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第9回 株式会社三井住友トラスト基礎研究所私募投資顧問部 主任研究員 菊地 暁 J-REITはESGトップランナーとして躍進、公表内容はさらに充実 ~「GRESBリアルエステイト評価2022」参加実態の考察~

2022年公表の「GRESBリアルエステイト」(以下「GRESB[1]」)では、J-REITは25銘柄が5Starを獲得、アジアセクターリーダーに9銘柄が選出されるなど、トップランナーとして躍進した。すでに多くの投資法人が環境パフォーマンス実績値(GHG排出量、エネルギー消費量、水消費量、廃棄物量)を把握し、時系列で公表をしているが、5Star・4Starを取得した投資法人のほぼ全てがGHG排出量、エネルギー消費量を公表しており、レーティングと公表率には強い相関が認められる。つまり、高いレーティングを獲得するためには、環境パフォーマンス実績値の把握と、GRESBへの開示が必要条件であると言える。

今後GRESBの評価のポイントは、目標値に対する進捗率や原単位での絶対水準比較に移っていくと考えられる。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応では、気候変動による「リスクと機会」に関連する事業インパクト評価、シナリオ分析に基づく財務インパクト推計値の開示と、その推計値の第三者保証が重要となろう。GRESBで高い評価を得るためには、TCFD対応は避けて通れず、逆にGRESBに参加して高評価を目指すことは、必然的に気候変動問題を考え、行動する契機となる。気候変動対策はもちろんのこと、他の環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の課題に関しても、GRESBによる評価がJ-REITを含めた不動産ファンドとステークホルダーの有益なエンゲージメントツールとなり、業界のESG取組がより一層推進されることが期待される。

2022年は15銘柄が格上げ、5Starは25銘柄に増加

小林 英樹氏フォト

株式会社
三井住友トラスト基礎研究所
私募投資顧問部
主任研究員

菊地 暁

2022年10月にリリースされた「GRESB 2022年評価結果」(CSRデザイン環境投資顧問㈱)によると、日本におけるGRESBへの参加者数は122(2021年:109)と引き続き増加となった(図表1)。このうちJ-REITの参加者数は57銘柄(2021年:55銘柄)で、全61銘柄(2022年10月現在)に対する参加率は93.4%まで高まっている。セクター別でみると、複合型・総合型およびボテル特化型以外の参加率は100%となった(図表2)。時価総額ベースにおける参加率は既に99.3%(2021年:98.6%)に至っている。また、J-REITに留まらず、私募REITからは15社(2021年:12社)が参加するなど、GRESBは不動産ファンド等のESGへの配慮を測る共通指標となっている。

総合スコアの相対順位で決められるレーティングの獲得状況をみると、ここ数年は格上げが格下げを上回る状況が続いており、2022年は格上げが15銘柄に増加、中にはCREロジスティクスファンド投資法人のように3Starから5Starに2段階格上げする銘柄もあった(図表3)。一方、格下げは4銘柄にとどまり、引き続き高い水準でESGの取組が行われている状況が窺える。2022年調査結果では5Starが25銘柄に増加、GRESB参加者57銘柄の44%(2021年:31%)を占めた(図表4)。この結果、レーティングの平均値は3.84(2021年:3.76)に上昇し、2017年以降では最も高いスコアとなった。

[1] 不動産会社・ファンドの環境・社会・ガバナンス(ESG)配慮を測る年次のベンチマーク評価およびそれを運営する組織の名称であり、責任投資原則(PRI)を主導した欧州の主要年金基金グループを中心に2009年に創設された。GRESBリアルエステイトは、GRESBファミリーを構成する評価のひとつであるが、ここでは、GRESBリアルエステイトのみに言及しているため、略称としてGRESBとした。

●図表1:GRESB参加者数の推移

図表1:GRESB参加者数の推移

●図表2:セクター別参加状況(J-REIT)

図表2:セクター別参加状況(J-REIT)

●図表3:参加者レーティング 前年からの変化(J-REIT)

図表3:参加者レーティング 前年からの変化(J-REIT)

●図表4:GRESBレーティング構成割合の推移(J-REIT)

図表4:GRESBレーティング構成割合の推移(J-REIT)

注)参加率はJ-REIT・時価総額ベース(2022年10月4日時点)、各年の参加者数は発表当時のもの。セクター区分は、当社定義に基づく。 各年ともに評価結果非公表を除いて算出

出所)CSRデザイン環境投資顧問㈱公表資料、J-REIT各社公表資料等をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

