2030年には再エネ比率を36~38%程度とする第6次エネルギー基本計画が閣議決定されるなど、今後はより一層の再エネの導入が見込まれることに伴い、更なる発展が期待される東証インフラファンド市場。上場銘柄が保有する施設は、市場開設以来長らく太陽光発電所に限定されていましたが、2023年2月にはエネクス・インフラ投資法人にて初の風力発電所の取得が実現しました。実は、風力発電所は、様々な設備・機器から構成されており、これらが効率的に組み合わさって電気を生み出しています。
今回の特集では、エネクス・インフラ投資法人が保有する胎内風力発電所の運用・保守を行うエネクスエンジニアリング&サービス株式会社 千秋 源次氏(以下「千秋氏」)に、風力発電所がどのような機能を有しているのかについて、ご解説いただきました。
本日はよろしくお願いいたします。まず、胎内風力発電所と、エネクスエンジニアリング&サービス株式会社の概要を教えてください。
千秋氏胎内風力発電所は、新潟県胎内市の日本海沿岸に位置し、2014年から発電を行っています。発電容量2MWの風車が10本、日本海沿岸に約7kmに渡って建てられています。
この風力発電所で、一般家庭約11,000(=34,552kWh÷2,974kWh)世帯分の電力を生み出しています。
エネクスエンジニアリング&サービス株式会社では竣工時よりこの施設の運営・管理を行っています。胎内風力発電所の運営・管理を行うJEN胎内ウインドファーム事業所には4名の従業員がおり、日々、風車のメンテナンスや発電状況等のモニタリング活動を行っております。
風車の基本的な構造を教えてください。

千秋氏こちらの風車はプロペラ式風車という種類で、大きく分けて、ブレード、ナセル、タワーの3つの部分から構成されています。
ブレードは1枚あたり40メートル程度で、FRP(Fiber Reinforced Plastics=繊維強化プラスチック)で作られており、重さは約7トンです。
風車の向きは、風見鶏のように風に合わせて自動で向きを変え、効率良く風を受け止めるようになっていますが、ブレード自体も傾きが変わるようになっており、機械で制御されております。台風などの風が強すぎる場合は、風車が損壊しないよう、風を極力受けない垂直方向にブレードの向きを変えます。(カットアウト)
ハブは、風車の中心に位置する部品です。ブレードで受けた風の力を、ナセル内の発電機に伝える部分ですが、各ブレードとハブとの接合部にはモーターが組み込まれており、ブレードの向きを制御しています。風速計で得られた風量を基にブレードの向きを調整し、最も効率よく発電ができるように制御していて、台風などのカットアウト時にブレードの向きを垂直にするのも、こちらのモーターで調整しています。

ナセルは増速機や発電機が入っており、風力発電所の心臓部と言えます。
増速機は車のギアのようなもので、風の強さに合わせて歯車を切り替え、効率的に発電機に力を伝えます。発電機は一分間に最高約1,900回転します。
風量によって発電量は変わるものの、外側のブレード部分の回転数はほぼ一定です。風が弱くても強くても一分間に11-19回転となるよう保たれています。(強風時や風が弱すぎる時は止まっています)
タワーは60メートルあり(全長は約100mあり、ビルの25階程度の大きさに相当します)、内部はほぼ空洞になっていてPCS(パワーコンディショナー)等が設置されています。エレベーターが設置されているものもありますが、こちらの発電所ではないので、メンテナンスの度にハシゴで登ります。

