが50以上になると「グリーンスター」が付与され、私たちも取得しています。

ただし昨今は、参加社のおよそ9割がグリーンスターで全体のレベルが上がっています。そのなかで最上位20%が5スター、次の20%が4スターという形で5段階の評価がされて、2019年評価結果では、MMIが5スター、JRF・IIFが4スターを獲得しました。また、各セクターの1位はセクターリーダーに選ばれます。IIFは2013年に、JRFは2018年にアジアのセクターリーダーになっています。

GRESBにおけるJ-REITの評価は全体的に高いのですが、グローバルでは環境規制の強い国・地域がどんどん評価を上げています。規制があるとテナントの理解が得られやすいですから少し不利な状況です。現在は、GRESBが重視されればされるほど高評価の獲得競争が熾烈になり、従前と同じことをしていては評価が下がってしまうほどです。投資家の判断基準になりつつあるので重視するのは当然です。幸いなことに私たちは高評価をいただいていますが、盲目的に評価を高めるだけの施策はいたしません。この点は今後も気をつけていきたいですね。

――投資主価値の最大化とESG経営を高次でバランスするための基本的な考え方を教えてください。

庄司氏私たち不動産運用業は分配金の源泉となる賃料が第一義。不動産の賃料をいかに効率よく上げていくか。そのためには、よりよい物件を買って付加価値をつけて賃料向上を目指します。一方で、不動産業は社会的責任を強く帯びている事業です。中長期で不動産を保有するという観点でいえば、将来的な気候変動のダメージは避けなければなりません。ESGに関する当社の取り組みは、将来の姿を想定し、そこから逆算して現在の課題を考えるバックキャストのアプローチになります。

投資主価値の向上には、まず、持続可能なJ-REITの運用を行わなければなりません。そのうえで、よりよいパフォーマンスを出す状況・環境をつくって将来の大きなリスクに備える。その結果が投資口価格に反映されることを期待するしかありませんし、将来のリスクを考えると、ESGへの取り組みはやらざるを得ません。

フォト:JRFの取り組み 

JRFの取り組み 

たとえば、建物の地震対策は将来の修繕費削減につながりますし、保険料が安くなることもあります。どちらも毎期の分配金に直結します。他にも、テナントのニーズも見逃せません。とくにアパレルセクターでは、買い物にいらっしゃるお客さまのESG意識が高い傾向があります。「この服はどのような過程で作られているの?」「リサイクルは可能?」、さらには「お店が入っているこのビルの温暖化対策は?」など。テナントはこのような声に対応しなければなりません。サスティナブルな経営・製品を強みにしているブランドもあるほどです。私たちとしても、これらのニーズに応える建物に仕立て上げると、同じ考えのテナントが集まってくる相乗効果が期待できます。つまり、投資主価値の最大化とESGへの取り組みは、決して相反するものではないと考えています。

ESG対応にはコストがかかるといわれていますが、私たちはいつも「中長期での投資主価値の増大につながっているのか?」と自問自答しながら取り組んでいます。J-REITの運用会社として20年近い歴史のなかで、社会的責任の大きさも痛感しています。人びとが豊かで快適に暮らせる社会づくりをするにあたって、不動産が環境や社会の課題解決に貢献できる部分はとても多いはず。ESGは短期的な効果が見えづらい部分はありますが、ステークホルダーの皆さまのご理解をいただきながら進めていきたいと考えています。

 

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