アジアセクターリーダーにはJ-REITから9銘柄が選出

2022年調査結果では、アジア地域の各セクターにおいて総合スコアで最高得点を取得した参加者、および得点差1点以内の参加者に認定される「アジアセクターリーダー」にJ-REITから9銘柄が選出された(図表5)。2021年調査結果では、J-REITは4銘柄の選出に留まっていたが、2022年調査結果では9銘柄にまで増え、ここ数年でみても非常に多くの選出となった。住宅セクターでは、アドバンス・レジデンス投資法人が初の4Starを取得してアジアセクターリーダーとなり、これまでエネルギーデータ取得等の課題により住宅セクターの「アジアセクターリーダー」は3Starが最高位であったが、2022年調査結果ではこの記録を塗り替えた。

このほか、グローバルセクターリーダーには4銘柄が選出されるなど、J-REITにおけるESGの取組状況は世界トップクラスであることがわかる。

●図表5:アジアセクターリーダー選出銘柄(J-REIT投資法人のみ掲載)

図表5:アジアセクターリーダー選出銘柄(J-REIT投資法人のみ掲載)

注)各地域の当該セクターにおいて総合スコアで最高得点を取得した参加者、および得点差1点以内の参加者を「セクターリーダー」として認定。
出所)CSRデザイン環境投資顧問㈱公表資料、J-REIT各社公表資料をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

環境パフォーマンス実績値の開示が重要な評価ポイントに

GRESBは2020年にコンポーネント制導入にあわせた設問の改訂や採点基準の変更を行った。その結果、GHG排出量等の実績がより強く評価に反映される評価体系となり、これまでエネルギー消費量やGHG排出量のモニタリングを続けてきた投資法人には有利な配点となっている。J-REIT全銘柄の環境パフォーマンス実績値の公表状況についてみると、エネルギー消費量は84%(2021年:69%)、GHG排出量は82%(2021年:69%)、水消費量は80%(2021年:66%)、廃棄物量は64%(2021年:52%)と、いずれも進展した(図表6)。レーティング別にみると、5Star・4Starでは、ほぼ全銘柄が環境パフォーマンス実績値を公表している。以下、レーティング順に公表率は低下するものの、3Star以下も公表状況に進展がみられた。これら環境パフォーマンス実績値は、ステークホルダーがJ-REITの省資源活動状況を把握するための有効な情報である。さらに環境パフォーマンス実績値について、ホームページ掲載の文言等を丁寧に見ていくと、第三者保証が増えていることに気付く。既に、GRESBでは配点増加項目のひとつとしてあげられているが、今後、数値の客観性を担保するためにも監査法人等による第三者保証は重要な評価ポイントとなるであろう。

●図表6:環境パフォーマンス実績値の公表状況(レーティング別)

図表6:環境パフォーマンス実績値の公表状況(レーティング別)

出所)J-REIT各社公表資料等をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

ただし、図表6に示したGHG排出量の開示区分は、投資法人によってまちまちである。具体的には、Scopeを示さずに総量のみのケース、Scope区分は行っているがScope1・2[2]のみのケース、Scope1・2・3まで公表しているケースがある(図表7)。5Star・4Starといった高レーティングの投資法人はScopeを区分しての公表に積極的である。TCFD提言が示す「指標と目標」では、GHGプロトコル[3]等の国際ルールと整合性のある方法でScope1・2・3[4]までのGHG排出量を算出し、時系列での開示が推奨されている。今後はScopeを分けた統一的な開示基準ができれば比較可能性が高まると考えられる。

●図表7:GHG排出量開示におけるScope区分状況(レーティング別) 

図表7:GHG排出量開示におけるScope区分状況(レーティング別) 

出所)J-REIT各社公表資料等をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

[2] Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1・Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
[3] GHG 排出量の算定と報告の基準を開発し、利用の促進を目的としたイニシアチブ
[4] これまで出資比率基準での報告が一般的であったが、報告基準の明確化により、経営支配力基準での報告(テナント専有部からの排出をScope3とする)が一般的になりつつある

ESGレポートの公表状況とレーティングには相関がみられる

J-REITにおけるステークホルダーとのエンゲージメントツールとしては、ホームページでの取組状況の紹介が代表的であるが、これにとどまらず最近ではESGレポート・サステナビリティレポート等(以下、「ESGレポート」)の発行件数が増えてきている。現在、ESGレポート等を公表する投資法人は31に拡大しており、数年前には数銘柄程度であった状況を顧みれば隔世の感がある。ESGレポートを公表する投資法人のレーティング内訳をみると、その6割強は5Starを獲得している(図表8)。また、レーティング別にESGレポートの公表状況をみると、レーティングとESGレポートの公表状況は相関関係にあることがわかる(図表9)。

