第5回

ジャパンリアルエステイトアセットマネジメントに聞く
新たなチャレンジで得た知見を業界全体で共有して絶えず進化を続けたい

コロナ禍によって大きな打撃を受けたJ-REIT市場。そんななかでも、持続可能な社会の実現に向けたESGへの取り組みは淡々と続いている。J-REITのESGを牽引しているのがジャパンリアルエステイト投資法人(JRE:8952)を運用するジャパンリアルエステイトアセットマネジメントだ。歴史と資産規模ともに市場トップクラスで、ESGに関してはJ-REITのみならず不動産業界でも最先端の1社と言えるだろう。同社ESG推進室長の小林英樹氏に、取り組みの現状と今後の展望などを聞いた。

――JREはJ-REITのなかでもESGに関する先駆的な取り組みを進めています。まずはその背景を教えてください。

小林 英樹氏フォト

ジャパンリアルエステイト
アセットマネジメント
ESG推進室長

小林 英樹

小林氏JREの運用会社である当社は、2018年4月に専門部署のESG推進室を設立しました。その1年前に社内で運用戦略の観点から今後のリートの方向性について議論しており、目標として4つの柱をつくっています。1つめがアジアのオフィスリートNo.1をめざすこと、2つめが先進的な視点を持つこと、3つめがオフィスリートとしての多様性(地域や規模など)を持つこと、そして最後がESG先進企業となることです。ESGをリート運営の重要な柱にしたのはリート運営の戦略を議論した中から生まれてきた考え方です。

社長の梅田は2016年まで三菱地所ロンドン社の社長を務めるなど、海外経験が豊富ですが、海外IRの際に欧州の機関投資家を中心にESGへの質疑・要請が高いそうです。梅田はESGの推進にあたっては、「評価機関や投資家から指摘されたこと・要請されたことに対応するだけでなく、『ESGとは何なのか』という本質をしっかり考え、開示だけでなく現場でやるべきことをしっかりやっていこう。」と話しています。

最初に明確にしておきたいのでは、「ESGは同業の間であってもお互いに高めあっていくことが可能」であるということ。同業を含めてさまざまな会社から当社にESGに関する相談を頂戴しますが、自分の経験は可能な範囲でお話しするようにしています。業界団体や公的機関などの議論にお声がけ頂ければお邪魔して、我々の知見をお話させて頂いております。

数年前まではESGへの取り組みは海外の方が進んでいました。最近では大手不動産会社やJ-REITでもESGに優れた取組みをする企業が増えてきており、海外に追いついてきているという段階です。J-REITが海外に負けないようにESGを進めていることを市場全体で投資家に対してアピールしていくことはJ-REIT業界全体にとってもメリットが大きいのではないでしょうか。

――多くの国際イニシアチブへ署名・参加しており、最近では公表データの第三者保証も始めていますね。

小林氏これは「まずは海外の進んだ取り組みから学んでいこう」という考え方によるものですが、PRI(責任投資原則)やUNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などに署名・参加しています。たとえば、UNEP FIは世界最先端のポジティブインパクト投資の実例を学ぶことができ、とても有意義な活動だと認識しています。

私自身は、GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)のベンチマークコミッティの委員を務めています。北米と欧州、アジア、オセアニアの4地域毎に分かれて、GRESBの基準を検討・策定する組織なのですが、日本からはCSRデザイン環境投資顧問代表の堀江隆一氏と2人で参加しています。最近は、自国の制度を念頭に強い主張を展開するメンバーさんもいらっしゃいます。私は英語がそれほど得意ではないので彼らの様に強い主張はできてないのですが、グローバルな競争はルール決めの場から始まっている実態を感じています。そうした中では堀江さんは日本やJ-REITの立場を積極的に代弁して下さっていると思います。