主な風車メーカーはベスタス、ゴールドウィンド、GE等で、こちらの発電所では日立製作所のものです。2019年には、日立製作所が風力発電機の生産から撤退し、現在日本には風車メーカーが存在しない状況です。もし風車に故障が生じた場合でも対処できるよう、代替部品の選定、調達ルート等の対応策の検証を平時より行っています。
大きさは、タワーの高さが40メートル程度から100メートル超のものまで様々ですが、大型の方が発電効率が高く、年々大型化する傾向にあります。
一般的な風力発電所の特徴を教えてください。
千秋氏太陽光発電所は、日射のある日中のみの発電で、夏場に発電量が多くなりますが、風力発電所は昼夜問わず発電が可能で、日本海側からの季節風が強くなる冬場に発電量が多くなります。
胎内風力発電所の風車の特徴や、他の陸上風力との違いがあれば、教えてください。
千秋氏こちらの発電所では、夏よりも冬場の方が多くの発電を行っています。冬の西高東低の気圧配置によって日本海からの力強い風が得られることから、冬場により多くの発電を行う事ができます。
夏の平均風速は冬の半分程度しかない場合もありますが、この期間に修繕や工事など必要なメンテナンスを行い、発電所が停止する時間がなるべく短くなるようにしています。
また、胎内風力発電所の風車は、ダウンウインド方式と呼ばれる、風車の後ろから風を受ける構造です。ナセルの角度がやや傾斜しており、吹上る風に強い構造で、沿岸部や山頂等によく採用されている。
エネクスエンジニアリング&サービス株式会社の主な作業内容を教えてください。
千秋氏風車の状態のモニタリングやメンテナンスが主な作業です。
モニタリングは、風車の回転数や発電状況、各機器の振動・温度など発電施設自体に係るもの以外にも、風況や気象予報など外的環境についてもチェックをしています。なかでも気になるのは落雷です。日本海沿岸は日本でも落雷の多い地域です。避雷針によって電流を地面に流す対策が施されているため、落雷があっても直ぐに故障するわけではないのですが、異常がないか注意深く点検を行います。
モニタリングを行うなかで何か異常を検知した場合には、異常がみられた風車の稼働を止めて、安全を確保した上で現地調査を行います。必要に応じて、異常が検知されなかった風車についても調査を行い、予防策を講じる事もあります。
メンテナンス作業は、風車の外観や敷地周辺の状況チェックから、風車を上って部品の状態確認や交換などを行います。毎日2本程度の風車に上って、タワーやナセル内部での確認作業を行います。エレベーターがないので、新入社員の頃は風車に上るだけで疲れ果ててしまっていましたが、慣れてくるとうまく脚の力を使って楽に上れるようになり、現在では5分程度で登れるようになりました。ナセルの上に出ると、日本海を挟んで佐渡島が、内陸側には飯豊連峰が気持ちよく見渡せます。
一見同じように見える風車ですが、実は風車ごとにクセのようなものがあり、摩耗しやすい箇所や点検で注意を要する部分が異なります。このクセについては日々のモニタリングやメンテナンスなど長年の経験を通じて把握することが出来るものです。異常とは言えない状態であっても、各風車のクセを把握し、事前に対策を行っておく「予防」も重要な作業の一部だと考えています。

千秋 源次 氏
エネクスエンジニアリング&サービス株式会社
JEN胎内ウィンドファーム事業所
2017年にエネクスエンジニアリング&サービス株式会社入社。
胎内風力発電所における、日々の発電状況のモニタリングや必要な部品の調達、高所での作業やメンテナンス、風況や雷雲の監視など、風力発電所の安定稼働を現場で支えるプロフェッショナル。
●胎内風力発電所の概要(2023年8月31日時点)
設備容量 | 20,000.00kW |
---|---|
風車基数 | 10 |
発電出力 | 20,000.00kW |
調達価格 | 22円/kWh |
調達期間満了日 | 2034年8月31日 |
買取電気事業者 | 東北電力ネットワーク株式会社 |
想定年間発電電力量 | 34,552.000kW |
想定設備利用率 | 19.7% |
オペレーター | エネクス電力株式会社 |
EPC業者 | 三井E&S造船株式会社 |
風車メーカー | 株式会社日立製作所 |
O&M | エネクスエンジニアリング&サービス株式会社 |
敷地面積 (注) | 65,508㎡ |
敷地の権利形態 | 所有権、地上権、区分地上権、賃借権 |
機種 | HTW2.0-80 |


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