2022年調査結果はコロナ禍前の稼働状況に戻った結果、グローバルレベルでエネルギー消費量、GHG排出量、水消費量が増加し、GRESBのスコアが低下した。経済活動の回復によりエネルギー消費量等が増加するのは当然ではあるが、その状況でもJ-REITは中長期的な削減目標を掲げ、省資源に取り組み、その進捗状況をレポーティングしており、この中長期的な削減目標達成までの道程を公表する姿勢は評価されるべきものである。ESGレポートもまた、ステークホルダーと対話するための重要なエンゲージメントツールであり、ESGレポートを公表する投資法人は今後増えると見込まれる。

●図表8:ESGレポートを公表する投資法人のレーティング内訳

図表8:ESGレポートを公表する投資法人のレーティング内訳

●図表9:レーティング別ESGレポート公表状況

図表9:レーティング別ESGレポート公表状況

出所)J-REIT各社公表資料等をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

TCFD賛同企業が急増。
具体的なTCFD対応が重要なポイントとなる

既述のとおり、2020年の評価体系の変更によってGHG排出量等の実績がより強く評価に反映されるようになった。今後GRESBの評価では、気候変動による「リスクと機会」に関する事業インパクト評価、シナリオ分析に基づく財務インパクト推計値の開示と、その推計値に対する第三者保証が重要なポイントとなると考えられる。具体的な設問構成としては、TCFD提言での推奨枠組に準拠し、組織の事業戦略に気候関連リスクに関連するレジリエンスを組み込んでいるか、また組織がどのようにして「リスクと機会」を特定し、評価・管理しているかなどが挙げられる。

2022年9月22日時点でTCFDに賛同している投資法人数(資産運用会社のみの賛同を含む)は44(2021年:18)と大幅に増加し、全銘柄の72%がTCFDに賛同する状況となった(図表10)。レーティング構成比をみると、5Starが24銘柄と全体の55%を占め、4Starまでで合計33銘柄・75%を占めている。同様に、TCFD提言に沿った気候変動による「リスクと機会」に関する事業インパクト評価をホームページに掲載している投資法人では、5Starが23銘柄と全体の62%、4Starまでで合計30銘柄・81%を占めており(図表11)、高レーティングの投資法人ではTCFD対応が進んでいる状況が窺える。

●図表10:TCFD賛同投資法人のレーティング

図表10:TCFD賛同投資法人のレーティング

出所)J-REIT各社公表資料等をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

●図表11:事業インパクト評価を公表する投資法人のレーティング

図表11:事業インパクト評価を公表する投資法人のレーティング

出所)J-REIT各社公表資料等をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

GRESBを活用してESGへの取組、TCFD対応を推進する

以上見てきたとおり、すでに多くの投資法人が環境パフォーマンス実績値を時系列で公表している。今後は実績値の公表のみならず、目標値に対する進捗率や原単位での絶対水準比較が評価のポイントになろう。さらに、TCFDが要請するシナリオ分析では、改修工事費用、再生可能エネルギー導入等による光熱費コストアップ、炭素税や排出権取引に係る費用等、様々な要因による財務インパクトの推計等も重要な評価項目となる可能性が高い。今後、GRESBで高い評価を得るためには、TCFD対応は避けて通れず、逆にGRESBに参加して高評価を目指すことは、必然的に気候変動問題を考え、行動する契機となる。気候変動対策はもちろんのこと、他の環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の課題に関しても、GRESBによる評価がJ-REITを含めた不動産ファンドとステークホルダーの有益なエンゲージメントツールとなり、業界のESG取組がより一層推進されることが期待される。


菊地 暁氏プロフィール
(一財)日本不動産研究所を経て、2008年3月に(株)住信基礎研究所(現:(株)三井住友トラスト基礎研究所)に入社。2013年7月より私募投資顧問部に配属、不動産私募ファンドのデューデリジェンス・モニタリング業務に従事。これに並行して、2013~2015年には環境不動産普及促進検討委員会の事務局にて環境不動産関連情報の収集・整理、グリーンリース・ガイド作成までの一連の業務サポートに携わった。
研究・専門分野はESG、TCFD、環境不動産など。
2020年度 国土交通省 不動産分野におけるESG-TCFD実務者ワーキングメンバー。
2021-2022年度 国土交通省 不動産分野の社会的課題に対応するESG 投資促進検討会 委員。
2022年度 公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会 自然災害リスクに関する鑑定評価検討に関するワーキングメンバー。不動産鑑定士。

 

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