国際組織で意見交換するなかで最も強く感じていることは、「データの正確性」が重要だということです。2019年にカナダ・グリーンオーク社のESGのグローバルヘッドでありUNEP FIの不動産WGの議長でもあるアナ・マレー氏(Anna Murray)にお話を伺う機会があったのですが、、ESGの推進に大切なこととして「データの正確性」を一番に挙げられていました。カーボンやゴミの削減、社会への貢献などを考える際にも、まず自社のデータが正確に取れていることがスタートになるということです。

この指摘には十分に納得できます。たとえば当社はビルを73棟保有していますが、かつては、保有するビルの一事例を開示すれば評価の点が取れました。しかし最近では、73ビル中で数ビルでしかやっていない目立つ取り組みだけをチェリーピックのように開示しても評価されにくくなってきています。現在はポートフォリオ全体でCO2をどれだけ排出しているか、テナントとの契約でグリーンリースをどのくらいの比率で導入しているのか、ビル全体のリサイクル率がどうなっているか等、何を目標とするにしてもポートフォリオ全体での取り組みの説明やカバレッジ(比率)が求められ、内容によってはエビデンスも開示する必要があります。

そうなると、自らが計算して公開している数字では求められる正確性を担保できません。第三者の裏付けが必要になってきます。我々は国際基準であるISAE3000に準拠した第三者保証をEY新日本有限責任監査法人より取得しています。最近では国内の不動産各社も第三者保証を取得していますが、JREが第三者保証取得を開始した2017年度データへの保証は比較的早い方だったかと思います。JREでは2019年度データよりエネルギーのみならず廃棄物(ゴミ)についても第三者保証を取得しています。 

廃棄物データへの保証が遅れた最大の理由は、ビルによってデータの収集方法がまちまちだった為です。ビルによっては再利用計画書提出のタイミングで年1回のデータ集計しか行わないケースも散見されました。JREではこうした状況を改善すべく廃棄物データ分類の見直し・廃棄物データマニュアルを作成、プロパティマネジャーの皆様に毎月のデータ収集・入力からお願いをしました。こうした取組みの結果廃棄物データについても第三者保証を頂戴することができました。ゴミのリサイクル率を上げるためにはまず分別。そのための対策を立てるにもデータの正確性がスタートとなります。JREとしては廃棄物についてはようやくスタート台に立てたという印象をもっています。 

――データの正確性が重要であり、そのためにはビルの現場の協力や取り組みが欠かせないということですね。2019年9月に三菱地所と共同で「サステナビリティガイド」を出したのもその一環ですか。

小林氏そうですね。サステナビリティガイドを出すにあたって最も気をつけたのは、我々の「働き方改革」で得たデータを極力開示することでした。従業員の満足度、紙使用量やキャビネ本数、エネルギー消費の減少率、また偶発的コミュニケーションの増加率等、三菱地所とJRE-AMが実際に得たデータが今後オフィス改革を目指すテナントの皆さんのお役に立つと考えたからです。こうした取組みに共感して頂いたテナントさんがオフィスの改修工事をする、あるいは、その取り組みをめざして新しいテナントさんが我々のビルにご入居いただくなど、ビジネスチャンスになり得るのではないかというトライアルでもありました。

フォト:「サステナビリティガイド」の表紙

「サステナビリティガイド」の表紙

データを正確に把握するにあたっての主役は、ビル現場のマネージャー=プロパティマネージャー(PM)です。PMの意識を上げることが重要ということで、我々は3年ほど前からPM向けの説明会を開催しています。最初はPM向けに「ESGをしっかり理解して、それからお客さんに接してほしい」という趣旨でしたが、PM向けだけでは難しいとわかって対象を広げていきました。現在では、共同事業者やリートのスポンサー、(同じスポンサーである)関連のリート、三菱地所の関係各部など200人近くが参加しています。参加者自身も社会からの要請の声の多さから、ESGに対する知識欲が高まっていたようです。説明会後のアンケートで頂戴した参加者のご意見は概ね好評であり、JREとしてもこうした説明会を開催することで、ステークホルダーの意識はだいぶ変わったという実感があります。

他にも年に1回PM向けアンケート調査をおこない、ビルごとの取組みを分析したうえで対面のフィードバックを実施しています。評価の向上を促すというよりは、我々の具体的なメッセージを伝え、また現場の声をきくことを目的にしています。廃棄物データを筆頭に、正確なデータを収集・把握するためには現場の理解と協力が欠かせません。我々のやってほしいことだけを現場に投げ掛けるのではなく、なぜそれが必要なのか、世の中がどう動いているのか、などを丁寧に説明すれば皆さん納得して頂けます。現場の意識を変えるためにPMや共同事業者との対話を重視する取り組みはJREにとって非常に重要なことと考えております。

――2020年5月に環境関連の主要目標(KPI)を設定するだけでなく、その達成可能性まで検証したロードマップを公表しました。興味深い取り組みですが詳しく教えてください。

フォト:JREが公表したCO2削減等のKPI

JREが公表したCO2削減等のKPI

小林氏まずCO2削減に関してですが、削減量の公表は不動産業界では決して早い方ではないですし、削減率35%という数字も取り立てて珍しいものではありません。JREのユニークな点を申し上げるとすれば、削減率だけでなく60-CO2kg/m2にするという目標削減量(原単位)も公表したことでしょう。たとえば、EU域内でのESG指標である「EUタクソノミー」には、不動産については「その地域や国でエネルギー効率の優れた上位15%をグリーンとみなす。具体的なしきい値は追って地域ごとにCO2-kg./㎡の原単位にて設定していく」と明記されています。CO2の削減率はもちろん大切ですが、上記EUの様な動きから今後は建物の排出原単位(CO2-kg/㎡)が脱炭素に向けた重要な指標になっていくと感じています。

EUタクソノミーは欧州におけるサステナビリティの方向性を示したもので、そのような動きと同調して欧州の機関投資家が中心となったCRREM(カーボン・リスク・リアルエステイト・モニター)があります。日本からGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も参加しています。CRREMはCO2排出原単位を指標とした「脱炭素経路(De-Carbonization Pathway)」を用途別・国別に設定しています。CRREMによると例えば日本におけるオフィスビルの「脱炭素経路」は2℃シナリオの場合、2018年のスタートが91.2kg-CO2/m2、2030年ターゲットが55.8kg、2050年ターゲットが12.5kgとなります。機関投資家は投資先のCO2排出原単位が「脱炭素経路」より上回った場合には、超過炭素総量を定量化してリスクとみなす運用を徐々に取り入れていくと伺っています。

次にZEBに関して。正確には「Zero Energy Building」といい、快適な室内環境を実現しながら消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることをめざしたビルのことです。グリーンビルディングの世界的な組織であるWGBC(World Green Building Council)はZEBの普及に取り組んでいますが、日本では建設コストとの関係もあり普及はまだ道半ばの状態です。我々としてはJREの様な企業がZEBを目標に掲げることで業界のZEBに対する意識が少しでも向上すれば良いのではないかと考えております。そうした状況の下、JREはこの10年で少なくともZEBを5棟(から10棟)保有すると公表しました。

三菱地所設計の協力で実際のビルを用いておこなった検証でも、既存保有ビルの改修によるZEB化の実現性を見出すことができました。現在は2棟が検証済みで、今後はZEB化の設計・申請・着工という具体的なアクションに入っていきたいと考えています。 

KPI達成の可能性について考えてみると、CO2削減は実際かなりコスト(と投資)のかかるアジェンダになります。具体的な方法は主に3つ。1つめは、保有物件の入替え、2つめは保有ビルの改修工事によるエネルギー効率の向上、3つめは再生エネルギー(再エネ)の導入です。いずれの方法も大きなコストや投資を伴うものでありリートの業績にも影響してくるため、どの手段をどの程度採用していくかについては慎重に検討していく必要があります。

自敷地における再生エネルギーの生成は、郊外の物流施設やショッピングセンターなら広い屋上や自敷地内に追加でソーラーパネルを設置できますが、敷地面積や屋上部分が限られる都心の高層ビルでは実現困難です。 

グリーン電力証書の購入は改修等の投資を伴わない手段であり、最近では大手不動産会社もRE100 署名企業が増える等今後大きく広がる分野と考えています。 

JREでも既に11ビルで導入実績がありますが、現状では1kWhあたり2~5円程度のコストアップとなります。価格が下がることを期待はしますが、将来に渡り価格が変動・上振れする可能性もあるので、グリーン電力購入を拡大していくことは時々の価格を注視しながら慎重に進めていく必要があると思います。

――工事というのはビルが定期的に行う改修工事のことですね。その際にCO2削減のための工事を一緒にやってしまおうと。

小林氏三菱地所設計の検証を通じて35%の削減目標の内25%程度は改修工事により削減可能だとの結論を得ました。具体的な対策の一つとして、空調能力のオーバースペックの是正があげられます。現状JRE保有物件の平均築年数は約18年となりますが、設計段階では空調容量を保守的(大き目の数値)に見積もっていたケースが殆どだと考えています。逆に稼働している既存ビルは既にエネルギー消費データを持っているので、実績をもとに適正な空調容量を割り出すことは難しいことではありません。真夏のピーク時でもどの程度容量を確保すれば良いかを割りだすことで、サイズダウンを図ってもテナントの皆様にご迷惑をおかけすることはありません。

フォト:2030年へのCO2削減のロードマップイメージ

2030年へのCO2削減のロードマップイメージ

我々はさらに検証を進めて、通常の改修工事に加算される空調設備の刷新(容量ダウンや高効率型の導入)などCO2削減工事のみのコスト=エキストラコスト(EC)を算出しました。

上記3つの削減方法についてはそれぞれ、①保有物件の入れ替え=約27%削減でECは無し。②改修工事=約30%削減でECは約11億円。③再生エネルギー=約32%削減でECは約32億円という結果が出ました。

②③のエキストラコストは決して安いものではありませんが、目標の達成に向けては適正な範囲内と考えました。また実際の一次エネルギー使用量が下がれば電気代等のユーティリティコストの削減も期待できます。このように、設計会社と共同でビルを検証し、エキストラコストまで算出してロードマップを公表したケースはJ-REITで初めてだったと思います。

――現在はコロナ禍の最中であり、日本経済に大きな影響を及ぼしていることはもちろん、リート運営もたいへんな時期に直面しています。そのなかでESGに注力している理由を改めて教えてください。

小林氏我々も投資口価格が3月下旬に大きく下落、その後持ち直しましたがコロナ前の状況には戻っていません。企業のリモートワークが進んでいる中で「オフィス不要論」も散見され、投資家にネガティブな見通しを持たれているのかもしれません。

私は1991年入社で、バブル崩壊とリーマンショックという大きなリセッションを経験しています。その度に多くの企業がリストラを含む大きな経費削減などの波を経験しました。いまにして思えば、本来必要だったものまで失ったような気がします。この状況で同業の仲間とよく話すのは「近年せっかく盛り上がってきたESGの高まりがリセッションによって沈下しないようにしよう」ということです。 

最近では、コロナ禍からの経済再生と脱炭素社会への移行を両立させる「グリーンリカバリー」という考え方も出てきています。幸いなことに、現在は投資家や我々プレーヤーは「ESGはコロナ下・アフターコロナであっても依然として重要である」という流れになっています。今後もこの流れを絶やさずに関係者として何らかの一助になりたいですね。冒頭にも述べましたが、ESGは競い合うだけでなく、同業の皆さんと高め合えると考えています。同じ立場の人と手を取り合ってESGの機運をさらに高めていきたいと強く思っています。 

 

※本記事は2020年8月26日に行った取材を基に作成したものです。掲載内容や肩書は取材当時のものです。

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